( 326673 )  2025/09/23 06:34:26  
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タイミー側は「休業補償は必要ない」と主張(公式ホームページより) 

 

“新しい働き方”として持て囃されてきたスキマバイト(スポットワーク)をめぐり、本誌『週刊ポスト』はいち早く、企業側の都合で仕事がキャンセルされるケースが頻発し、「働き手軽視」の実態があると追及してきた。ついに厚労省が注意喚起に動き、業界側も改善を打ち出すが、問題はまだ終わらない。過去のキャンセル分の休業補償について、最大手のタイミーと厚労省の見解に大きな隔たりがあるのだ。 

 

 厚労省は7月、〈「知らない」では済まされない「スポットワーク」の労務管理〉というリーフレットを公表し、「労働契約成立時期の明確化」と「休業手当の支払い」の義務を指針として明示した。これを受け、業界団体・スポットワーク協会も適切な労務管理へ向けた考え方を公表して、「働き手の保護」を打ち出した。 

 

 問題となっているのが「企業側キャンセル」だ。業界の最大手・タイミーをはじめとするスキマバイトのサービスは、アプリ上で求人を検索して勤務時間や報酬などの条件が合う仕事に申し込む。マッチング後、勤務当日は仕事を始める時と終わる時に勤務先にあるQRコードを読み込めば報酬が確定する。 

 

 だがマッチング後に企業がキャンセルしても働き手に補償が支払われず、働き手が不利益を被るケースが頻出した。業界内ではこうした企業都合によるキャンセル率は10~15%の水準とされる。 

 

 タイミー側はこれまで「働き手がQRコードを読み込んだ時点」で労働契約が成立すると主張していたが、厚労省が7月に公表した先の指針では、“別途特段の合意”がない場合は、「事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募した時点」において、労使双方の合意があったとして労働契約が成立するとの見解を打ち出した。 

 

 問題となるのが、マッチング後のキャンセルに対する未払い賃金の発生だ。現行の労働基準法で過去3年にわたって請求できると定められる未払い賃金は、300億円を超えるとの試算がある。この問題を追及する松井春樹弁護士が語る。 

 

「スポットワーク研究所が推計するスポットワークの過去3年間の市場規模2319億円に業界内で見込まれるキャンセル率を当てはめると、未払い賃金は300億円以上に達します」 

 

 

 こうした巨額の補償に対してスポットワーク業者や雇い主の企業はどう対応するのか。タイミーは本誌の取材に対し、厚労省が示した指針について、「過去に遡って休業手当を支払う必要があるとの考えを示すものではない」と主張し、その理由をこう述べた。 

 

「厚生労働省のリーフレットの記載にもある通り、スポットワークサービスの利用において就業当日に労働契約が成立するとの『別途特段の合意』があれば当然それにしたがって労働契約が成立するためです」と述べた。 

 

 要は、就業当日に労働契約が成立することは厚労省が指定する「別途特段の合意」に該当するとの見解で、これまではマッチング時ではなく、あくまで働き手が勤務当日にQRコードを読み込んだ時点で労働契約が成立していた──だから休業補償は必要ないとの主張である。 

 

 一方の厚労省は本誌の取材に対し、リーフレットは「従前からの留意事項を記したもの」であり、個々の事例において具体的にどの時点で労働契約が成立するかについては「民事上の問題で、最終的には司法で判断される」と回答した。最終判断には踏み込まないものの、過去の休業補償について「支払わなくていい」とする、タイミー側の解釈とは見解を異にしていることがわかった。 

 

 過去の休業補償を回避しようとする姿勢が垣間見えるタイミー側の対応について前出の松井弁護士は、「その主張に妥当性はない」と指摘する。 

 

「まず合意があれば問題ないという考えが疑問です。労働契約の成立時期は、休業手当の支払義務等の当事者の合意と関係なく適用される『強行法規』に関わり、成立を後ろ倒す合意を交わしたかの形式でなく、実態で判断するのが最高裁を含む労働法の考えです。その観点から労働契約の成立時期は、応募完了時になると思われます。 

 

 また、問題の合意は休業手当逃れのもので労基法違反とする専門家もいます。さらにタイミーは雇い主向けのヘルプページで『当日はよろしくお願いします』との記載を推奨しています。これは雇い主による労働契約の承諾以外の何物でもなく、就業当日に(契約が)成立するとのタイミーの主張と矛盾しています」 

 

 タイミー側が主張するような、「別途特段の合意」があったともみなせないというのだ。むしろ企業は巨額の補償と真摯に向き合うべきだと松井弁護士は主張する。 

 

「厚労省の指針は新たなルールではなく、以前からある労働法の解釈を示しただけです。労働契約は過去のものも含めてマッチング時に成立していたと考えられるため、企業は過去に遡って未払賃金支払義務を負うと考えます」 

 

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※週刊ポスト2025年10月3日号 

 

 

 
 

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