( 327398 )  2025/09/26 06:31:38  
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Photo by Masato Kato 

 

 自民党総裁選挙に立候補している林芳正官房長官が、ダイヤモンド編集部の単独インタビューに応じた。「基本的に赤字国債には頼らない」と明言し、財政規律重視の姿勢を見せる。自身が公約で掲げる「日本版ユニバーサルクレジット」と題した社会保障改革から、インフレ2%目標の在り方まで、「林プラン」を語り尽くしてもらった。(ダイヤモンド編集部 山本興陽) 

 

● 規律を維持し、財政余力を持つのが重要 累積赤字の対GDP比の割合も下げる 

 

 ――プライマリーバランスの黒字化をはじめとした財政規律への考え方を教えてください。 

 

 「2011年にプライマリーバランス黒字」という目標が、最初の財政改革でした。それ以来、リーマンショックや、東日本大震災などがあり、なかなか実現できずにいましたが、今年度ついにプライマリーバランスの黒字が見えてきています。 

 

 これはやはりアベノミクスから始まった新資本主義が功を奏してきたということだと思います。この動きを止めてはならないと思っており、基本的には「赤字国債には頼らない財政」としていきます。 

 

 プライマリーバランスの黒字を達成した暁には、次の目標は、(債務残高)累積赤字の対GDP(国内総生産)比の割合を落としていくことです。経済成長でGDPが増えれば、計算をする際の分母が増え、対GDP比での割合は下がっていきます。 

 

 そして、経済成長をすれば、税収も増えるので、財政に少しずつ余裕が出てくる可能性があります。 

 

 大きな災害があった際や、決してあってはありませんが有事のときに備えていくという意味でも、財政余力を持っておくことは、非常に大事なことだと思っております。 

 

● インフレ目標2%は維持 社会保障改革で「分厚い中間層」維持 

 

 ――総裁選挙出馬に当たり、「物価上昇を緩やかにしていきたい」との発言がありました。現在、日本銀行は物価目標について前年比2%増加を掲げています。この数字の見直しも視野に入りますか。 

 

 政権交代が起きた12年ごろ、第2次安倍政権がスタートする前に、インフレターゲットの表記について、どういう数字が適切か自民党内で議論をしていました。「2%」という表記がよいのか、あるいは修飾語を付けて「おおむね2%」という表記がよいのかという議論です。 

 

 物価の安定は、「日本銀行の使命」と日銀法にも書いてあります。ですので、日銀に対して、「2%」と伝えてアコード(合意)すべきであり、一方「おおむね2%」とするかの判断等は日銀に委ねた方がいいのではないかという意見がありました。 

 

 さまざまな議論をした結果、当時はデフレで苦しんでいたこともあり、修飾語なしの「2%」と明示した経緯があります。 

 

 現在は、デフレでない状態です。どれぐらいの目標が望ましいのかは、かつての状況とは異なり、現在の状況で考えなければいけないと思っています。 

 

 ただし、この数字目標を変える場合、「なぜ変えるのか」という話にもなります。さまざまな思惑が出てしまう可能性もある。こうしたことも踏まえて、物価目標は設定しないといけないと考えています。文言をいじるインパクトには注意する必要があります。 

 

 ――林プランでは、「日本版ユニバーサルクレジット」と題した社会保障改革を訴えます。どういったものでしょうか。 

 

 「家計簿」と言えば分かりやすいかもしれません。 

 

 すでに、英国で先例があり、「トータルで幾ら給付するのか」を見ていく仕組みです。税と社会保険料の負担感も見ながら、日本版ユニバーサルクレジットは「恒久措置」としてやっていきます。 

 

 低中所得者を中心に、収入面と支出面の「両方」を見ます。子育て費用や住宅購入など、世代特有の支出があります。こうした支出があるか否かで、(収入は同じでも)負担感が変わってきます。 

 

 例えば、子育て期間が終わると、(給付の)受け取り分は減っていきますし、収入が上がれば(給付額は)減っていきます。 

 

 家計が厳しい時期には応援しますので、ずっとそこにいていただくということではなくて、この応援を糧に収入が上がっていくプロセスにぜひ入ってもらいたい。こういう制度趣旨であり、「分厚い中間層」を維持していく政策です。 

 

 全世帯を調べるわけにはいきませんが、幾つかの類型を作り、どういうケースがあるか調査を行い、プランを設計・実行していきます。こうした過程で(政策実現に)必要な額が出てくると思います。 

 

 設計が進む段階で、財源をしっかり考えていかなければならないでしょう。児童手当などは、おそらく日本版ユニバーサルクレジットに統合する方向になります。 

 

● 投資を促進する「税制改革」視野 自社株買いより、投資で株高が筋 

 

 ――法人税減税を行ったものの、賃上げや投資増加に回らなかったという現実があります。法人税改革についてはどのように行っていきますか。 

 

 与党税制改正大綱でも、(賃上げや投資増加に)あまり効果がなかったことは、正式な文書として記載し、与党としてそういう認識を持っています。 

 

 統計の数字を見ると、現金が内部留保として積み上がっています。税制として、例えば、自社株買いに使うお金があれば、「投資に使うようにする」という方向性も一つでしょう。 

 

 ――上場企業では、自社株買いが頻繁に行われていますが、行き過ぎた株主還元について問題意識を持たれていますか。 

 

 (株価上昇が期待できる)自社株買いは、株主に対しては良いことですが、ステークホルダー全体への還元であれば、(従業員の)賃金を上げていく、(取引先と適切に)転嫁された価格で取引を行うといったこともあります。 

 

 企業は、将来に向けた取り組み(設備投資など)の結果として株価が上がっていくことが筋だと私は思っています。ただ、さまざまな株式の施策があるため、一律に自社株買いがいけないということではありません。 

 

 ですが、筋として、自社株買いのお金があるのであれば、投資に回した方が、結果として健全な企業成長になるのではないかと考えています。 

 

 ダイヤモンド・オンラインでは、林官房長官へのインタビュー記事の完全版『【総裁選】林芳正官房長官が明かす「実質賃金1%上昇」への道筋《インタビュー5000字超完全版》』を公開中。公約として掲げる「1%程度の実質賃金上昇」の定着をどのようにして行うのかなど余すところなく語ってもらった。 

 

ダイヤモンド編集部/山本興陽 

 

 

 
 

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