( 326883 ) 2025/09/24 05:58:11 0 00 出資者たちのショックは大きい(イメージ)
高利回りを謳い、個人投資家から巨額の出資金を集めた不動産投資商品「みんなで大家さん」。配当が2か月連続でストップし、出資者たちの不安と怒りがピークに達し、出資金の返還訴訟の動きも始まっている。
共生バンクグループがその中核である「みんなで大家さん販売」を窓口にして全国の投資家からかき集めた出資金は、2000億円を超える。うち問題となっている投資対象事業「共生日本ゲートウェイ成田」プロジェクト(PJ)の投資額は、1500億円超と75%を占める。その配当がすべて止まったのだ。北九州市選出の代議士・緒方林太郎氏は、いち早く共生バンクグループの事業を問題視して国会でも追及してきた。ノンフィクション作家の森功氏がレポートする。(文中敬称略)【全3回の第3回】
* * * 緒方はここから成田PJを調べ始め、数年来、国会でもファンドや法律を所管する国交大臣に質問してきた。挙句、今度のシリーズ成田の配当ストップなのである。2024年1月に4口400万円をシリーズ成田に投資した関東在住の伊東啓(仮名71歳)はこう吐き捨てる。
「これまで株はもちろん投資というものをやったことがありませんでした。でもこの成田PJについては、成田市が事業を許可し、成田国際空港が土地を提供している大がかりな計画だとわかった。資料を取り寄せましたら、この会社は過去にもいろんな不動産プロジェクトをやっていて、ほとんどの事業で配当金が滞りなく支払われている、と書かれていた。だから、安心してしまったのです」
成田PJでは成田市という行政のお墨付きに加え、共生バンクが46万ヘクタールある計画予定地の4割を成田国際空港から賃借している。空港は2004年4月に民営化されたとはいえ、日本政府が株の100%を所有し、歴代社長の多くは国交省の天下り組が占めてきた。これらが投資家たちの安心材料になってきた面は否めない。伊東が悔やむ。
「それにコロナ禍が終わってインバウンドが増えている時期だったので、波に乗るいい計画だと思い込んでしまいました。配当は2024年の5月から、7月、9月と奇数月に1回あたり3万7000円前後が振り込まれていました。今年5月までは振り込みがあったんですが、7月末になって突然謝罪メールが来ましてね。すぐにサイトで解約を申し込み、出資金を全額返してくれという旨を書いた内容証明郵便を作って送ったんですが……」
70歳を超えている伊東には年金以外の収入がない。文字通り、虎の子が目の前から消えたショックは大きい。
「400万円は退職金と年金をチマチマ貯めていた金でした。2か月に1度の3万7000円は、老後資金として、年金プラスアルファのつもりでした。今にして思えば、みんなで大家さんはずい分前から疑惑が燻っていたらしいので、もう少し調べておけばよかったと悔やまれます」
伊東はいまだ共生バンクからの返金がないので、裁判に持ち込むつもりだという。
「投資は家族にも内緒でした。本当に恥ずかしいから今でも話してないんです。仮に裁判に勝ったら、家族に『こんなことがあった』と笑い話で打ち明けられます。けれど、400万円が返って来るかどうか、不安でたまりません。だからLINEのグループチャットに入ってみんなで大家さんの被害の情報収集をしています。そのひとつには700人ほどが集まっています」
複数あるLINEのグループチャットには、さまざまな声があがっている。なかには裁判に触れた投稿も少なくない。
〈裁判で勝ってお金が戻る確率は少ないような? (会社が)破産する前に少数の人で勝訴すれば訳前が多い。って事かな?〉(原文ママ)
あるいは次のような声もある。
〈かなり前に送った内容証明は無視されたので、リンク法律事務所に電話しました。説明会に参加することに決定!〉
リンク総合法律事務所の弁護士の小幡に裁判の見通しを聞いた。
「成田PJは問題がわかりやすい。計画地の価格自体が市場価格に基づかず、グループ内で市場価格の100倍に評価されている。そこが一番大きな問題です。実際に土地を売却するとして、その金額で売れるのか。極めて疑問があります」
こうたたみかける。
「みんなで大家さんのパンフレットには、さすがに元本保証とは書いてないですが、元本の安全性を高めた商品であると宣伝しています。安全面は、定期預金がいちばんで、次が個人年金保険、その次がみんなで大家さんと書かれています。投資信託やJリートより安全だと強調されていて、株式投資には株価の変動により元本割れの可能性もあると……」
つまるところ、投資リスクについての説明が足りず、買いやすいように誘導しているというわけだ。リスクの説明不足は投資商品として大きな欠陥といえる。現に共生バンクに事業許可を下ろした東京都や大阪府は昨年6月、出資者に対する投資リスクなどの説明不足による1か月の業務停止という行政処分を下している。このときも解約が殺到した。
かたや、共生バンクでは逆に東京都や大阪府に対し、業務停止の執行停止などを求めて提訴する反撃に出た。地裁で共生バンク側が勝ち、高裁で行政側が逆転、現在も訴訟が続いている。もとより業務停止はひと月だけなので、みんなで大家さんは裁判の続く間も営業を続け、さらに被害が膨らんだのではないか。そう言わざるをえない。出資金の返還訴訟について、小幡が言う。
「民事裁判で、出資金の返還請求や損害賠償請求が問題となります。刑事事件になる場合には、不動産特定共同事業法違反に問われる可能性もありますが、さらに騙す意思が働いていたレベルになれば詐欺罪という話になります」
共生バンクは「訴訟提起の事実を把握しておりませんが、訴状が裁判所から届きましたら、誠実に訴訟対応を行って参る所存です」としている。バナナ農園にしろ、成田PJにしろ、共生バンク側はあくまで計画を進めていると言い張る。だが、それらはアリバイ作りにしか思えない。
* * * マネーポストWEBの関連記事《【みんなで大家さん問題】出資者たちが20億円返還訴訟へ「虎の子の退職金と年金を失った70代男性」「CMを見て手を出した銀座のママ」なぜ大金を投じてしまったのか》では、みんなで大家さんの出資者たちの嘆きや、なぜ大金を投じてしまったのかについて詳細に紹介するとともに、返金訴訟に対する見通しを弁護士に聞いている。
【プロフィール】 森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション大賞受賞。『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』、『菅義偉の正体』、『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』など著書多数。
※週刊ポスト2025年10月3日号
|
![]() |