( 326678 )  2025/09/23 06:36:20  
00

NRI研究員の時事解説 

 

自民党総裁選への立候補を表明した高市前経済安保相は、19日に記者会見で政策案を発表した。「防衛力の裏付けのない外交は弱い」と発言するなど、予想通りではあるが、防衛力の強化、経済安全保障の強化、外国人政策など、候補者5人の中で最も保守色が強い政策を掲げている。 

 

ただし、こうした強い保守性が、仮に高市氏が総裁、首相になった場合、野党との連携を難しくし、政権運営が行き詰まることを懸念する声も党内にはあるだろう。総裁選に向けたそうした自らの弱点を補う狙いがあったと推察されるが、高市氏は国民民主党や立憲民主党など野党が掲げる減税策を積極的に受け入れる姿勢を見せた。これ以外に、日本維新の会が掲げる「副首都構想」を念頭に置いた発言をするなど、新たな連立相手には言及しなかったものの、連携を意識した政策メニューを広く掲げ、野党に秋波を送った感がある。また、外国人対策や財務省批判など、世論に配慮した発言もしている。 

 

ちなみに、高市氏が靖国参拝を明言しなかったことは、保守性の強さに対する党内での批判に配慮した軌道修正との見方が出ている。 

 

高市氏は積極財政論者であることで知られるが、今回の記者会見でもその点は明らかだった。高市氏は「戦略的な財政出動は雇用を増やし消費マインドを改善させる」とし、財政政策を通じた経済環境の改善を目指す。 

 

また高市氏は、「世界の潮流は行き過ぎた緊縮財政ではなく責任ある積極財政」と主張した。米国では大型減税の恒久化、欧州では軍事費とインフラ投資の拡大、中国では経済対策の拡大など、世界規模で財政政策に拡張傾向が強まっていることは確かである。しかし、それらは環境変化によって実施を迫られている面が強く、必ずしも多くの支持を得て積極的に推進されている訳ではない。また、世界全体として財政拡張色が強まっていることで、世界の国債市場で長期・超長期の金利が上振れ、金融市場や経済の安定を損ねることも懸念されている。 

 

高市氏は、財政の健全性は重要であるが、緊縮財政が経済を悪化させれば、税収も落ちてしまうため、財政赤字はむしろ拡大し、元も子もなくなる、といった主旨の発言をしている。他方、責任ある積極財政で「税収が自然増する強い経済を目指す」「恩恵は未来の納税者に及ぶ」と主張する。 

 

積極財政で景気を浮揚させ、税収増加を通じて財政環境の改善を目指すという考えは、今までも繰り返し主張されてきたが、それが実現したことはないと言えるだろう。そうした考えに基づく財政政策が、ここまでの政府債務の累積を許し、それが経済の潜在力を損ねてきた面がある。 

 

重要なのは、経済に大きな打撃を与える極端な緊縮財政策を進めることではなく、中長期的に財政健全化を強く意識した財政政策運営を常に心掛けることだ。 

 

 

冒頭でも述べたように、高市氏は、野党の意見を取り入れた減税策を打ち出した点が注目される。 

 

減税策について高市氏は、1)所得税の年収の壁引き上げ、2)給付付き税額控除、3)ガソリンの暫定税率の廃止、を掲げた。1)所得税の年収の壁引き上げは、国民民主党の意見を取り入れたもの、2)は立憲民主党の意見を取り入れたもの、3)ガソリンの暫定税率の廃止は野党全体の意見を取り入れたもの、と言える。野党との連携を強く意識した政策案と言えるのではないか。 

 

所得税の年収の壁引き上げは課税最低限を引き上げる施策であるが、高額所得層ほど減税規模は大きくなる。他方、給付付き税額控除は非課税世帯や納税額が少ない低所得層の所得を支援する施策であり、政策の効果が異なる。両者を同時に掲げることには、矛盾があるのではないか。 

 

野党との幅広い連携を意識した結果、全方位外交的な政策プランになった面があるが、本来は自らの政策理念を体現する施策に絞って打ち出すべきではないか。 

 

高市氏は、以前に消費税の軽減税率の一時廃止を主張していたが、今回の政策案には盛り込まれなかった。この点について、消費税率引き下げには時間を要することを挙げている。 

 

今回の総裁選で、消費税減税を積極的に掲げる候補者はいない。先般の参院選で野党各党はみな消費税減税を公約に掲げたが、選挙後、野党各党は消費税減税よりも、自らの特色ある施策の実現を目指す姿勢だ。また、財源を確保することが難しいことが、消費税減税の議論は盛り上がっていない背景にあるようにも見える。 

 

そうした中で、自民党総裁候補者も、消費税減税ではなく所得減税など野党各党との連携がよりとりやすい施策を掲げる傾向がみられる。 

 

 

木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) 

--- 

この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/media/column/)に掲載されたものです。 

 

 

 
 

IMAGE