( 327903 ) 2025/09/28 06:45:36 0 00 中国放送
「軽い気持ちで受けてしまったことを後悔している」。そう語るのは、地域の老人会に参加する70代の男性です。5年ごとに行われる国勢調査。今年も9月から始まり、広島市だけでも約7600人の調査員が必要とされています。非常勤の国家公務員として報酬も支払われ、50世帯あたり5万円ほどとされます。「年金暮らしには助かる」と町内会長の依頼を受けたものの、男性は想像以上の大変さに直面しました。
■国勢調査員の事前準備 男性の担当区域は自宅周辺のおよそ80戸。9月上旬、まずは説明会に出席しました。映像視聴や資料の説明で2時間にわたり、国・市などと同じようなことが記載されている分厚い指導書を前に気持ちが重くなりました。
続いて一軒ずつ居住の有無を確認しながら区域を歩きます。歩数は1万歩を超え、思いのほか体力を使いました。
「顔写真入りの調査員証を下げていても、最初は訝しげな目を向けられる。不審者と間違われないか心配だった」
声を掛け、地域の住民だと分かってもらえた時には、相手の表情が和らぐのが印象的だったといいます。
さらに大変だったのが、配布資料を世帯ごとに仕分ける作業です。封筒詰めは番号を一致させて書類をまとめるため、確認の連続。男性は「まとめた形で支給してくれれば」と思わずグチがこぼれました。
■仲間との作業で少し安心 地域の情報交換も
それでも、この地域はまだ恵まれていたといいます。男性が「配り忘れや書類の間違いなどしないか」と不安を伝えると、指導員が地域の集会所に場を設け、調査員同士で作業できるようにしてくれました。
そこで「この家は外国人世帯だから英語版を用意しよう」「ここは二世帯住宅だから2部必要だ」といった、住民ならではの情報交換ができました。
作業の合間には前回調査の苦労話も飛び出しました。「夜に訪ねたら逆に怪しまれた」「配布が遅いと怒鳴られた」経験者ならではのリアルな声が聞かれました。
男性は「一人で抱え込んでいたら不安で押しつぶされていたかもしれない。みんなで顔を合わせられたことが心の支えになった」と振り返ります。
■「悪いことをしていないのに後ろめたさも」現場の葛藤
9月20日、いよいよ配布が始まりました。原則は対面で世帯主に渡すことですが、国の指導と現場の実情には大きなズレがありました。
「昼間は留守家庭が多く、夜に訪ねれば逆に警戒される。結局ポスト投函せざるを得ないケースもあった」
インターフォンを押しても出てもらえないこともあり、声を掛けるタイミングや立ち去り方に悩んだといいます。結果的に大きなトラブルはなく、週末をかけて配布を終えました。しかし、「達成感よりも疲労感が勝った」と振り返りました。
■まだ終わらない作業 配布が済んでも、仕事は続きます。未回答世帯には繰り返し催促に行かなければいけません。
協力的でない住民の玄関先に立つと「迷惑だと思われないか」と後ろめたさも感じます。さらに、居住の有無を周囲に聞き込み確認することもあり、「どんな人が住んでいますか」と尋ねるのは気が重い作業です。
「人の出入りを見ているわけではないのに、何を聞けばいいのか。悪いことをしているわけではないのに後ろめたさがある」
男性は複雑な胸中を語りました。
■「現場の声を聞いて改善を」経験したからこそ思うこと
「大変だ─」。男性は率直にそう語ります。仲間と助け合えたことは救いでしたが、次回も引き受けたいかと問われれば迷います。
その一方で「見知らぬ公募の調査員が地域を歩き回るのも不安」とも感じ、気持ちは揺れています。
町内会長でもある指導員のもとには「インターフォンを押さなかった」との苦情と「押されたら困る」との苦情が…。真逆の声が寄せられたといいます。
現場が板挟みになる状況に、男性は「国勢調査の運用方法には無理がある。現場の声を基に改善してほしい」と訴えます。
中国放送
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