( 325248 )  2025/09/18 05:02:02  
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9月10日、市議会を解散して会見する伊東市の田久保市長 

 

 学歴詐称疑惑をめぐり市議会から不信任議決を突きつけられた静岡県伊東市の田久保真紀市長が9月10日、市議会を解散した。市議選の投開票は10月19日。新議会での再度の不信任決議を阻止するため、田久保市長が味方となる「田久保派」市議を7人以上当選させられるかが焦点となっている。 

 

  *  *  * 

 

 田久保市長の学歴詐称疑惑をめぐって市議会との対立が続き、全国から注目を浴びることになった伊東市。田久保市長の知名度は急上昇している。伊東市のベテラン職員Aさんがげんなりした様子で話す。 

 

「田久保市長はすっかり有名人気取りです。『あちこちで声をかけられるよ』と嬉しそうに話すんです。こちらは市長の悪名で困っているのに、有名になってうれしいと言わんばかりに見えます。昨年の兵庫県の斎藤元彦知事の大騒動を思い出します」 

 

 ネットでは田久保市長に関して、〈メイクに力を入れている〉などという投稿も見られる。 

 

「田久保市長は自分が大好きな人。メイクがすごく濃くなっているのは近くで見てよくわかります。市役所内で話題になっていることがあります。最近、ある飲食店で市長が市民から、『こんなところでメシ食って、なにをしているんだ』と大声で絡まれ、お店の人が慌てて仲裁に入ったそうですが、市長は平然としていたそうです。視察の時にも、市民からクレームをつけられたそうです。市民から反感を買っているので、外出や視察を控えてはどうかと思うのですが、本人は全国ネットのテレビで報じられ、『有名人』ぶりに酔いしれている感じがします。週刊誌で親密だと報道された男性と市内で食事しているところは何度も目撃されています」(Aさん) 

 

 市議会は9月1日に、全会一致で田久保市長の不信任決議案を可決した。解散後、新たに選ばれた議員による市議会で、再度不信任決議案が可決されれば田久保市長は失職する。ふつうに考えれば、新議会が田久保市長を再び不信任を決める流れになりそうだが、田久保市長には余裕が感じられる。 

 

 

■不信任されながら「綺麗だなぁ~」とポスト 

 

 田久保市長のXを見ると、9月8日に市役所の食堂から見える風景の写真とともに、 

 

〈伊東市は空と海の碧、山々と森の緑が美しい宝石箱のような所です。毎日見ていても綺麗だなぁ~と見とれてしまいます〉 

 

 と突きつけられている不信任決議など、どこ吹く風のようなポスト(投稿)。10日の朝に市議会の解散を議長に通知すると、すぐさま自身のXに、 

 

〈先ほど、議長室を訪問しまして市議会の解散の通知を致しました。10時半からの発表を控えて報道陣が集まっております。伊東市政の改革と刷新の為、そして地域を守る為に引き続き全力で尽くして参ります〉 

 

 と自撮りの顔写真付きで“実況中継”のような調子でポストした。 

 

 そして、9月12日には疑惑となっている東洋大学卒業について問われて、 

 

〈大学は、卒業しておりません。除籍になっております〉 

 

 と堂々と大学卒業を否定している。 

 

■「斎藤知事だって逆境から挽回した」 

 

 市議会の定数は20。新議会が不信任決議案を可決するには3分の2以上の出席で議会を開き、過半数の賛成が必要となる。なので、田久保市長を支持する議員が3分の1以上となる7人以上当選し、議会を棄権すれば不信任決議を阻止できる。 

 

 田久保市長は、議会を解散するにあたって、議会批判を展開した。 

 

「伊東市が改革の道を進み刷新されていく。衰退から再生にいたる過程において、今の市議会でいいのか。市民の皆さんに信を問いたい」 

 

 そして、 

 

「伊東の未来をつくる新たな人材に期待を寄せる」 

 

 と語り、田久保派となる人材を集める意向を示した。実際、味方となる市議候補を探しているようで、連日、会合を重ねている。 

 

 田久保市長の支持者はこう話す。 

 

「田久保市長ひとりが悪者になっている。学歴詐称って騒ぐが、選挙には関係なかった。学歴詐称は選挙後の広報誌の問題。田久保市長は本当に改革をやりたい人。斎藤知事だって、あれほどの逆境から挽回して勝ちました。市議選だって、次に想定される市長選だってわかりませんよ」 

 

 この支持者がいう斎藤知事とは、もちろん兵庫県の斎藤元彦知事のこと。田久保市長と同様、議会の全会一致で不信任決議を出されたが、昨年11月の出直し知事選で再選された。この支持者は、斎藤知事のような復活劇の“再来”を目指しているというのだ。 

 

 

■共通点が多い田久保市長と斎藤知事 

 

 たしかに田久保市長と斎藤知事には共通点も多い。議会の百条委員会で疑惑を追及されたこと、SNSでの発信を重視していること、メディアから厳しい追及を受けても正面から答えないこと、刑事告発されていること……。 

 

 斎藤知事が再選を果たした時はSNSで、 

 

「斎藤知事ガンバレ」 

 

 というフレーズが多く見られた。そして今、 

 

「田久保市長ガンバレ」 

 

 という内容がSNSで増え始めている。 

 

 斎藤知事が再選した際、「知事は議会にはめられた」といったデマが流布されていた。同様に、田久保市長が「議会やメディアにはめられ逆境に陥っている」などといったデマが広まれば、田久保市長を応援しようという大きな流れができないとも限らない。 

 

■市議選の経費は6300万円 

 

 田久保市長が市議会解散に打って出たことで、市議選にかかる費用は人件費込みで約6300万円と見込まれている。市議選後、不信任決議案が再度議決され、市長選となった場合、さらに追加で税金が投入される。 

 

 田久保市長はいったん、7月に市長を辞職して出直し市長選に出馬する意向を表明していた。ただ、前言を翻して居座っていることで、月額85万5000円の給料が支払われ続けている。12月になれば185万円あまりのボーナスも支給される。退職金も在職期間が長くなれば増えていき、12月まで市長の座にとどまれば約269万円になる。 

 

 市議会は市長か議長が招集できる。だが、市議会が解散されて議長がいないため、招集できるのは田久保市長ひとりだ。市議選が終われば、議長選出と再度の「不信任案」を決議する臨時議会を開催することになるはずだが、「議会を招集しない」という裏技が市民の間で噂になっている。 

 

「新しい市議会になっても、議長がいないので田久保市長が招集しなければ臨時議会が開けず、不信任案の審議すらままならない。できるだけ早く臨時議会を開催して、再度の不信任を突き付けたい気持ちであり、それが混乱する市政を正常化する第一歩になる。議会を先延ばしされたら、ますます混迷します。そんなことはないと思いますが、相手が田久保市長ですからね……。ただ、今は田久保市長が市議会を解散したので、私も自分の選挙で手いっぱい。これも作戦なのかな」(議会解散で失職した鈴木絢子前市議) 

 

 市長に振り回され、「田久保劇場」と化している伊東市。市民の一人は、 

 

「きちんとした市政に正常化してほしい。それが一番、市民のためになる」 

 

 というが、それは市議選のすぐ後なのか、それともまだ混迷は続くのか。 

 

(AERA編集部・今西憲之) 

 

今西憲之 

 

 

 
 

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