( 324566 ) 2025/09/15 06:36:19 1 00 老後資金に余裕があるのにお金を上手に使えない人が多い中、Aさん夫婦の例を通じて、資産の隠蔽が家族関係にリスクをもたらすことが説明されています。 |
( 324568 ) 2025/09/15 06:36:19 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
「老後資金には十分余裕があるはずなのに、なぜかお金を堂々と使えない」そんな人は少なくありません。資産を隠すことは心の平穏につながる一方で、相続や家族関係に思わぬリスクを残すこともあります。本記事ではFPオフィスツクル代表の内田英子氏が、Aさん夫婦の事例を通じて、「安心のためのお金の向き合い方」を考えていきます。※本記事で取り上げている事例は、複数の相談をもとにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から一部脚色を加えて記事化しています。読者の皆さまに役立つ知識や視点をお届けすることを目的としています。
Aさんは現在61歳。大手企業に勤めた元会社員です。子どもはすでに独立し、60歳で定年退職したあとは、同い年の妻と二人で暮らしています。持ち家の住宅ローンは完済し、約20年間続けた投資と退職金により、60歳のとき、Aさん夫婦の金融資産は約1億円に達していました。そのうえ、長く夫婦共働きで妻は元公務員でしたから、65歳から受け取れる年金は二人合わせて420万円(月35万円)と余裕があります。
まさに“老後資産に不安なし”といえる状況ですが、暮らしぶりは質素そのもの。普段の外出は軽自動車で移動し、健康維持のための運動は市民プールで。買い物は近所の大型スーパーで、シニア割引の情報に精通しており、スーパーごとのカードのお得情報を把握し、使い分けています。
また、Aさんには盆栽の趣味がありましたが、家族や友人が遊びに来るときには、高級盆栽を目立たない場所に移動します。趣味で集めた盆栽は、どれも自慢の品ばかりでしたが、それでも、友人や近所の人にみられるのは避けたいと考えていたからでした。
「羨ましがられるより、同じ目線で気楽に過ごせるほうが安心だった」
一見すると普通の年金暮らしですが、そこには「富を隠す理由」がありました。
トラブル対策…子どもへの配慮と犯罪防止策
Aさん夫婦が語る理由はシンプルです。
・子どもに財産をあてにせず、自立して生きてほしい
・相続のときに揉め事の種を残したくない
・余計なトラブルに巻き込まれたくない
「親に財産があると思うと、子どもはどこかであてにしてしまう。自分の力で常識のある生活をしてほしいんです」
資産が知られることで、不要な相談や勧誘に巻き込まれることもあります。だからこそ夫婦は“普通の生活”を装い、心の平穏を得ていたのです。
富を隠すことには、お金を使う機会を狭めてしまうという側面もあります。以下のようなリスクが考えられます。
1.相続税の課税リスク
Aさん夫婦は今後も運用を継続したいと考えているため、運用による利益が想定されました。利回りを堅く見積もっても、一年あたりの運用益は数百万円。一方、年金受給後はAさん夫婦の基本的な生活費は年金から賄える見込みで、日常的な金融資産の取り崩しはなさそうです。Aさんの金融資産は相続税の基礎控除額を超える規模となることが考えられ、その結果、子どもには将来税負担が生じる可能性がありました。
2.家族との交流の機会を失うリスク
Aさん夫婦は「子どもが困ったときには助けてあげたい」「いずれは必要に応じて公平に財産分与を」と考えていましたが、子どもに直接伝えたことはなかったそうです。
子どもにお金についての話をしていないご家庭では、子どもが「うちにはお金がない」と誤解しているケースが見受けられます。誤解が積み重なると、「迷惑をかけたくない」と考えて親に頼らず、結果として親子の会話や交流の機会が減ってしまうことも。経済的な事実を共有しないことが、親子関係そのものに距離を生むリスクにつながる可能性があることを知っておきましょう。
3.認知能力低下リスク
もし認知能力が低下すると、金融資産は自由に引き出せなくなる可能性があります。銀行や証券会社でお金を引き出す際には、本人が自分の意思で行っていることを確認する必要がありますが、認知症などで判断力が低下すると、預金引き出しの手続きが「本人の意思によるものかどうか疑わしい」と判断され、本人の財産を守るために、金融機関が取引を制限する、といった対応が取られることがあるためです。
また、認知能力が低下すると、財産管理のために成年後見人をつけることを求められる可能性がありますが、多額の金融資産が残っていると、成年後見利用のコストは高くなる可能性があります。財産管理事務が複雑・困難とみなされ、成年後見人や監督人への報酬が高くなる可能性があるためです。
人生の晩年のために、と残していても、思わぬコストや制約により、自由に使える金額や相続できる金額が減ってしまう可能性があります。こうしたリスクは、リタイア後ではなく、リタイア前に準備しておくことでよりよい対策をたてることができます。
ここで大切なのは「ライフプラン」と「ファイナンシャルプラン」を混同しないことです。
・ライフプラン:人生の青写真。どんな暮らしをしたいか、どんな価値観を大事にしたいかを描くもの。
・ファイナンシャルプラン:その青写真を実現するために、お金をどう準備/管理するかの計画。
たとえば「リタイア後は夫婦で旅行を楽しみたい」というのがライフプラン。それを実現するために「年に50万円の旅行費をどう確保するか」を数値化するのがファイナンシャルプランです。
今日から始める3ステップ
ライフプランは未来の地図であり、ファイナンシャルプランはその地図を現実に歩むための道筋です。リタイア前から、次の3つを始めてみましょう。
1.資産と収支を整理する:預貯金や投資、ローン残高などを書き出し、現在地を把握する。
2.将来の大きな出費を洗い出す:教育費、修繕リフォーム、介護など10年以内に予想される支出を確認する。
3.やりたい暮らしを言葉にする:趣味や旅行、仕事の続け方などを家族と話し合い、優先順位を決める。
Aさん夫婦のように、資産を持ちながらも“隠す”生き方を選ぶ人は少なくありません。しかし本当に大切なのは、隠すことではなくお金をどう活かすかです。ライフプランとファイナンシャルプランを行き来しながら考えることで、未来に向けて備えつつ、いまを楽しむお金の使い方がみえてきます。
まずは資産と収支を整理することから始めてみませんか。それが、未来の安心といまの充実を両立させる第一歩になります。
内田 英子
FPオフィスツクル代表
ファイナンシャルプランナー
内田 英子
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