( 324573 )  2025/09/15 06:41:05  
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せめて冷房は入れてほしい…(写真:イメージマート) 

 

 例年以上に暑い日が続いており、今年から事業者にも熱中症対策が求められるようになった。具体的に、誰にどのような対策が求められるのか。実際の法律相談に回答する形で弁護士の竹下正己氏が解説する。 

 

【質問】 

 ビルの清掃が辛いです。日曜日に清掃をするのですが、冷房は切られたまま。ビルのオーナーに冷房を入れてほしいとお願いしても「電気代の問題があり、外注の清掃会社の要望だけでは入れられない」と拒否。今年の夏の暑さは災害級なのに、それでも冷房拒否を通達してきたオーナーは間違っていませんか。 

 

【回答】 

 労働安全衛生規則の改正で、今年6月1日から熱中症対策が、事業者に求められることになりました。 

 

 改正規則によると「暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業」では【1】熱中症を自覚したり、他の従業員に熱中症の疑いがあるとき、直ちに報告する体制の整備。【2】作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の受診、その他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及び、その実施に関する手順(フロー)の制定。【3】作業員に対する、これら体制や手順の周知を義務付けています。 

 

 手順の制定は、作業現場の暑さ指数(WBGT)が参考になります。暑さ指数は、温度のように度数(℃)で表わしますが、湿度や日射・輻射など周辺の熱環境、 気温の3つを取り入れた暑さ指数計で測定できます。また、労働で身体を使う程度に応じて目安になる基準値があり、作業現場がこれを超えたら、作業時間の短縮や水分・塩分の摂取などの熱中症対策を取ることが求められます。 

 

 これらは事業者、つまり、使用者に義務付けられているのですが、ご質問の清掃作業は「暑熱な場所において連続して行われる作業」に該当しそうですから、会社として熱中症対策を立てる必要があります。一方、清掃会社に掃除を委託したビルのオーナーには、その義務がないので、清掃業務の委託契約で特約がない以上、あなたがオーナーに冷房を要求することはできません。だからといって、熱中症予防のために休憩等を頻繁に取ると作業が遅れますし、人を増やすとコストが膨らみます。 

 

 ビルに冷房を入れるのが無理であれば、このような状況をオーナーに説明し、事業報酬を改定するよう交渉してみてはいかがですか。要は電気料金の問題ですから、協議の余地は十分にあると思います。 

 

【プロフィール】 

竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。 

 

※週刊ポスト2025年9月12日号 

 

 

 
 

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