( 325533 )  2025/09/19 05:20:08  
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9月20日に出馬会見に臨む見通しの小泉進次郎氏。自民党総裁選に勝利した場合、首相就任直後に衆院解散に打って出るとの話が広がっている(写真:ブルームバーグ) 

 

 小泉進次郎農林水産相は9月17日、石破茂首相と官邸で面会し、10月4日に予定されている自民党総裁選挙に出馬する意向を伝えた。その後、記者団に囲まれた小泉氏は「地方経済、防災庁、農政をしっかりと引き継ぐ」と石破路線の継承を明言した。 

 

 すでに茂木敏充前幹事長は10日に、小林鷹之元経済安全保障担当相は16日に出馬会見を済ませている。林芳正官房長官は18日に会見を行い、高市早苗前経済安保相も19日に会見を調整中だ。 

 

■決選投票に残れば勝機は十分だが… 

 

 20日に会見予定の進次郎氏は最有力とみられているが、油断は禁物だ。昨年9月の総裁選では、議員票で9人の候補者の中でも最多の75票を獲得したものの、党員票が61票と振るわず、決選投票に残れなかった。 

 

 だが今回は、加藤勝信財務相を選対本部長に選任。前回の総裁選で議員票22票と党員票8票を得た河野太郎氏も、同じ神奈川県連所属というよしみで協力を得られるかもしれない。 

 

 9月11日と12日に行われた共同通信の世論調査では、自民党支持層の36.0%が次の総裁にふさわしいのは進次郎氏だと回答。2位の高市氏の15.7%を大きく引き離している。 

 

 決選投票に残れば、勝機は十分。戦後最年少の総理大臣が誕生することになるが、懸念がないわけではない。「進次郎氏の答弁能力に不安がある」との声も少なくないからだ。 

 

 にもかかわらず、自民党は進次郎氏に国民的人気を期待せざるをえない。その人気は首相就任時にピークとなり、直後の“ハネムーン期間”に衆院選を行えば、過半数に足りない与党はいくらかの議席を回復できるだろう。 

 

 与党関係者も「進次郎氏が予算委員会で十分な答弁ができず、立憲民主党や国民民主党にサービスするくらいなら」と、衆院解散を容認しているようだ。進次郎氏も2024年の総裁選の会見で「できるだけ早く衆議院を解散し、構造改革を問う」と、解散権を行使することに躊躇しなかった。 

 

 

 このときの進次郎氏は、自民党の信頼を回復するため、政策活動費の廃止や旧文通費(文書通信交通滞在費)の使途公開と残金の国庫返納、裏金議員の説明責任の徹底的追及を主張した。また、世界で稼げる産業を育成するために、解雇規制の見直しを労働市場改革の本丸と位置づけた。 

 

 さらに「聖域なき規制改革」として、ライドシェアの完全解禁もぶち上げた。党内で意見が分かれる選択的夫婦別姓についても、1年以内の法制化を宣言した。 

 

 進次郎氏の頭の中には、父・純一郎氏が首相時代に郵政改革を断行したイメージがあったに違いない。純一郎元首相は2005年8月に郵政民営化を問うために衆議院を解散。党内の反対派に“刺客”を送り込み、9月に行われた衆院選で自民党に296議席をもたらした。 

 

 だが、口調が同じ親子でも、同じような幸運に恵まれるとは限らない。前回の総裁選で当初は本命と思われた進次郎氏は、結果的に3位に転落。党員票を期待して提唱した選択的夫婦別姓が、かえって保守票離れの原因となった。 

 

 だから今回は、「党内がまとまる環境が重要」として選択的夫婦別姓を封印することにしたのだろう。要するに「話さないこと」が一番の対策ということだ。 

 

■「即解散」が有力である根拠 

 

 それなら総理総裁に就任後、すぐさま衆議院を解散することに躊躇はないはずだ。石破首相も岸田文雄前首相も、首相就任直後に衆議院を解散した。石破首相は2024年10月4日に所信表明を行い、その5日後に解散。岸田前首相は2021年10月4日に首班指名を受け、その10日後に衆議院を解散している。 

 

 10月4日に新総裁が誕生すれば、同月中旬に首班指名が行われるが、11月にはASEAN(東南アジア諸国連合)やAPEC(アジア太平洋経済協力会議)、G20(主要20カ国・地域首脳会議)といった重要国際会議が迫っている。 

 

 昨年の総裁選の討論会では、上川陽子前外相から、首相になったらカナダ・カナナスキスで開かれる2025年G7(主要国首脳会議)で「何を発言するのか」と問われ、小泉氏は「トルドー首相(当時)が首相に就任したときが43歳。同じ年齢で首相に就任した者同士で、新たな未来志向の外交を切り開く」と答えて、具体的内容には触れなかった。 

 

 

 出馬会見で拉致問題について記者から問われた際には、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記について「トップ同士、同じ世代なわけだから、今までのアプローチにとらわれず、前提条件なく向き合う、新たな機会を模索したい」と述べ、失笑を買った。 

 

 「あの状態で国際舞台に上げ、トランプ大統領や習近平主席、プーチン大統領ら強豪と並ばせなくてはならないのか」と、ため息をつく関係者は少なくない。 

 

 「進次郎政権はもって2カ月だ」と断言する議員もいる。当たり前のことをいかにも特別なことのように繰り返す、いわゆる“進次郎構文”では予算審議を乗り切れないという意味だ。「手ぐすねを引いて国会審議を待っている立憲民主党や国民民主党を、わざわざ喜ばせる必要はない」と打ち明ける自民党関係者もいる。 

 

 昨年の総裁選では父・純一郎氏が「早すぎる」と息子の出馬に反対したのは、そうした現実を痛感しているからだろう。しかし、今回は何も聞こえてこないのは、もう諦めの境地に入っているのか。 

 

■迫る?  自民党の「党じまい」 

 

 今年で結党70年を迎えた自民党は、戦後日本を主導して“パックス・ジャポニカ”(日本による平和)をもたらしたが、「失われた30年」にはほとんど無力で、衆参両院でも少数与党になり果てた。 

 

 平家の例を引くまでもなく、「盛者必衰の理(ことわり)」は存在する。“パックス・ロマーナ”(ローマによる平和)を生み出した五賢帝時代も、紀元後96年に即位したネルウァに始まり、161年に即位したマルクス・アウレリウス・アントニヌスに終わっている。 

 

 もはや「墓じまい」ならぬ、「党じまい」すべきときなのかもしれない。自民党再生の道は、果てしなく遠い。 

 

安積 明子 :ジャーナリスト 

 

 

 
 

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