( 324848 )  2025/09/16 06:48:27  
00

写真はイメージです 

 

SNSなどを使い投資や資産運用の情報を発信する「フィンフルエンサー」が台頭している。若者中心にSNSにしたしむ人が増えている上、昨年1月に新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まり、投資熱が強まっていることも背景にあるとみられる。もっとも、発信される情報は〝玉石混交〟で、消費者が詐欺まがいのトラブルに巻き込まれるケースも。今後もこうした状況は続くとみられるが、欧州とは異なり、日本ではフィンフルエンサー特化の規制議論は始まっていない。 

 

■600万円振り込んだが… 

 

「フィンフルエンサーにだまされた」。近年、こんなトラブルが増えている。 

 

SNSなどで金融や投資に関する情報を発信する人は最近、フィンフルエンサーと呼ばれている。「ファイナンス(金融)」と「インフルエンサー(大きな影響力を持つ人)」を合わせた造語で、元金融機関の職員、有名な個人投資家などさまざまな人がいる。 

 

著名な投資家とSNSでつながり、そのアシスタントとメッセージアプリでやりとりするようになった60代の男性。トレーダーを紹介されて株式を購入することになり、約600万円を口座に振り込んだ。 

 

その後、お金は約1700万円まで増えたはずだったが、確認すると10万円まで減っていた。追加の投資を勧められたため、「これ以上の入金は不可能だ」と伝えると、複数の消費者金融のURLが送られてきた-。 

 

今年7月、国民生活センターへ持ち込まれた相談の内容だ。センターによると、この投資家が本物だったのか偽物だったのか分からないという。 

 

センターに対しては、SNSでつながるなどした著名人を名乗る人らから金融商品を勧められ購入したが、お金が返ってこないといったトラブルの相談が増えている。 

 

件数は2021年度の52件から22年度に170件と3倍以上に増えた後、23年度は1660件とさらに10倍近くまで急増。24年度は976件と約4割減ったが、それでも22年度の5倍以上だ。 

 

大和総研の谷京研究員によると、〝オフィシャル〟に使われるようになったのは、24年11月、世界の証券監督当局などが参加する「証券監督者国際機構(IOSCO)」が「フィンフルエンサー」と題する文書を公表し、リスクを整理したあたりからだという。 

 

 

■「大化け期待」の個別株推奨 

 

そしてSNSを検索すると、多くの日本のフィンフルエンサーの配信動画であふれている。「今仕込め!!2026年大化け期待!!」など、個別銘柄を勧めるものも多い。 

 

フィンフルエンサーが隆盛なのは、SNSで情報収集する人が増えてきたからだ。 

 

金融庁が24年7月に公表した調査によると、投資経験者7千人のうち、資産運用に関する情報の入手先として最多は「インターネット上の記事」で44・9%。動画サイトは25・6%、SNSは17・4%に上った。 

 

ただ、大和総研の谷氏は、フィンフルエンサーはリスクを及ぼしうると警戒を呼びかける。リスクとして、IOSCOの文書を踏まえた上で①高リスクな投資の推奨②誤情報や偽情報の流布③透明性の欠如-を挙げる。 

 

①は、フィンフルエンサーが、投資助言の資格を持たない個人や企業が外国為替証拠金取引(FX)や暗号資産など、リスクの高い投資を勧める傾向にあることだ。 

 

②はオンラインコミュニティーへの有料アクセスの勧誘などを行うが、実際には存在しないサービスもあること。③は報酬を受け取って投資を勧めていることを隠しているような場合で、良い情報ばかり提供する可能性がある。 

 

欧州各国はフィンフルエンサーに対して規制を強めている。フランスは23年6月に施行された新法で、フィンフルエンサーを含むインフルエンサーが暗号資産のように複雑でリスクの高い金融商品を宣伝することを禁止した。英国は、既存の法律の運用を強化し、違法な宣伝などを行ったフィンフルエンサーの逮捕に踏み切っている。 

 

しかし日本では、フィンフルエンサー規制の議論は進んでいない。 

 

規制に使えそうなのは、たとえば金融商品取引法の運用をフィンフルセンサーに注目して運用することだ。 

 

同法では、契約にもとづいて報酬を受け取って投資をアドバイスするには、投資助言・代理業として国に登録しなければならない。無登録の業者には罰則がある。 

 

 

谷氏は「ユーチューバーがライブ配信中、視聴者から『投げ銭』を受け取ってどういう銘柄がいいかを聞かれてアドバイスする場合、金商法の投資助言に該当する可能性が出てくる。有償で、特定の人に向けた助言なのかがポイントだ」 

 

■規制に加えて教育も重要 

 

ただ、配信者が法律に抵触していることを知らないケースも少なくないとみられる。谷氏はフィンフルエンサーに対し、教育や注意の呼びかけをする必要性を訴える。 

 

一方で谷氏が求めるのは消費者に対する啓発で、小・中学、高校で行われている金融教育を、より時代に即したものにしなければならないとする。 

 

SNS上で偽アカウントをつくられた経験のあるマネーコンサルタントの頼藤太希氏は「(消費者は)フィンフルエンサーの投稿を見たら、その情報源は何なのかを確かめたり、複数の情報を確かめたほうがいい」と話す。 

 

さらに、そのフィンフルエンサーの公式アカウントなどで経歴を確かめ、書籍を出版したり講演を行ったりしているかをみることも大切とも強調。出版や講演は、一定の信頼がなければ不可能だからだ。 

 

今後もフィンフルエンサーが増えるとみられる中、どう対応していくのか、知恵を絞ることが求められる。(山口暢彦) 

 

 

 
 

IMAGE