( 326368 )  2025/09/22 05:55:28  
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大金を投じた出資者たちの怒りは収まらない(筆者提供) 

 

 高利回りを謳い、個人投資家から2000億円超を集めた不動産投資商品「みんなで大家さん」。本誌『週刊ポスト』では、数年前から実情に疑念を抱いていた行政、金融機関とのやりとりや実態を偽るような内部資料について報じてきた。 

 

 そんななか、投資家をつなぎ止めてきた配当が2か月連続でストップ。不安と怒りがピークに達した出資者がついに動き出した──。問題を追及してきたノンフィクション作家の森功氏が出資者らの訴訟の動きをレポートする。(文中敬称略)【全3回の第1回】 

 

 * * * 

「3年くらい前です。みんなで大家さんを2口(200万円)買いました。北九州の農園とシリーズ成田で、順調に配当が振り込まれていたので、心配していなかったのです。でも成田はやっぱり怪しかった。7月の配当がなくなって、みんなで大家さんの会長がネットで言い訳していたけれど、これはダメだと思いましたね。私の配当は8月末でしたが、それも止まってしまった。解約しようとメールしたけれど、梨のつぶてです」 

 

 そう嘆く個人投資家がいた。18ある投資ファンド「シリーズ成田」の配当がすべて止まってしまったみんなで大家さんが、いよいよ集団訴訟を起こされそうだ。 

 

「そもそもみんなで大家さんについては、10年ぐらい前から当事務所の弁護士が相談を受けてきました。今回のシリーズ成田についても、今年の5月頃から『分配金が止まる』という情報をいただいて、注視していたところでした」 

 

 そう説明してくれるのは、東京都内のリンク総合法律事務所に所属する弁護士の小幡歩だ。 

 

「出資金の返還訴訟を提起します。現時点(9月12日)の依頼者5名(出資額は1億4000万円)によるものですが、ご相談が殺到していて、すでに300人ほど、出資額でも20億以上になっています。今後もっと増えると思いますので、この次にはさらに大きな規模の集団で提訴することになると考えています」 

 

 共生バンクグループがその中核である「みんなで大家さん販売」を窓口にして全国の投資家からかき集めた出資金は、2000億円を超える。うち問題となっている投資対象事業「共生日本ゲートウェイ成田」プロジェクト(PJ)の投資額は、1500億円超と75%を占める。その配当がすべて止まったので、出資者たちがテンヤワンヤしているのだ。 

 

 

 冒頭の投資家、宮畑理央(仮名48歳)もその一人だ。銀座でバーを経営している佳人で、さすが銀座のママだけに、個人の投資資金はトータル3000万円ほどあるとか。 

 

「水商売をやっているので、店の引っ越し費用なんか、急にお金が必要になるときもあるでしょう。それで多少手元にお金を置いていて、銀行に預けておくよりは運用したほうがいいかな、といろんなところに投資しています。といっても、ギャンブル性の高い投資は嫌だから、投資信託やイデコ、S&P500とか(自動運用サービスの)ウェルスナビとか……。 

 

 で、たまたまみんなで大家さんのテレビCMを見て、たまには不動産投資もいいかな、と手を出したのが失敗でした」 

 

 テレビCMは例の「てぇへんだ、てぇへんだ」という時代劇風のあれだ。2022年8月、理央ママの買ったファンドが、福岡県北九州市と水巻町にまたがる施設内にある「アグレボバイオテクノロジーセンター」の「みんなで大家さん39号」だった。同社のウェブサイトを覗くと、〈「アグレボ」とは「agriculture(農業)revolution(革命)」の略〉として次のように謳う。 

 

〈バナナを中心に種苗が生産されており、対象不動産で生産された苗は通常24ヶ月程度かかるところ、わずか6ヶ月目で収穫可能です。苗の成長に必要な日照も従来の6分の1で足りるため、従来のように日照差で収穫量が大きく左右されにくいため短期間に安定した収穫が見込めます〉 

 

 みんなで大家さん39号は、共生バンクグループの「都市綜研インベストファンド」が2019年12月に運用を始めている。投資期間は5年なので、理央ママは途中から参加したわけだ。この投資商品は昨年11月には元本の償還満期を迎えるはずだったが、償還が1年延期され、今にいたっている。当人はほとんどあきらめ顔だ。 

 

「CMを見てネットで検索して申し込んだのですが、私にとっては、一口100万円で年利7%というのも安心材料でした。大手の不動産投資商品だと3%程度ですが、7%はほどほどなので、比較的健全だと感じました。株式投資だと10~20%の利益が出る代わり、元本割れのリスクも高い。実際、農園と成田の商品ではこの3年間、月に1万円近く振り込まれてきました」 

 

 理央ママの投資したもう一つの商品が、成田PJのシリーズ成田だ。それぞれふた月に一度の配当なので毎月1万円ほどの配当があったようだが、そのうちシリーズ成田の配当が止まったから、解約を申し出たという。 

 

「向こうにメールしても連絡が途絶えてしまっていますから、どうすればいいのでしょうか。アグレボ農園のほうは、そろそろ(11月)元本の償還がある予定になっていますが、それも難しいでしょうね。投資は自己責任なのはわかっています。けれど、もし事業実態のない詐欺で騙していたとすれば、許せません」 

 

(第2回へ続く) 

 

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 マネーポストWEBの関連記事《【みんなで大家さん問題】出資者たちが20億円返還訴訟へ「虎の子の退職金と年金を失った70代男性」「CMを見て手を出した銀座のママ」なぜ大金を投じてしまったのか》では、みんなで大家さんの出資者たちの嘆きや、なぜ大金を投じてしまったのかについて詳細に紹介するとともに、返金訴訟に対する見通しを弁護士に聞いている。 

 

【プロフィール】 

森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション大賞受賞。『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』、『菅義偉の正体』、『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』など著書多数。 

 

※週刊ポスト2025年10月3日号 

 

 

 
 

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