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デービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長は、参政党の憲法草案や政策について厳しい見解を示している。

彼は草案が排外主義的であり、国籍と血統を混同している点を問題視している。

また、帰化の定義が欠けており、外国人は国民として認められないという態度を非難。

経済政策についても、単なる積極財政では解決にならないとし、企業の構造変革を求めている。

彼は、参政党が今後も進展を遂げることは難しいと見ている。

(要約)

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デービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長 

 

 参政党の憲法草案や政策の問題点を外国人問題や経済に詳しいデービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長に聞いた。(聞き手=稲留正英/谷道健太・編集部) 

 

── 参政党の主張の問題点をどう見る。 

 

■一番のポイントは憲法の草案だ。代表の神谷宗幣氏は月刊誌のインタビューで、参政党の中では過激なことを言っている人がいるが、自分は排外主義ではないと、人種差別ではないと否定している。しかし、いくら彼が言っても、この憲法草案は間違いなく、排外主義、人種差別主義そのものだ。 

 

── それはどの部分か。 

 

■国籍と血統をごちゃ混ぜにしているところが一番の問題だ。草案の5条1項に、「国民の要件は、父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基準として、法律で定める」とある。国籍を血筋にした時点で、排外主義である。おまけに、国語の問題があると指摘されている。母国語は生まれた国の言葉、いわゆる公用語のことだ。しかし、父や母のどちらかが日本人であっても、例えばスペイン語しかしゃべれない人はいる。仮に、参政党が「日本語がしゃべれないから駄目だ」と言っても、法律上、そういう人は排除できなくなる。 

 

 多分、これは、第一言語、母語の勘違いだろう。神谷氏は政党のトップなので、総務省や法務省の役人を呼び出して確認すればすぐに分かるはずだ。憲法を定めるに当たって、専門用語をきちんと使うのは非常に重要なことだ。しかし、そういうチェックは行っていないのか、幼稚な間違いが目立つ。 

 

◇帰化しても国民になれず 

 

── 帰化の問題点も指摘する。 

 

■草案には帰化する人の定義は書いてないが、国民が誰であるかを決めるためにも、それを明記することは必要だ。本来は帰化は血筋がない人が対象だ。しかし、国民の要件に、「父または母が日本人であり」と書いてしまったために、帰化した人は日本の国民になり得ないことになる。 

 

 英国、フランスや米国と先進国では生まれや血筋、思想や宗教がどのようなものであっても、一定の条件を満たせば国民になることができる。しかし、参政党の草案では日本人の血が流れていないと日本の国民になることはできない。これは明らかに人種差別だ。 

 

 

── 参院選では「日本人ファースト」をスローガンにした。 

 

■米トランプ大統領でも「アメリカファースト」であって「アメリカ人ファースト」ではない。国益優先で人種の問題ではない。小池百合子都知事の「都民ファースト」も東京に住んでいる以上は誰でも都民であり、外国人も含まれる。神谷代表は「都民ファーストはよくて、なぜ、日本人ファーストはダメなのか」というが、その違いが理解できないのは、政治家として素人であることを示している。 

 

◇「日本に尽くす外国人を排除するのか」 

 

── 草案の19条4項では、「帰化した者は、三世代を経ない限り、公務に就くことができない」としている。 

 

■これでは、そもそも、血筋がなければ、いつまでたっても公職に就けないことになる。この考えの裏には、日本人は日本に忠誠を尽くすが、外国人は外国政府を利し、犯罪も起こす、という発想がある。だが、日本に尽くしている、外国政府を利さない外国人も当然いる。そういう人たちは全部排除するのか。その人その人の中身を見ないで、血筋で決めるのは、文字通りの人種差別であって、排外主義だ。 

 

── アトキンソンさんは、菅義偉政権の観光戦略のアドバイザーとして尽力したが、それもけしからんという話になりかねない。 

 

■自分が関わる前はインバウンドの経済波及効果は2兆円弱だったが、今年は20兆円になりそうだ。18兆円分の増加に貢献してきたという自負がある。しかし、神谷氏によれば血筋を優先してそうした人たちを排除することになる。 

 

 グローバライゼーションは駄目だと言っても、西洋医学、鉄道、西洋建築、洋服や洋食を全部、否定できるのか。日本の文化を守れ、外国人は駄目だ、という主張は支持者には受けるのだろうが、昔の攘夷(じょうい)思想と一緒で現実的ではない。 

 

◇あるのは財政政策だけ 

 

── 参政党の経済政策についてどう見るか。 

 

■積極財政をすればいいというだけだ。財政政策はあるが、産業政策などの経済政策はない。同党のアドバイザーは経済評論家の三橋貴明氏だが、ただ、国債を刷って、おカネをばらまけば経済は良くなります、と言っている程度だ。 

 

 

── 参政党が出てきて、何か変わったことは? 

 

■これまでは言うことをはばかられた過激な言葉や人種差別的なことを人々が平気で言うようになったと感じる。特に「日本人ファースト」を唱えてからだ。ネット上でもそうだし、街頭でデモをやっている人たちもそうだ。とはいえ、これから移民政策をどうするかの問題提起をして、その議論を始めたのは評価したい。 

 

── 日本の人口が減る中では、より外国人を受け入れるべきか。 

 

■実は自分は移民にはそんなに前向きではない。安く使える日本人がいなくなったから、安く使える外国人を誘致してくれと零細企業を中心に企業が政府に要望して、それに応えている形で規制緩和をしてきたのが事実だ。こうした実習生を受け入れているのはほとんどが従業員30人未満の小売り、飲食や宿泊業の零細企業だ。 

 

全国34万社で働いている230万人の外国人労働者のうち、30人未満の21万社で働いているのは83万人いる。こういう企業は生産性がものすごく低く、給与も著しく低い。今の特定技能とか技能実習制度は、外国人奴隷制度に近い。実習と言っておきながら、実際は働かせ、最低賃金を支払っているのかどうかも分からない。ハラスメントや体罰も絶えない。 

 

◇外国人が支えるゾンビ企業 

 

── アトキンソンさんは日本の中小企業が日本の生産性を低くしてきたと主張している。 

 

■それは統計に表れている事実だ。こうした企業は最低賃金でないと成り立たない。外国人の単純労働は、中小企業、ゾンビ企業を延命させる手段になっている。そういうところで、「外国人労働は問題だ」と言えば言うほど、「それではこういう企業は潰すのか」という話になる。しかし、アドバイザーの三橋氏は自身が中小企業診断士であるためか「中小企業の淘汰(とうた)は駄目だ」という。そこが矛盾になってしまう。 

 

 積極財政をやったからといって、日本人がキノコのように生えてくるわけではないし、そもそもこの21万社の労働条件では日本人は働かない。人口が減っている以上は、産業構造を変えないといけない。 

 

 

 こういった企業を延命するために外国人労働者を増やすかは大いに大事な議論だ。米国は1990年代以降、低所得の移民をほとんど受け入れず、高学歴の高所得者だけに絞っている。 

 

── 参政党は今後も勢いを保つのか。 

 

■参院選で躍進したことで、これから、参政党の政策は世間の検証の対象になる。だが、憲法草案も経済政策もホームセンターの材料で作ったような素人工作だ。これから憲法学者や経済学者など日本で一番優秀な人たちの検証を受けることになるが、それに耐えることができないだろう。これまでの新興政党と同様に尻すぼみになると見ている。 

 

 極右政党AfD(「ドイツのための選択肢」)とは違い、今のままでは日本で第2党の地位は得ることはないだろう。 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

David Atkinson・小西美術工芸社社長 1965年英国生まれ。オックスフォード大学で日本学専攻、92年ゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートで注目を集める。2009年に小西美術工芸社に転じ、14年から現職。15年から政府「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」有識者。以後も、日本の観光戦略について提言を続けている。著書に『新・観光立国論』(15年、東洋経済新報社)など。 

 

 

 
 

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