( 325098 ) 2025/09/17 06:26:36 0 00 週刊エコノミスト 9月23日・30日合併号表紙
「選挙区も比例も参政党に投票した。反グローバリズム勢力の中で規模が一番大きく、頑張ってほしいという思いからだ」
静岡県に住む無職の女性(56)は7月の参院選について、そう振り返った。米国の大学院に留学していた2001年9月11日、米同時多発テロに遭遇した。現地のテレビはブッシュ大統領(当時)が反撃の正当性を力説する姿を連日映し出し、女性は「何かがおかしい」と違和感を覚えた。我々が知る現実のできごとを操る「グローバリズムを推し進める影の勢力」が存在するのではないか──。そんな考えが徐々に強まっていったという。
帰国して東京都心の外資系企業に勤め、高給を得るようになった。影の勢力への疑念が固まった契機となったのが、新型コロナウイルスの感染が拡大した20年だったという。政府や自治体はマスク着用や「3密回避」、ワクチン接種を強く呼びかけた。「米製薬大手やWHO(世界保健機関)などの影の勢力が操っていると確信した。過剰医療の問題や、政府が接種を進めたワクチンの危険性を訴えた参政党を知り、支持するようになった」と女性は話す。同党は20年4月、現代表の神谷宗幣氏らが結党したばかりだった(表)。
女性は今年7月の参院選で参政党に投票した926万人(選挙区)の一人になった。同党の得票数は立憲民主党を上回って自民党に次ぐ2位に大躍進した。報道各社は世論調査を通じて支持者の傾向を探った。NHKによる8月の調査結果によると、参政党は18~39歳、40代、50代、60代で国民民主党や自民党に次ぐ2位だった。
◇積極財政による減税訴え
926万人は選挙区投票者の15.66%を占める。彼らの心を動かしたのは何か。参政党のマニフェスト(政権公約)にある「3本の柱」は経済政策、環境政策、文化政策だ。前述の静岡県女性が引かれた反グローバリズムは経済政策、ワクチン接種などの医療は環境政策に含まれる。
参政党の経済政策は、積極的な財政出動による減税や社会保険料の低減をアピールしているのが特徴だ。積極財政政策は、結党メンバーの一人で、元財務官僚の松田学氏(現参院議員)が理論的支柱とされる。成蹊大学の伊藤昌亮文学部教授は「参政党の支持層は、労働組合を通じた賃上げの恩恵にあずかることができない自営業者やフリーランスの人が多い」と話す。減税や社会保険料減による手取り収入の増加はそうした層に魅力的に見えるという。
一方で、成長戦略については「独自性や実効性に欠ける」(野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)との見方が支配的だ。人口減少が進む中で、外国人労働を否定すれば、経済成長を阻害しかねない。さらに、財政規律を無視した国債の増発は金利や物価の高騰を招き、むしろ、参政党支持層の生活基盤を揺るがせる可能性もある。
ジャーナリストの山田厚俊氏は12年、大阪府吹田市議だった神谷氏を取材し、数年後に東京都内で会って話をしたことがある。「この国を変えたい」「自民党はダメだ」「きちんとした保守政治を実現したい」と情熱的に訴えていたのが印象に残っているという。神谷氏は12年の衆院選に自民党から出馬したが落選。その後は企業を設立して志を同じくする仲間を募ったり、自力で資金を集めたりすることに力を入れていたという。「誰かスポンサーに頼るのではなく、自分で資金を集めるというから立派だと思った」と山田氏は語る。結党後も参政党は集会や街頭演説を積極的にこなし、「立憲民主党や共産党より熱心だったと感じる。SNS(交流サイト)の活用についても、国民民主党と並んで参政党の動きが際立っていた」(山田氏)。
しかし、参政党を巡っては「排外主義をあおっている」「障害者などへの差別に当たる発言をした」といった批判がつきまとってきた。とりわけ今年5月に発表した党独自の憲法草案は、天皇を中心とした国家体制を意味する「国体」という言葉が使われるなど復古的な内容が物議をかもした。
東京都立大学法学部の木村草太教授(憲法)は「政党が公表する憲法草案を読めば、その党の関心分野が分かる。参政党の場合は『差別から目をそらしたい』という意志が感じられる」と指摘する。例えば、参政党の憲法草案7条3項は「婚姻は、男女の結合を基礎とし、夫婦の氏を同じくすることを要する」と規定し、同性婚や夫婦別姓を否定する。「参政党が同性婚や夫婦別姓を扱っていることは支持者に伝わるが、これらが認められないことで困っている人がいることからは目をそらしている」(木村教授)
◇外国人の権利を制限
ほかにも、日本国籍を取得した外国出身者やその子孫は日本の公務員になれないとする条文など、外国人や元外国人の権利を制限する内容も盛り込んだ。木村教授は「国籍で人格を評価することをちゅうちょしない人へのアピールの表れ。憲法草案自体が参政党のマニフェストを分かりやすく言い換えたもの」と批判した(編集部は神谷代表や参政党本部に取材を複数回依頼したが、「スケジュールの都合がつかず、辞退する」と断られた)。
9月7日、石破茂首相が辞任を電撃表明し、10月には新首相が就任する見通しだ。その間、自民党総裁選に出馬する議員は20人の推薦人集めに奔走し、その動きは大きなニュースとなるだろう。新首相が決まれば、衆参両院で過半数割れした与党が新たに野党を連立政権に引き込むのではないかと取りざたされている。その候補に参政党は早くも名が挙がり始めた。
ジャーナリストの山田氏は「参政党は今、“高値”が付いているから安売りはしないだろう」と見る。新首相から連立入りを打診された場合、単に閣僚ポストを要求するのではなく、「参政党の政策を実現することを条件に提示するといったことが考えられる」と山田氏は言う。参政党の政策の一部は予想以上に早く実現に近づく可能性があるというのだ。
(谷道健太〈たにみち・けんた〉編集部)
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