( 325288 ) 2025/09/18 05:49:23 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
株式会社マイナビの調査によれば、「管理職を辞めたい」と考える中間管理職は2割近くにのぼります。「責任を背負いたくない」「自由がなくなる」こうした理由から昇進を望まず、あえて“万年ヒラ”の道を選ぶ人が増えてきました。目先のワークライフバランスを考えれば、それは賢い選択に思えるかもしれません。しかしその選択が、数十年後の老後において自分の首を絞める結果に繋がる可能性も……。本記事では、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が、柴田茂さん(仮名)の事例とともに、生涯収入格差について解説します。
「管理職になったら自由がなくなるだけ」「責任を背負いたくない」「頑張ったところで給料は大して変わらない」
都内在住の柴田茂さん(仮名/50歳)は、大手メーカーに勤めて28年。これまで昇進の話があった時期もありましたが、そうしたセリフを口にして断り続けてきました。
同期には役員まで昇進し、年収2,500万円を稼ぐ者もいますが、柴田さんはいわゆる“万年ヒラ”として自分のペースで働く道を選んだのです。残業の少ない部署で人間関係にも恵まれ、40代のころからは趣味に生きることの充実感も味わっていました。年収は約500万円。独身の彼にとって、生活に困ることはありません。
「出世しなくても困らない」「重責を負いたくない」「たくさん稼いでも税金と社会保険料で引かれるだけ」そう考え、与えられた仕事だけを真面目にこなす毎日に満足していました。
しかし、50歳を迎えたある日、その完璧なはずだった人生計画は脆くも崩れ去ります。きっかけは、ポストに届いた一通の「ねんきん定期便」でした。
ねんきん定期便に記された「将来の自分」
ねんきん定期便に記されていた年金の見込額は、年間で約160万円。月額に換算すると、わずか13万円程度です。
「えっ……これだけ?」
唖然としてしまいました。退職まであと15年、退職金も1,500万円ほどある見込みとはいえ、「このまま年金だけで暮らしていけるのか?」という強烈な不安が、初めて彼を襲ったのです。
「人並みに稼いでいれば老後も安心だろう」という楽観は消え去り、ファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。
FPから年金制度の仕組みを聞くなかで、柴田さんは厚生年金の「報酬比例」という仕組みを初めて詳しく知ります。
厚生年金の支給額は、加入期間や収入(報酬)によって大きく左右されます。平均年収が100万円高ければ、年金は年間約20万円も多く受け取れる可能性があるとのこと。
一方、柴田さんの同期は、課長クラスで年収800万円以上。部長ともなれば1,000万円を超え、柴田さんとの差は200〜300万円。結果的に、現役時代の年収差は、そのまま老後の年金額の差となって、何十年も続くことになるのです。
FPからは「いまからでも資産形成を始めれば間に合う」と励まされ、資産運用を始めた柴田さん。しかし、収入に余裕があり、計画的に資産を築いてきたであろう同期たちの姿を思うと、どうしても劣等感が込み上げます。
「自分も、もう少し収入を増やす努力をしておけばよかったのではないか……」
これまで「会社なんて、給料さえもらえれば十分」と考えてきた彼が、自らの選択がもたらす影響の大きさに気づいた瞬間でした。
近ごろ、厚生年金保険料の上限の引き上げをはじめとした年金制度の改訂が話題になっていました。現行制度では月額報酬が63万5,000円以上の場合、一律で標準報酬月額が65万円として計算されており、この仕組みも2029年にかけて段階的に上限の引上げが決まっています。
可処分所得の減少が問題視されていますが、その反面としてより収入が高い人ほど将来受け取れる年金も多くなるという制度になっています。
一方、近年流行している「FIRE(経済的自立と早期リタイア)」も、将来受け取れる公的年金を考えると、将来の受給額が想定より大幅に下がることもあります。
つまり、将来の年金受給額を試算し、より慎重に将来の生活設計を考えることが必要でしょう。将来の不安を解消するために、節約や投資も重要ですが、「収入を増やす」という選択が、最も効果的な方法である場合もあるのです。
2019年に話題となった「老後2,000万円問題」のもととなった「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」によると、そのなかにある平均的な高齢夫婦二人暮らしの生活費と年金収入では2,000万円程度不足が想定されるという試算に注目が集まり、物議を醸しました。特に独身の場合、年金をわかちあう配偶者もいないため、より多くの資産が必要と考えられます。
しかし、これは現役時代の選択により、経済状況を大きく左右するものです。会社で成果を出し、責任あるポジションで活躍することや、収入アップが見込める環境に身を置くことは、そのときの生活の豊かさ、老後の不安解消にもつながります。
単に「年収や肩書き」に執着する必要はありません。しかし、自分の将来の安心を考えるのであれば、目の前の仕事に全力を尽くし、経済的余裕を生み出す工夫をしていくことが、将来の選択肢を広げる最善の道なのかもしれません。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
小川 洋平
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