( 325338 ) 2025/09/18 06:40:40 0 00 イメージ画像
「ふるさと納税」が話題にのぼる時期というと、秋口から年末にかけてというのが通り相場でした。寄附の申込は1月1日から12月31日までなので、1年を通じていつでも申し込めるわけですが、その年の寄附金額に対する控除を受けるためには、年内に寄附を済ませておく必要があります。
寄附が完了したかどうかについては、寄附先の自治体から送られてくる寄附金受領証明書に記載された寄附年月日に示されます。たとえば寄附年月日が2025年1月1日から12月31日の範囲に収まっている場合は、2025年の寄付金額に対する控除になります。
「寄附」という言葉をいきなり用いてしまいましたが、まだふるさと納税をしたことがなく、これから始めてみようと考えている方のために、簡単にふるさと納税の概略を説明しておきましょう。
納税という名前を使ってはいますが、ふるさと納税の実態は「寄附」です。自分自身の故郷や応援したいと思える自治体など、自分の好きな寄附先を選んで寄附します。その際に2000円は自己負担となりますが、それを除いた寄附金全額が、ふるさと納税を行った年の所得税と、その翌年度の住民税から控除され、かつ寄附先の自治体からは、寄附金額の3割に相当する返礼品を受け取ることができます。
たとえば5万円をふるさと納税した場合、5万円から自己負担額である2000円を差し引いた4万8000円が所得税および住民税から控除され、かつ5万円の3割に相当する1万5000円相当の返礼品を、寄附先の自治体から受け取ることができます。
経済的にどれだけのトクがあるのかというと、
1.本来、自分が住んでいる自治体に納めるべき税金を、自分の故郷や応援したい自治体に寄附することで、自己満足感が得られる。
2.そのうえ、2000円の自己負担で1万5000円相当の返礼品が受け取れる。
ということになります。
そんなふるさと納税ですが、今年は話題にのぼるのがだいぶ早い時期からになりました。というのも昨年6月、総務省が告示した通り、「寄附に伴いポイント等の付与を行う者を通じた募集を2025年10月1日から禁止する」ことになったからです。
ふるさと納税に対するポイント付与は、「ふるさとプレミアム」、「ふるラボ」、「ふるなび」、「さとふる」、「楽天ふるさと納税」、「auPayふるさと納税」、「ふるさと本舗」あたりが高いポイント還元率で注目を集めていました。
何しろポイントは現金と同様に使うことができます。前述したふるさと納税の経済的メリットに、各ふるさと納税サイトが独自に展開しているポイント付与が加わったことで、ふるさと納税は極めて経済的メリットの高い制度になりました。
そのポイント付与が10月1日から禁止になるのですから、話題にならないはずがありません。すでに多くのふるさと納税サイトが、この9月中にキャンペーンを展開して、通常よりも高いポイントを付与しており、駆け込み需要を喚起しています。
実際、ふるさと納税の駆け込み需要は、かなりヒートアップしている模様です。北海道文化放送が報じたところでは、生乳生産量日本一とされる北海道別海町へのふるさと納税は、すでに8月時点で、2024年の同時期に比べて2倍に増えており、9月に入ってからは3倍以上に増えているということです。
ちなみに2024年度において、別海町がふるさと納税を通じて集めた寄附金は、全国5位の約173億円でした。特産のホタテが人気の返礼品です。
このように書いていて思うのですが、そもそもふるさと納税は何のために始まったのでしょうか。決して、「返礼品をもらう」、「ポイントをもらう」のが目的ではなかったはずです。
この制度が始まったのは2008年でした。当時から、地方に住む若者たちの大都市圏への人口移動が加速していましたが、その問題点は地方の人口減少だけではありません。
地方の自治体からすれば、高校を卒業するまで地元の住民サービスを提供してきたにもかかわらず、そのサービスを受けて育った子供たちが地元の大学ではなく、大都市圏の大学に進学し、卒業後も大都市圏で社会人生活を送られてしまったら、どうなるでしょうか。地方自治体が、高校卒業まで子供たちに提供してきた各種サービスのコストを回収できなくなってしまいます。
これはあまりにも不公平ではないか、ということで設けられたのがふるさと納税でした。確かに一理あります。
しかし、元々の理念を理解してふるさと納税をしている人が、果たしてどれだけいるでしょうか。
もし、こうした理念を理解してふるさと納税を利用しているのであれば、自分の出身地の自治体に寄附すれば良いでしょう。でも、実際には返礼品とポイント狙いで寄附先を選んでいる人が大半です。これを「ふるさと納税」と称して良いのでしょうか。この点ははなはだ疑問です。
一方で、ふるさと納税のひずみも出てきました。ふるさと納税とは、有り体に言ってしまえば、自分が欲しい返礼品がもらえる自治体に寄附し、所得税の払い戻しや自分が住んでいる自治体に納めている住民税を控除してもらう制度です。
「自分が住んでいる自治体に納めている住民税が控除される」ということは、自分自身は現在、住んでいる自治体から各種サービスを受けているにもかかわらず、住民税を納めていないことになります。つまり住民税が減ってしまうのです。これは自治体によっては、住民サービスの低下を引き起こす恐れにつながります。
もちろん、住んでいる自治体が地方交付税の交付団体であれば、減った住民税の一定程度は、地方交付税交付金という形で国から補塡(ほてん)されます。しかし、問題は不交付団体の自治体です。東京都をはじめとして、83団体が不交付団体となっています。
特に東京都は減収額が大きく、2025年度の減収額は2161億円。ふるさと納税が始まってからの減収額累計は1兆1593億円にものぼります。このうち都民税分の減収分は862億円で、これは特別養護老人ホームの施設整備費補助の約70施設分に相当するというのが、東京都主税局のデータに示されています。
東京都で生活している人たちもいずれ高齢化していきます。その時、住民サービスが低下していたら、どうなるでしょうか。今の欲望、おトク感を満たすために、将来の保障を食いつぶすようなことがあっては、それこそ本末転倒です。今回のポイント付与禁止と同様に、「おトクなふるさと納税」は徐々に縮小へと向かうように思われます。
鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)
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