( 327808 )  2025/09/28 05:09:48  
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間もなく始まる中国の大型連休、海外旅行では日本が人気なのだそう *写真はイメージです(写真:houra / PIXTA) 

 

 中国の大型連休「国慶節休暇」が10月1日に始まる。 

 

 景気低迷を背景に旅行需要は「安近短」の傾向が強いものの、今年は例年より1日長い8連休ということもあり、海外旅行も活発だ。旅行プラットフォームの調査では、海外旅行の人気ランキングで日本が首位に立ち、福岡や伊豆など地方都市の人気の上昇ぶりが鮮明になっている。 

 

■団体旅行は「1割」に激減 

 

 民泊予約プラットフォームのエアビーアンドビー(Airbnb)が今月発表した中国人の国慶節休暇中の検索ランキングで、日本がトップに立った。2位以下はイタリア、フランス、スペイン、ニュージーランドが続いた。 

 

 エアビーアンドビーは旅慣れし、自分らしさを重視するユーザーをターゲットとしている。成熟した個人旅行者から日本が強い支持を得ていることが分かる。 

 

 中国人の訪日旅行というといまだに爆買いを思い浮かべる人が多いが、「爆買い」が流行語になった2015年と今では、旅行者の質は大きく変わっている。 

 

 観光庁の2025年4〜6月のインバウンド消費動向調査(速報値)によると、中国人旅行者のうち初めて日本を訪れたのは43.4%と半分を下回った。 

 

 一方、4回以上来ている人が3割を超えた。そして日本旅行のリピーターの3割超が、前回の訪日旅行から1年も経たず日本を再訪している。 

 

 2015年調査時は初めての来日だった旅行者が63%で、観光・レジャー目的に限ると72.5%に達した。 

 

 旅行スタイルも激変した。2015年は団体ツアーの比率が42.9%だったが、2025年4〜6月は11%に下がり、9割近くが個人旅行だった。 

 

 10年前は家族・親族と来ている人が全体の3分の1を占めていたが、2025年4〜6月は友達との旅行が最も多かった。2015年に16.9%だった一人旅は2025年に26.9%に拡大した。 

 

 日本への旅行は一昔前に比べてカジュアル化している。その背景には複数回訪日可能なマルチビザの普及がある。 

 

 オンライン旅行サービスの携程(シートリップ)によると、2024年1〜7月、中国人の訪日観光ビザの申請取得件数のうち、個人旅行を想定した3年・5年のマルチビザが48.41%を占め、2019年の19.75%から大幅に上昇した。 

 

 個人のリピーターが旅行者の主力になったことで地方への関心も高まっている。 

 

 

 中国最大規模の旅行情報メディア「馬蜂窩」によると、今年5月の労働節連休前は香川県の栗林公園、和歌山県・三重県の熊野古道、鹿児島県の屋久島、青森県の奥入瀬渓流の情報へのアクセスが増えた。 

 

 エアビーアンドビーの国慶節旅行先検索ランキングでは東京、大阪、京都が例年通り上位を占める一方、福岡の検索数が3倍以上に増えた。福岡の食文化に関心が持たれているという。また、東京から近い伊豆半島も自然やレジャーリゾート体験が評価され検索数が倍増した。 

 

■Z世代は弾丸旅行がトレンド 

 

 オンライン予約サイトのブッキングドットコム(Booking.com)が先日公表した「2025年中国人海外旅行トレンド調査」でも、日本の人気ぶりが明らかになった。 

 

 過去2年以内に個人で海外を旅行した中国都市部の1200人を対象にした同調査では、36%が過去1年内に日本を旅行したと回答し、タイ(41%)に次いで2番目に多かった。タイは今年初めに中国人の誘拐事件が発覚したことから旅行先として避けられるようになり、日本の人気が高まる遠因にもなった。 

 

 同調査によると、海外旅行の目的は「リラックス」が57%と過半数を占めた。目的地の選択に影響を与える要素としては「グルメ」が54%で最も多く、コト消費へのシフトが浮き彫りになっている。 

 

 ただ「コト消費」と言っても中身は二極化している。中国では「弾丸旅行」や話題の店や観光地に行き、映える写真を撮って自分のSNSにアップする「スタンプラリー旅行」がZ世代の新しい旅行スタイルとして定着しつつある。 

 

 同調査でも、限られた時間で多くの観光スポットを巡りたいとの回答が59%に達した一方、観光スポットを時間をかけて探索したいと答えた人も41%おり、好みがはっきり分かれた。 

 

 日本旅行でも中国人旅行者の二極化は顕著だ。 

 

 中国の旅行予約プラットフォームで富士山を目的地とした日帰りツアーを探すと、東京発で3000円台の商品が複数見つかった。日本人向けの東京発バスツアーだと安くても7000円台なので、中国人向けのそれは異常に安い。 

 

 行程を見るとそのからくりが分かる。 

 

 定員は6人が多く、ワゴン車での送迎だと推測できる。立ち寄り先のほとんどは入場料不要かつSNSでバズった映えスポット。「富士山麓のローソンコンビニ(入場無料)」「富士吉田レトロ商店街(入場無料)」という記載もある。どちらも観光客が押し寄せ、地元住民の生活に支障が出ていると報じられた場所だ。 

 

 

 新倉山浅間公園は「新進のインスタ映えスポット。世界中の撮影者が死ぬまでに行きたい21の場所の一つと呼ばれる」、河口湖のローソンは「スマホの話題の背景画像を簡単にゲットできます」と説明されている。 

 

 富士吉田市の観光公害を報じる2024年7月21日付の朝日新聞の記事には「周辺の路地では、団体客を降ろすワゴン車が頻繁に一時停止し、車の通行を妨げていた」とある。 

 

 本来観光スポットでない場所がSNSでバズって人気が出る。観光スポットでなく入場料が不要のため激安弾丸ツアーに組み込まれさらに外国人が殺到する、という構図がうかがえる。 

 

■出張ついでに一人旅 

 

 10年前の爆買いや河口湖のローソンは絵面が強く、日本人にも分かりやすいが、前述したように一人旅やゆったりとした「スロー旅行」・「チル旅」と言われるものも相当普及している。この層は群れないし、旅行スタイルが多様化しているので見落とされがちだ。 

 

 中国南部でコンサルタントとして働く孫夢さん(仮名、35)は、出張と旅行をくっつけて9月下旬から2週間の日程で来日している。 

 

 「今回は半導体産業が盛り上がっている熊本県への出張です。以前なら東京や大阪でなくてがっかりしたかもしれませんが、今は地方に行ける方が嬉しい」 

 

 熊本での出張を終えたら、公共交通が便利な福岡に移動して数日滞在する。 

 

 「豚骨ラーメンと焼き鳥を食べるのが楽しみ。本当は屋台を体験したいけど不安なので、一人で入れそうな焼き鳥の店を調べています」という。 

 

 大連在住の40代男性は一人旅での日本旅行を計画している。 

 

 「私は日本語が話せないので、何度か行ったことのある東京から入ります。久々に富士山を見たいので、日本人の友人に連れて行ってもらおうと相談しています」 

 

 予算は航空券を除いて20万円。宿泊費を最小限に抑えて食事に充てるつもりだ。 

 

 「日本のものは何でもおいしい。大連でも日本料理ばかり食べているので、旅先ではマイナーな料理を試したい」 

 

■中国人観光客が本当に求めているものとは?  

 

 こういったスローな旅の実践者は、「日本人が行くところに行きたい」というニーズが強い。ただ、移動手段や言語に制約があるため、SNSなどで目にした情報を参考に目的地を絞り込む傾向がはっきりしている。 

 

 

 ブッキングドットコムの調査でも、65%が画像・動画共有SNSのRED(小紅書)を参考にしていると答えた。 

 

 筆者も国内旅行の画像をREDに投稿している。フォロワー数は少ないし、日本語で投稿しているが、北海道と沖縄の情報は閲覧数が増える。 

 

 コメントが最も多かったのは、意外にも熊本・菊池渓谷温泉の温泉旅館と、伊豆高原のホテルの写真だった。知らないユーザーから「連泊したら食事の内容は変わるか」「どうやって予約すればいいか」など10件以上の質問を受けた。 

 

 筆者は知り合いの中国人をもんじゃ焼き、抹茶スイーツなど、寿司やラーメンほど有名でないが日本らしい料理を出す店に案内している。また、次回以降は自分たちで行けるように、英語のメニューがあるか、あるいはスタッフが親切なお店を選ぶようにもしている。 

 

 一昨年夏、新婚旅行で京都を旅行中の中国人の友人から「懐石料理を食べたい」と連絡を受けた。筆者も詳しくないので、レストラン予約サイトでメニューやレビューを一通り見て、友人が泊まっているホテルに近いお店を代わりに予約した。 

 

 そこは家族経営の小さな料亭で、店主がお店の歴史やインテリアなどについて丁寧に説明してくれたそうだ。友人は大感激してSNSに店主の人柄や説明の内容を投稿していた。その投稿を見た中国人が店を訪問するという連鎖が今も続いている。 

 

■「中国人対応」に特化するのではなく 

 

 「知られていない魅力的な場所を訪ねたい」と考える中国人個人旅行者は多い。彼らは英語で基本的なコミュニケーションができるし、右を見ても左を見ても中国人という観光地を好まない。 

 

 地方の観光地はこういった日本のカルチャーを深掘りし、周囲に伝えてくれる中国人個人旅行者を取り込んでいくべきだろう。 

 

 そのためには逆説的になるが「中国人対応」に特化するのではなく、欧米・アジアなども含めた外国人が魅力的に感じる情報発信を強化しつつ、英語対応や決済手段のグローバル化などで訪問の敷居を下げる必要がある。 

 

 旅行者は知らない場所を選択肢に入れられないし、交通手段や言語の壁という不安もあるからだ。日本側のアップデートも求められている。 

 

浦上 早苗 :経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員(コミュニケーションマネジメント) 

 

 

 
 

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