( 326893 )  2025/09/24 06:09:14  
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日テレNEWS NNN 

 

「私は法を犯しておらず、潔白であると思っています」「警察から事情聴取などされた会長、社長はみんな辞めないといけないんでしょうか? そんな事例はつくってはいけない」 

 

サントリーホールディングスが新浪剛史氏の会長辞任(※注1)を発表した翌日、新浪氏は経済団体「経済同友会」の代表幹事として会見し、カメラの前でそう訴えた。 

 

経済同友会は新浪氏の処遇について、捜査の進捗も見ながら今月中をメドとして結論を出したいと表明した。新浪氏自身に“違法薬物を所持する意思もなく、勝手に送り先にされていただけ”で警察も立件せずに終わるのであれば、新浪氏はとんだ濡れ衣を着せられただけであって、同友会トップとして復活するのは当然のことだと受け入れられるのだろうか? 

 

経済同友会の会員で、財界でも一目置かれる経営者らに話を聞くと、そう単純にはいかない可能性も見えてきた。(解説委員・安藤佐和子) 

 

「発信力ある経営者」ーーー新浪氏の代名詞だ。これまで経済同友会のトップとして、また、政府の重要会議のメンバーとして、世の中に議論を巻き起こしてきた(※注2)。もし経済同友会のトップでなくなれば、少なくとも月に2回の会見での発信の機会も、財界首脳の1人という立場も失うことになる。 

 

新浪氏はいま、いわば「まな板の上の鯉」の状態だ。「私の意向は何も伝えることはないと理解をしております。私がどうしたいこうしたいってことは言っちゃいけないんだと思っています」。新浪氏は9月3日の会見でそう述べ、経済同友会に判断を委ねた。これを受け、同友会は9月11日、会員倫理審査会を立ち上げ、新浪氏が代表幹事を続けることの「適切性」について、資格・資質要件等の論点を整理し、それをもとに理事会が審議、処遇を決議するとした。関係者によれば、議論の材料とするために、会員経営者ら一人一人に意見を求めるアンケートが配られたという。 

 

警察に聴取されたら、たとえ“潔白”であってもトップを退くべきなのか? それでは例えばえん罪のトラップをかけられたらおしまいとなってしまう。 

 

しかし、違法成分を含むサプリメントの件がもし濡れ衣だったとしても、それで一件落着とはならない可能性が出てきた。この件をきっかけに続出した新浪氏の過去のハラスメントの記事も、新浪氏のトップとしての資質を判断する材料の一つとなっているようだ。 

 

記事の内容の真偽はわからないとしても、「公序良俗」に疑問符が付くような過去の写真までもが出てきてしまった。経済界の重鎮A氏(同友会会員)はこう話す。 

 

「週刊誌に追いかけ回されるような人に任せられないと思う人と、そうじゃない人と、わかれるでしょうね。個人的には、あれだけ世間を騒がせたことの責任を取ってもらうしかないんじゃないかと思う。そうでなければ誰ももう同友会を信用しなくなるんじゃないかな」 

 

 

新浪氏は経済同友会の代表幹事になる前の2014年から政府の経済財政諮問会議の民間議員も務めている。民間議員は4人。諮問会議に関係する経済官庁の幹部は、「新浪さんは気鋭の経営者ということで起用された。発信力があるし、緊縮財政一辺倒ではないが、財政や社会保障のことを考えようと大いに呼びかけてくれていたので、大変ありがたかった」と心の内を吐露した。そのうえで、諮問会議の議員は法律上、総理大臣により任命されるものなので「同友会の処遇にかかわらず、最後は総理や官房長官がどう考えるかだ」と説明した。 

 

経済界で活躍する社長・会長経験者のB氏(同友会会員)も「人材としては本当にもったいないと思う」と話した。政治的にも外交的にも新浪氏の発信力や行動力は重宝されてきたという。しかし、同友会のトップをこのまま継続するのは難しいだろうとの認識を示した。 

 

理由はサプリメントではなく、週刊誌のハラスメントの記事だ。「過去は変えられない。(ハラスメントの記事を自分の過去と照らし合わせて)震えあがっている経営者、たくさんいると思う」と話し、過去にセクハラやパワハラの問題があった経営者は少なくないという認識をのぞかせた。 

 

「新浪さんは一回身を引いて、自分の力でもう一回ちゃんとやって、実績作って、やっていけばいいんじゃないかと思う。まだ若いし」 

 

別の論客経営者C氏(同友会会員)は「賛成反対の数の論理でなく、新浪さん本人が決めるべき」と主張する。「経済同友会は(会社を背負ってではなく)経営者が個人として発信しているからとがったことが言える。同友会が取ったアンケートの結果を新浪氏自身が見て、『発信力を維持できる』と考えるかどうかだ。発信力を毀損(きそん)すれば同友会としての役割を果たしにくくなる。『過去のことについて反省しています』『リーダーとしてやれます』でも、本人の価値判断。まわりがどうこう言う(建て付けの)団体ではない。新浪さんほど発信力がある人はいないし、説得力のある人もいない。もしいなくなっちゃうとすれば痛いが、ご自身で決めること」と話した。 

 

 

経済三団体のうち「経団連」は産業界を代表する大企業が先頭に立ち、経済をリードする団体だ。「日本商工会議所」は全国の中小企業の声を代弁する。この2つに比べて、「経済同友会」が存在価値としてきたのは経営者個人としての発信力だ。 

 

「所属する会社を背負ってではなく、経営者が個人の立場で自由度高く発信する」ことを自負してきた。新浪氏は、経済人として主張すべきと思った案件についてはたとえ反感を買うことが予想されても、避けずに、むしろ時にあえて挑発的に発信し、議論を巻き起こしていたように思う。 

 

今後はどうか?  発信するだけでは経済を良くできない。世の中が発信を受け止め、議論が巻き起こり、政治や企業、社会を動かしてこそ意味を成す。経済同友会はトップの資質、資格についてどのような結論を出すのか?  

 

そしてその結論は自ずと、経済同友会が日本の経済社会にどう貢献していくつもりなのか、本気度、姿勢も示すことになるだろう。注目に値する発表を期待する。 

 

【注釈】 

 

※1…9月2日、サントリーホールディングスは新浪氏が1日付で会長を辞任したことを発表。新浪氏から「適法である」との認識のもとに購入したサプリメントについて警察による捜査が実施されたとの説明を受けたことや、「捜査の結果を待つまでもなく、サプリメントに関する認識を欠いた行為は代表取締役という要職に堪えないと判断した」ことを説明した。 

 

※2…新浪氏は経済財政諮問会議など政府の会議のメンバー。(1)2022年7月にすでに「最低賃金を1500円までひきあげるべき」と発信。「1~2年で最低1000円を実現すべき。すでにそれを超えているところが多いわけですから3年したら1500円も出す、それぐらい高い目標、これをつくるべきだと私は思います」。(経済同友会夏季セミナーでのインタビューにて)。(2)2021年9月、「定年45歳」というワーディングで人材の流動化の必要性を訴えた。「定年を45歳にすれば30代、20代でみんな勉強するんですよ。自分の人生を自分で考えるようになる」「成長産業への人材移動が必要。企業の新陳代謝を高めるためには、雇用市場は従来モデルから脱却しなくてはいけない、その一環として定年退職の年齢を45歳に引き下げる、個人は会社に頼らない、そういう仕組みが必要だ」。 

 

 

 
 

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