( 326423 ) 2025/09/22 06:51:17 0 00 TBS CROSS DIG with Bloomberg
■参院選で争点化した外国人問題
2025年7月の参議院議員選挙(参院選)では、外国人問題が大きな争点として浮上した。
表面的には、参院選の前哨戦となった東京都議会議員選挙で参政党が躍進し、その「日本人ファースト」の政策に注目が集まり、他党もこれに応戦する形で自らの主張を展開したことが要因である。
ただ、外国人問題がここまで注目されるようになったのは、単に政党間の主張が激しくぶつかったことだけが要因ではない。
有権者の関心がこの問題に向かわなければ、原発政策や夫婦別姓など、他の論点と同じく埋もれることになったはずだ。
そこで本稿では、今回の参院選で外国人問題に注目が集まった背景について整理し、政策的にこれから対処していくべき課題について考察する。
■外国人問題が過熱した背景
本稿では、複数要因の重なりとして背景を整理する。この問題は、客観的事実に基づき定量化できるものではなく、有権者の主観により様々な要素(既存の政治への不満や他の争点)の中で、取捨選択されていくものだからである。
ただ、有権者の関心が、どのような経路を辿って外国人問題に向かっていったのか、それを類推することはできる。
例えば、国民的な合意形成のないまま進む政策があり、物価高騰で国民生活が苦しくなり将来不安が高まる中で、表面化し始めた政策上の課題に国民の不満が向けられたと、整理することもできるのではないだろうか。
■1 燻り続けた火種〜合意形成がないまま進んだ外国人政策〜
日本の外国人政策は、短期・ローテーション型の受け入れから長期・定着型の受け入れへと変わってきている。
その政策転換の流れを決定づけたのは、本格的な外国人労働者の受け入れ拡大を決めた2018年の入管法改正(出入国管理及び難民認定法改正)であったと思われる。
この改正では、アベノミクスで経済が浮揚する中、深刻化する人手不足対策として、建設・造船など14業種(2025年時点で16業種)における外国人労働者の受け入れを決めた。
その際に創設された特定技能制度では、2号資格において在留期間の制限をなくし(更新可能)、有為な外国人材を本格的に定着させる方向へと政策の舵を切っている。
ただ、当時の世論調査をみると、経済的な必要性から外国人労働者の受け入れ拡大を容認する層と、外国人の急増で地域住民との摩擦が生じることを懸念する層の間で賛否が拮抗し、世論が2分された状態が確認される。
この状況は、直近の世論調査でも大きく変わっていない。
今回の参院選前後の世論調査を見ると、朝日新聞の結果にみられるように労働者としての側面では肯定的に受け止められる一方、生活者としての側面を含む、外国人との包括的な設問の立て方を採った読売新聞や日経新聞の結果をみると、賛否が拮抗している様子を確認できる。
これらの結果を踏まえれば、外国人の受け入れに賛成か・反対かの二元論で語る場合には、潜在的に議論が過熱しやすいという状況があったと言える。
■2 社会不安の高まり〜物価高騰による足元の苦境、生活がよくならないという将来不安〜
今回の参院選では、国民民主党と参政党が現役世代の支持を背景に勢力を伸ばしている。
とりわけ、国民民主党は30代以下の若い世代からの支持が厚く、参政党は若い世代に加えて、40代・50代の壮年層にも支持が広がっている。
選挙戦では、いずれの政党も外国人に対して規制強化を掲げ、国民民主党は「外国人に対して適用される諸制度の運用の適正化」を訴え、参政党は「日本人ファースト」を掲げて、外国人の受け入れに批判的な立場を取ってきた。
ただ、これら政党の支持層である20代・30代の若い世代は、どちらかと言えば外国人に対して比較的寛容な世代であったという点は注目に値する。
この層が外国人規制を強化する政策を支持するようになるには、何らかの合理的な根拠が必要になる。そこで考えられるものとして挙げられるのが、インフレによる足元の経済苦境と将来見通しの悪化である。
足元の経済状況をみると、インフレが国民生活を圧迫している。
2025年7月の消費者物価上昇率は、現実の購買活動により近いとされる「持家の帰属家賃を除く物価指数」で前年同月比+3.5%と、2024年12月以来4%近い伸び率を続けている。
今回のインフレは、食料品やエネルギーで値上がりが大きく、所得が低い層への影響が相対的に大きいといった特徴がある。
足もとでは、不動産価格も値上がりし、その流れは相対的に上がりにくいとされる賃料にも波及している。
とりわけ、首都圏の家賃上昇率は大きく、2021年以降で比較すると、単身者向け物件は約2割、ファミリー向け物件で約4割上昇している。
そうした中で、名目賃金を消費者物価で割り引いた実質賃金は伸び悩み、実持続的・安定的なプラス化の見通しも後づれし、経済的なゆとりと見通しが持てない人が、現役世代を中心に増えている。
20代・30代の若い層は、不動産価格や家賃が上がる中で、将来自分たちが望む暮らしができないのではないかといった不安を感じやすく、外国人による不動産投資が値上がりの要因であるという見方を受け入れやすい。
また、40代・50代の壮年層は、就職氷河期世代に重なる層であり、不本意非正規雇用の割合も高い層である。
派遣社員など非正規で働く層は、外国人労働者と競合が発生する可能性が相対的に高く、事実の検証は必要であるにしても、仕事を奪われる、賃金上昇が妨げられるという理論が、理屈上は成立する。
こうした不安や不満が、住宅取得や雇用獲得で潜在的に競合相手となり得る外国人と結びつき、反発や不安が強まって行ったとみることができる。
■3 矛先としての外国人〜接触機会の増加、表面化した問題〜
ここ最近、外国人の存在感は、以前より遥かに高まっている。2024年12月時点で日本に暮らす在留外国人は約377万人であり、同10月時点の外国人労働者数は約230万人、2024年の訪日外客数は約3,687万人と、いずれも過去最高を更新している。
外国人は日本経済にとって、生活者としては内需拡大、労働者としては人手不足の緩和、訪日客としてはサービス消費の拡大などに貢献する。
その一方で、外国人が急増している地域社会や観光地といった現場では、受け入れ態勢の整備が追い付かず、様々な問題も顕在化しつつある。
例えば、観光客が地域の受け入れ能力を超えて流入するオーバーツーリズムの問題は、インバウンド需要の拡大と共に大きくなっている。
実際、オーバーツーリズムに関する報道量は、コロナ禍後の訪日外客数の回復と重なるように増加している。
さらに、外国人技能実習生が関わる事件も立て続けに起き、外国人に関する問題が認識されやすい状況があったことも事実である。
■排外主義ではなく、包摂の拡大
■1 国際的な潮流の日本への波及
外国人政策は、欧米でも政治的なイシューとなっている。例えば、米国におけるトランプ政権の誕生、フランスにおける国民連合(RN)の躍進、ドイツにおける極右政党ドイツのための選択肢(AfD)の支持拡大などである。
これらは、格差拡大や生活実感の悪化が既存政治への批判につながり、それが大量に流入してくる移民への不安や不満と結びついて、排外主義を掲げるポピュリズム政党が支持を集めた事例である。
ただ、日本の場合、外国人人口が総人口に占める割合は2.8%と、先の事例にあった米国の15.2%、フランスの13.8%、ドイツの19.8%と比べれば、まだ低いと言える水準にある。
ストックで見る限りでは、外国人の存在が日本で決定的に大きな影響を及ぼしているとまでは言い難い。
それでもフローで見れば、日本で暮らす在留外国人数は3年連続10%超で増えている。この急激な増加が、外国人に対する不安感を高めているということは考えられる。
■2 外国人なしに回らない日本社会の現実
一方で、日本が置かれた現実は、よりシビアである。すでに日本は少子高齢化で人口減少が進み、社会の支え手である労働人口の縮小という供給面の制約に直面している。
厚生労働省の推計によれば、2040年時点で介護職員は57万人不足し、厚労省の需要推計などから一定の仮定をおいて推計すると、看護職員も45万人ほど不足することが見込まれる。
これらの人材は、高度なコミュニケーションや、精緻かつ非定型な作業が必要となるため、AI(人工知能)やロボットによる置き換えが容易ではない。
社会保障制度は、人繰りの面で危機的な状況にあり、人材確保が喫緊の課題となっている。
また、便利な生活の代名詞でもあるコンビニでは、外国人の存在なしに24時間営業を維持できなくなり、地域社会と密接に関わるタクシーやラストワンマイルを支える物流でも、増加する需要に追い付かない事態が生じている。
現実問題として、外国人の力に頼らざるを得ない面は強く、安易な排外主義に陥れば、日本の将来に大きな支障を来しかねない。
■3 外国人政策の重点は適正化にシフト
参院選の結果を踏まえた国会の議席状況から考えると、国内の外国人政策はしばらく厳格化する流れとなる。
実際、今年5月には、2030年までに退去強制が確定した外国人数の半減を目指す「不法滞在者ゼロプラン」が発表され、参院選後には特定技能以外の在留資格でも受け入れ上限を設けることに加えて、外国人の不動産取得や投機を規制する法案提出も検討されている。
選挙期間中には、「外国人は相続税を払っていない」「生活保護受給者の3分の1は外国人」など、事実に基づかない議論も多くあったが、現在の外国人政策が「対症療法的で、統一方針がない」といった問題があることも事実であり、それらの問題が適正化していくこと自体は望ましい流れと言える。
ここでの問題は、本格的に排外主義と結びついて、日本が内向きにクローズしてしまったとの印象を世界に与えないことだろう。
そのためには、今回の動きは外国人政策の適正化であり、いま適法に在留・就労する外国人の権利や生活には、不当な影響を与えないことを明確に打ち出すことが必要である。
曖昧さは不安につながる。明確な定義のもとで今後検討されていく措置が、外国人と日本社会との摩擦を減らすものであることを、しっかり説明していく必要がある。
|
![]() |