( 327083 ) 2025/09/25 04:51:42 0 00 国の助成金の申請代行業務を独占的に担う社会保険労務士が、不正受給の申請に関与した例が相次いでいる。読売新聞のまとめでは2024年度までの3年間に、少なくとも64人の社労士が従業員を休業させた企業への助成金など計約11億円の不正受給に関わったことが判明。刑事事件に発展したケースもあり、専門家は対策強化を求めている。(柏原諒輪、西村魁)
読売新聞が厚生労働省や各労働局の公表資料などをまとめたところ、22~24年度に不正に関与したと労働局から認定された社労士は全国で計64人に上り、一部は資格を失う「失格」や業務停止の処分を受けた。従業員を解雇せず、休業にとどめた企業に補助する雇用調整助成金(雇調金)を巡る不正が最多を占めた。
雇調金を巡っては、コロナ禍に直面した企業を早急に支援しようと、政府が20年4月から3年間、申請手続きを簡素化するなどの特例措置を実施。3年間で約630万件、約6兆円が支給された。
雇調金などの助成金については各企業が直接労働局などに申請できるが、社労士に依頼すれば要件確認などがスムーズに進み、早期の受給につなげられる利点がある。都内のベテラン社労士は「『雇調金バブル』と言える状況が続いていた。仕事が増えた社労士は少なくない」と振り返る。
厚生労働省
一方で、手続きの簡素化に乗じた虚偽申請も相次ぎ、今年6月までに判明した特例措置期間の不正受給の総額は1044億円超に上る。助成金の2割程度が相場とされる報酬目当てに不正に関わる社労士が続出したとみられ、ある労働局の担当者は「申請書に不備がなければ基本的に支給を認めざるをえない。記載が簡略化された書類で偽造を見抜くのは難しい」と明かす。
社労士が企業側の虚偽申請を見抜けずに関与してしまったケースもある一方、積極的に企業側に働きかけるなどして不正を主導した例も目立つ。
社労士として雇調金など計約3250万円の不正受給に関与したとして詐欺罪に問われた元被告の女性は昨年2月、東京地裁から懲役4年6月の実刑判決を言い渡され、確定した。
女性は異業種交流会などで知り合った経営者らに、「売り上げが下がった会社がもらえる助成金があり、社員の給料を全てもらえる」などと不正を指南し、手数料に加えて受給額の2割を報酬として得ていた。判決では「国家資格と専門知識を悪用し、社労士に対する社会的信頼も損なったと言わざるをえない」と不正を厳しく批判した。
また、三重労働局の非常勤職員を務めていた社労士の元被告の男性は、企業が従業員に休業手当を払ったように偽造した申請書を提出。雇調金など計約220万円を詐取したとして詐欺容疑で逮捕、起訴され、7月に津地裁で執行猶予付きの有罪判決を受けた。
男性は北海道や愛知県の企業の虚偽申請にも加担し、不正受給額は計8000万円超に上るとされる。三重労働局は、男性が職員当時には助成金の審査業務には関わっていなかったとした上で、「非常勤職員は副業は禁じられておらず、企業の申請業務に関与したことは問題ない」と説明する。
相次ぐ不正に、厚労省や各労働局は不正が確認された社労士の氏名などの公表や処分を行うとともに、悪質な事案の刑事告発も進めている。
全国社会保険労務士連合会は、定期的な倫理研修の受講を社労士に義務付ける。研修はオンラインでも受講可能だが受講しない社労士もおり、同連合会は「受講率が100%に達しないのは課題。引き続き社労士の品位保持に向けた取り組みを進めたい」としている。
昭和女子大の八代尚宏・特命教授(労働経済学)は、「不正受給額の3倍程度を返還するルールをつくるなど、国は不正に対するペナルティーを重くすることも検討をすべきだ。各地の社労士会は、情報公開や研修を強化するなど、さらに自浄作用を発揮する必要がある」と指摘する。
◆社会保険労務士=労務管理や社会保険の法令を専門とする国家資格。企業の就業規則作成や公的年金の相談なども担う。1968年に社労士制度が始まり、2024年3月末現在の登録者数は4万5386人。
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