( 326861 ) 2025/09/24 05:33:03 1 00 「走行距離課税」の導入が検討されていると報道されているが、この新税制は特に地方や中小企業に大きな影響を与える可能性がある。 |
( 326863 ) 2025/09/24 05:33:03 0 00 「走行距離課税」の影響を受けるのは地方だけではなく、自給率が極端に低いエリアではトラックの負担増による値上げラッシュを食らうだろう(写真:千和/PIXTA)
25.1円も上乗せされていた「暫定税率」の廃止で、ガソリン代が安くなる!! と喜んでいたら、新たな「走行距離課税」が検討されているらしい……そんな報道が最近増えてきている。
従来の一定課税ではなく、走行距離分から課税する。この方式では、何をするにもクルマでの長距離移動が必要な地方の人々や、長距離運転で荷物を運ぶ物流業者は重税に悩まされるだろう。反対意見は当然多いが、地方別・走行の用途別に税率の係数をかけて負担を軽減すれば、公正な負担になるという意見もある。
この「走行距離課税」、果たして実現できるのだろうか? 新税制の導入で絶大な影響を受けそうな、「トラック利用が多く、軽トラ・営業車が1日数百キロ走る」会社の営業マンであった筆者の立場から、検証してみよう。
■なぜいま走行距離課税? 背景には「エコカー減収」「インフラ資金獲得」
報道各社とも「水面下で検討」などのおぼろげな表現で、さも議論されているかのような報道がなされている「走行距離課税」。ひとまずは「政府が水面下で、具体的に検討している」前提で、話を進めていく。
走った分だけ税金を取られるという「走行距離課税」だが、なぜ急に「導入検討」が噂されるようになったのか? 背景には「暫定税率・エコカー関係の税収減」と「老朽化した道路改修の予算不足」がある。
まず、先に述べた暫定税率(1ℓ当たり53.8円のガソリン税のうち、25.1円)の廃止によって、あわせて1.5兆円程度の減収が見込まれている。さらに、エコカーの普及によるガソリン税減収、エコカー減税分の減収が加わると……小泉政権時の「道路特定財源」廃止時には5兆円強あった「道路関係もろもろに充てるお金」が、かなりの割合で消し飛んでいる。さらに現在は一般財源化されているため、道路以外にへの利用も、できなくはない。
そしてこのタイミングで、埼玉県八潮市の道路陥没事故が起きてしまった。石破首相は老朽化した道路・インフラのチェックを指示したが、南海トラフ対策などと合わせた「国土強靭化」の素案に要する資金は、5年で20兆円ほど。今後ともトラブルが多発するであろう、老朽化した道路・インフラ更新の財源として、新しい自動車税が議論されるようになった。ここまでは、推測でも水面下でもなく、確かな話だ。
■エコカーやEV車普及時代の税収を考慮している?
では、なぜ「走行距離課税」が浮上しているのか? 理由は「課税の公平性」と称されているが……要は「エコカーからも税収を獲れるシステムづくり」と言っていいだろう。
エコカーはガソリン車よりCO2の排出=環境への負荷が少なく、導入に向けた熱心な取り組み=いわば「環境配慮してますよアピール」は、各国とも共通するところだ。しかし、エコカーからは電気で走る分だけガソリン税を得られず、「エコカー減税」で自動車重量税、「グリーン化特例」で自動車税・軽自動車税を優遇してきた分、税収も少ない。
今後、世界中で進んでいくと見られるエコカー普及を止めるわけにもいかず、いま各国で推進に消極的なのはドナルド・トランプ米大統領くらいのもので……この先も、税収減少は避けられない。
こうして、石油元売(出光・コスモなど)が中心となった「石油連盟」などの業界団体が、「自動車用燃料・エネルギーに対する課税の公平性確保」という名目で、走行距離課税の導入推進への提言を続けている。
なにぶん、石油連盟・石油元売にとってエコカーは「ガソリンを使わず税金負担もガソリン車に押し付けるクルマ」であり、こういった格差を是正したいのだろう。
ただ、このタイミングで導入するとなると、暫定税率廃止で「ガソリンが安くなる、わーい!」とはしゃいでいた人々に、形を変えただけの「走行距離課税」という氷水をぶっかけるようなもの。あまりの間合いの悪さに「暫定税率を景気回復につなげる気、あるのかな?」と呆れるのは、筆者だけではないだろう。
ただ、実際に走行距離課税を導入するにしても、現段階で「実現は不可能じゃないのか?」と、感じざるを得ない。ここからは、走行距離にして1日300〜400Kmも走行する営業マン・会社役員であった筆者の立場から、「実際に導入された場合、別の格差が発生してしまいそうな」事態を予測していく。
■「走行距離課税」の影響を受けるのは地方だけではない
何をするにもクルマは必要で、長時間ハンドルを握りがちな地方と、あまり運転の必要がない都市圏。走行距離に差が出る分、地方と都市圏で払う税額に差も出る。これが、経営基盤が脆弱な企業が多い地域の、経済崩壊につながるのでは? こういった懸念が、「走行距離課税」ではよく持たれがちだ。
ただ、実際に影響を受けるのは地方だけではない。一定以上の長距離輸送を長大貨物列車に頼るアメリカなどと違って、自給率が極端に低く、近郊からの距離が中途半端すぎて鉄道・フェリーへの振り替えが利かない東京・首都圏近郊や、多くの生活物資を中四国・九州に頼る大阪は、トラックの負担増による値上げラッシュを、殊更に食らうだろう。
また、おそらく企業の規模ごとに、負担額に差が出る。47都道府県に拠点を持って地域内で物流・輸送を完結できる大手企業と、拠点が2、3カ所しかない中小企業では、走行距離も違うのは当然の話。三重県四日市市・広島市・福岡県苅田町などの工業地帯にそれぞれ事業所を持つ会社と、大阪にしか拠点がなく「あぁ、行ってきてね〜」となる中小企業では、走行距離に違いが出るのは当たり前だ。
地方の零細業者の場合は、こういった負担増がきっかけで「会社ごと閉めてしまう」可能性も否定できない。
ただ、さまざまな業界団体や有識者から「対:都市圏や長距離で納税の係数をかければ」という提案がなされている。これで、納税の不公平感も解消される……この場合、別問題である「新たな格差」が生じるだろう。
「係数」といっても、影響の大きい対:東京・大阪で係数をかけて税制軽減をはかるのも、地域ごとの差別が過ぎる。
生活に必要な「物流」「食品輸送」などの縛りで係数をかけるにしても、「畑から選果場への軽トラ輸送」「到着先の物流倉庫から店舗への輸送」など、メインの長距離以外のフィーダー輸送を、どこからどこまで優遇するのか。かかわる人々をすべて納得させる決まりを、すんなり調整して作れるのか。複雑な計算式が前提となり、現場に負担が重くのしかかるのでは……と思えてくる。
そもそも、どの業界も地域ごとの事情や、業界ごとの事情・会社の大小など、考慮しなくてはいけない懸案が山積み。このあたりの不公平をならすルールを作成できたとして、何年かかるのか。
こうなると、走行距離課税は「ザル法」であり、「エコカーとガソリン車はろくに格差是正されない、課税係数で生まれたあらたな格差で、いたるところで紛糾」といった未来予想図しか見えない。おそらくエンドレスで特殊ルールの議論が続くであろう、といった疑念が、筆者が「走行距離課税、結局無理では?」と感じる一因だ。
そもそも、欧米の「走行距離課税」は、1993年のEU誕生後に各国のガソリン価格がバラバラになったことや、高速道路の有料・無料が各国で介在して不公平が生じたことから、1999年の「ユーロニビニエット指令」以降に是正策として始まったものだ。
だいたい、EV促進策も道路の老朽化も相当前からわかっており、将来的な財源の必要性もわかっていたはずだ。にもかかわらず、“暫定税率”を恒久化することもなく、特定財源を一般化したうえで「税収の使用途は広がるものの、今後は道路が老朽化するからちょっとは取っておこうね?」という基本的な提言もしなかった。
聖域なき人気取りに甘んじて、必要な財源をさっぱり確保しなかったツケがいま「走行距離課税」として、働く人々の現場に回ってきたようなもの。正直、心情的にも払いたくないところだ。
■大騒ぎのわりに「議事録でちょっと意見が出ただけ」不毛な自動車新税論、いつまで続く?
ただ、これまでの「走行距離課税」議論で、ぬぐえない疑問がある。新聞報道による「提言」「推測」は頻繁にあるものの、表立って「検討」されている様子が、さっぱり見えないのだ。
まず、「走行距離課税」というキーワードが、税制調査会で公的な議論として出てきたのは、いつだろうか? 「税制調査会(第20回総会)」(2022年10月26日開催)で、「自動車関連の新税」について、慶応大学・土居丈朗教授が、以下のように発言している。
「電動車であっても、走行課税をどういうふうにすればいいかということをそろそろ真剣に考える必要があると思います。例えば、走行距離に応じて課税するなど、かなり踏み込んで具体的な走行課税について議論することを私は提案したいと思います」
議事録を見る限り、土居氏の提言で議論が活発化した……ということはなく、他の議題に移っている。しかし、同日の夜22時に公開された日本経済新聞の記事では「走行距離課税の導入議論」との見出しが飾った。
同時期に国会で、鈴木俊一財務大臣(当時)が予算委員会で質問に答えているが、「考え方のひとつ」と答えるにとどめている。しかし報道各社は実体のない「具体的な議論」に食いつき、岸田文雄首相(当時)が「具体的に検討していることはない」と、“火消し答弁”を行うことで、騒ぎは収まった。
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