( 324578 ) 2025/09/15 06:47:36 0 00 ジャングリア沖縄の園内。沖縄の大自然が見れて最高なのだが、日陰がない。課金しないと、この炎天下で長時間過ごすことになる(筆者撮影)
前編では富士急ハイランドが始めた「5万円パス」について紹介した。
これは、人気アトラクション12種類に待ち時間無しで乗ることのできるプレミアムチケットのことで、「FUJIYAMA」や「戦慄迷宮」「鉄骨番長」など、有名アトラクションはこれで軒並み乗ることができる。1日10枚限定なので、本当の意味でプレミアと言っていいだろう。
ファストパス(プレミアムパス)を絡めたテーマパークの高額化は、富士急ハイランド以外でも見られる変化である。ディズニーもUSJももはや楽しむには1人3万円は必須だ。
ただ、そんな中で意味がやや変わってくるテーマパークがある。「ジャングリア」だ。ここの場合、入場料以外での課金をしない場合、アトラクションにまったく乗れない可能性がある。
■ジャングリアに「プレミアムパスなし」で参加した男の末路
ちなみに筆者も、ジャングリア開業の1週間後に現地へ足を運んでいる。
あえて「何も課金しないとどうなるのかな〜」などと呑気なスタンスで臨んだのだが、実際に足を運んでみると驚いた。開園15分後には、チケットが売り切れ、ほとんどのアトラクションに乗ることができなくなり、結局12時でパーク内でできることが「無くなった」のだ。
乗れたアトラクションはわずか2つで、体感一瞬で終わるので、それ以外の時間は炎天下を放浪するしかない。得たものは苦い思い出といっぱいの日焼けで、「課金しときゃよかったよ……」と思いながら、帰路についたのである。
ちなみに、2000円かかる園内駐車場のチケットも予約していなかったので、車で20分ほどのイオン名護店の屋上駐車場まで戻らないといけないのも辛かった。しかも、その送迎バスを待っている間、ゲリラ豪雨にやられて泣いた。これが、課金しなかった人間への罰か……待ち時間で読んだネット記事の森岡毅氏の笑顔に、ひとりそんなことを呟いた。
まあ、筆者のケースはやや特殊かもしれないし、「お前が悪い」と言われればそうなのだが、いずれにしても、国内大型テーマパークの多くが、少々あけすけに言えば「よりよい体験をしたい人には多くお金を払ってもらう」という方針に変化しているのは間違いないだろう。
その意味で、前編で述べた富士急ハイランドの戦略は、昨今のテーマパークの戦略の王道に則っているともいえるのだ。
■課金至上主義は悪か?
では、こうした富士急ハイランドの戦略はどのように転ぶのだろうか。ほかのテーマパークの事情を基に考えてみたい。
こうした「課金至上主義」ともいえる施策に対しては、「貧乏人が排除されているのではないか」という意見も出がちである。筆者は本サイトで東京ディズニーリゾートのチケット値上げについての原稿を何度か書いているが、その記事へのコメントでもよく見受けられる。
一方、肯定するにせよ否定するにせよ、私たちの世界が「お金」で回っていることは現実であり、そうである以上、「より多くお金を払った人が効果的な体験をできる」方向にシフトしていくのは、営利企業としては当然である。
また、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドはこのような批判がある中でも、2期連続で過去最高益を達成している。
財務状況も健全であり、2024年には東京ディズニーシーに新エリア・ファンタジースプリングスをオープン。さらに、2027年には東京ディズニーランドの主要アトラクションだったスペース・マウンテンとその周辺がリニューアルオープンする予定で、新規設備の投資が活発に行われている。
ジャングリアでも、当初は運営の不備などから、その値段に対して多くの不満がSNSやネット記事などで噴出した。そのとき、マーケッター界隈では「その値段に文句を言うような貧乏人はジャングリアのターゲットからは外れているから、なにも問題がない」という(少々過激な? )意見が出ていた。
ジャングリアのそもそものコンセプトは「Power Vacance」であり、沖縄でしかできないリッチな体験をゲストにしてもらうことが狙いである。だから、そもそも課金など厭わない人々がターゲットにされている……ということである。
このような例を見ると、結局は「課金」のほうへ舵を切るのは、それぞれのパークの経営戦略なのであるし、ディズニーリゾートのようにそれがうまく進んでいる例もあるのだから、特に口を出す問題ではないのかもしれない。(筆者を含め)少なくない人が「お呼びではない人々」になってきているというのは、寂しいことではあるのだが……。
■「期待値」コントロールができるか
ただ、懸念がないわけではない。ここでは、2つのポイントをあげよう。
1つ目は、課金を前提にすればするほど、顧客の「期待値」が上がりすぎる、という点だ。
課金無しでなんとなくパークに行くのと、課金をして楽しみにしてパークに行くのでは、その期待値は大きく異なる。顧客がよりシビアになるのだ。例えば、富士急ハイランドのプレミアムチケットの場合、15分ほどの待ち時間でも「課金チケット代払ったのに、結局待たされたよ」と言われてしまう可能性が、なくはない。普通に考えれば、通常は数時間の待ち時間が15分なのだったらかなり良いと思うのだが、課金したことによってハードルが上がり過ぎてしまって、結果的に満足度が下がってしまう結果にもなりかねない。
現状、国内のパークを見ると、それでも「課金した分は楽しめたな」(と少なくとも筆者は)思えることが多いが、どんどん課金額が積み上がり、顧客の期待値が上がっていったときに、息切れを起こさないかどうか。
また、ジャングリアについていえば事前の広告イメージや「ラグジュアリー」というイメージが先行し過ぎて期待値が上がり過ぎ、そこで足をすくわれた感も否めない。いずれにしても顧客期待値の上昇という問題が重くのしかかるのだ。
■長期的な目線でみるとどう転ぶだろうか
2つ目は、長期的な目線、具体的にいえば「子ども客層」の先細りへの懸念だ。
すでに昨年話題になったように、特にディズニーランドに関しては小人の数が減っていることがファクトブックで報告されている。
確かに、値段が上がり過ぎれば子どもだけで行く、ということは容易ではなくなるし、ファミリーだったとしても、金銭的に厳しい家庭はどんどんパークから遠のいてしまう。
本来、子どもは未来の重要顧客であり、10年、20年後に彼らが親になったときに愛着のあるテーマパークにまた子どもたちを連れてくる……という流れができるはずだが、それが先細りしていくと、長期的にみて経営にどのような懸念があるのか(もっとも少子高齢化で何もしなくても子どもは減っていくから、それはそれでいいのかもしれない)。
富士急ハイランドの場合は、別にチケットの値段が上がるわけではなく、単にチケットのオプションが増えるだけだから、こうした懸念はお門違いかもしれない。しかし、昨今のテーマパーク事情と連動していることを踏まえるならば、富士急ハイランドも今後、このような問題と無関係ではいられなくなるのではないか。
テーマパークは金持ちのためだけのものなのかどうか。その分岐点に私たちは立っているのかもしれない。
【もっと読む】富士急ハイランド「5万円パス」が示す遊園地の変容 では、先日始まった富士急ハイランドの「5万円プレミアムパス」について、都市ジャーナリストの谷頭和希氏が詳細に解説している。
■前編で紹介している画像はこちら
谷頭 和希 :都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家
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