( 324518 ) 2025/09/15 05:38:36 0 00 富士急ハイランドには、待ち時間無しでアトラクションに乗れる高額チケットがあるのをご存じだろうか(筆者撮影)
夏のある日。気温は37度を超えている。私は某テーマパークのアトラクションに並んでいた。日光を遮るものはほとんどなく、刺すような日差しが私に襲いかかる。体は汗ぐちょぐちょ。隣の子どもは、もう、ふてくされていて、一心で「帰りたい」オーラを出している。
こんなとき、待つことなくすべてのアトラクションに乗れる夢のようなチケットがあれば、どんなに嬉しいことだろうか。それがいくらだろうが、買ってしまうかもしれない……。
実は、そんな夢のようなチケットが、とあるテーマパークにある。富士急ハイランドだ。
今回は富士急ハイランドがぶち上げた「高額課金チケット」の背景と、その効果について考えたい。
■富士急回り放題の5万円プレミアムパス
冒頭のテーマパーク描写は、私の色々な思い出を組み合わせたフィクションだ。しかし、多かれ少なかれこのように思った人は多いのではないか。
そして、すべてのアトラクションに乗れる夢のようなチケットは、実際に富士急ハイランドにある。
先日、富士急ハイランドは人気アトラクション12種類に待ち時間無し(正確には、待ち時間をグッと短縮)で乗ることのできるプレミアムチケットの販売を発表した。「FUJIYAMA」や「戦慄迷宮」「鉄骨番長」など、有名アトラクションはこれで軒並み乗ることができる。
お値段は、5万円。優先入園、絶叫優先券対象12機種の絶叫優先券、がセットになっている(1回利用のみのアトラクションもある)。
え、高い……と思う人がいるかもしれない。ただ、対象となっている12種類の主要アトラクションは休日であれば数時間、平日でも相当の待ち時間を覚悟しなければならない。平均しても、60〜180分ほど待つのはザラで、1日では回りきれない。
高いお金を払ってでも効率よくパークを回りたい顧客には需要があるのだろう。
■1日10枚限定の「厚利少売」の試みだ
また、このパスは1日に10枚限定でしか売り出されない。少ない人に、高いお金を払ってもらうサービスなのだ。もちろん、今後この枚数が増えていく可能性はあるだろうが、「厚利少売」モデルの施策を本格化させてきたと言える。
富士急ハイランドがこうした施策を打つ背景には、業績がインバウンド観光客によって底上げされていることがある。親会社である富士急行の業績は、2026年3月期で3期連続の増収増益を達成する見通しである。
世界遺産・富士山の麓でインバウンドにとって最高のロケーションであるのに加え、2023年からは世界最大の旅行検索サイト「Klook」とのコラボレーションも行っている。また、今年からはさらなるインバウンド客誘致に向け、国内ではまだ市場規模の小さいインドの観光客を誘致する施策を打ち始めた。
インバウンド観光客が増加するなか、海外から来る人は頻繁にパークを訪れることができず、せっかく多くのアトラクションに乗りたくても乗れないことがある。そのため、少し値は張っても効率よくパークを回ることができるチケットに商機を見出したのだろう。
一方、富士急ハイランドの施策は、こうした要因に加えて、国内のテーマパーク市場の動きも見据えての判断だったのではないかと筆者には思える。
というのも、こうした課金性の「優先パス」はさまざまな遊園地・テーマパークで見られる動きだからだ。
■テーマパークは3万円ないと楽しめない!?
例えば、日本を代表するテーマパーク・東京ディズニーリゾート。同パークでは、コロナ禍以後、「DPA(ディズニー・プレミアアクセス)」というチケットを導入している。これは、アトラクションの優先チケットで、1アトラクションにつき1500円〜2500円がかかる。かつて、アトラクションの優先パスは「ファストパス」という無料チケットだったが、より効率的にパーク体験をしたい人は課金をすることになった。
つい最近筆者もディズニーシーに遊びに行ったのだが、入場料8900円とDPA2種類で3500円、さらにそこにご飯代、交通費が加わり、2万円〜2万5000円という金額になった。筆者はわりあい東京ディズニーリゾートから近いところに住んでいて、交通費がさほどかからないことを考慮すると、一般的には一人3万円弱ぐらいは見ておいたほうがいいのだな……と感じた。
筆者が中高生のころは、入場料が5000円ぐらいで、課金チケットもなし、とにかく体力でファストパスを取りまくり、合計予算1万円以内でがんばって済まそうとしていたが、そんな時代もはるか彼方。
西のテーマパークの代表選手・USJも同様だ。「ユニバーサル・エクスプレス・パス」という名前で、アトラクションやエリアへの優先チケットを購入することができる。課金幅は広く、1枚売り(つまり、アトラクション1種類)が2500円〜5000円で、プレミアム(13枚+エリア入場確約券2枚セット)になると、3万5000円〜6万円という高額チケットになる。
これまた私の知人が最近、東京からUSJに遊びに行ったのだが、諸々の費用をあわせれば、軽く1人3万円には到達したという。しかも、東京から行く場合そこに2万円弱の交通費も加算される。ざっと1人5万円ほどだろうか。
テーマパークは3万円を見ておかねばならない時代に到達しているのかもしれない。
■いい体験をしたければ、お金を払うのだ
また、そのUSJをV字回復させた森岡毅氏が自身の会社で作り上げたのが「ジャングリア」。今年の7月、沖縄に誕生した。近年では稀に見る大型のテーマパーク開発案件で、開業当初から(色んな意味で)大きな話題となっている。
このジャングリアも近年のテーマパークらしく、多くの優先課金チケットを用意している。それぞれのアトラクションには「プレミアムパス」という優先チケットがあり、これが1980円〜2640円。また、東京ドーム何個分もある広大な敷地ではあるが、屋内型レストランは1つしかなく、ディナーはコース予約をした人だけが入れる。
そもそものキャパが違うから比較するのは酷とは思いつつ、多くのレストランにふらっと入れるディズニーランドやUSJよりも過酷かもしれない。
さらに、ジャングリアのアトラクションは1人当たりの体験時間が長いものが多く、回転率が通常のテーマパークのアトラクションと比べて悪い。そのため、特にジャングリアの開業当初はプレミアムパスを買わなければ、アトラクションに乗れないし、炎天下で長時間待たないといけない……ということも報告されている。ジャングリアの1Dayチケットは大人6930円なので、もしアトラクションにまったく乗れなかったら、夫婦関係や友人関係に悪影響を及ぼす可能性もある。
現在では客足も落ち着きつつあるので状況も変わっているかもしれないが、少なくとも開業当初は「課金ありき」の側面が強いパークだった。ある意味、お金面でもテーマパーク業界を牽引する存在とも言えそうだ。
では、そんな「ジャングリア」で、入場料以外無課金で過ごすとどうなるのか? 後編記事では、おもしろ半分でそんな選択をしてしまった愚かな筆者の後悔を述べつつ、批判されがちな「課金至上主義」を中立的な立場から考えていきたい。
■後編で紹介している画像はこちら
谷頭 和希 :都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家
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