( 328043 ) 2025/09/29 04:54:07 0 00 ハッピーセットのおまけが転売される騒ぎとなったマクドナルド(出所:ゲッティイメージズ)
マクドナルドに転売ヤーが殺到した件は記憶に新しい。8月にハッピーセットのおまけとして「ポケモンカード」を付け、転売目的で購入する人たちが殺到した。店舗に行列ができて子ども連れが購入できなくなっただけでなく、食べ物が放置されることもあった。
購入制限も不十分だった。1日で完売したため商業的には成功だったかもしれないが、SNSでは批判の矛先がマクドナルドに向き、ブランドイメージの低下をもたらした。一方で吉野家のように時間差での提供が効果を発揮しているケースや、Nintendo Switch2の抽選販売で、50時間以上プレイしているなどを条件とした任天堂のような事例もある(詳細はのほど紹介)。
日本マクドナルドは8月9~11日の3日間、ハッピーセットの購入者にポケモンカードを配るキャンペーンを実施した。カードはオリジナルイラストのピカチュウ1枚と、全5種の中からランダムで1枚の計2枚だ。全6種類のカードにはマクドナルドのロゴが印字してある。これに転売ヤーが殺到し、販売は1日で終了した。
ハッピーセットの価格は510円~。転売ヤーから見ればカード1枚当たり最低255円の“仕入れ値”だ。メルカリでは同カード100枚セットで18万5000円、6種類セットで6000円などの設定で販売され、1枚当たり1000円以上で売れる事態が発生した。転売ヤーはカードが目当てなので、注文した食べ物が店に放置される事態も発生した。
マクドナルドは5セットまでの購入制限をかけていたが、転売ヤーは「並び直す」「多店舗を回る」などの方法で制限をかいくぐった。モバイルオーダーの制限を実施しなかったこともあり、対応店舗では注文が殺到。その後、マクドナルドは制限を3セットまでとした。
そもそも、レア商品の価格が問題化しているポケモンカードを景品にする時点で、転売ヤーの殺到は予想できたはずだ。ポケモンカードなどのトレーディングカードはコロナ禍での巣ごもり需要で人気となり、日本玩具協会によると2024年度の国内市場規模は3000億円にまで膨らんだ。玩具全体の3割弱を占める。
海外のコレクターも多く、ポケモンカードの中には100万円・1000万円以上で取引されるカードもある。投資対象であるほか、犯罪組織がマネーロンダリングや貯蓄の手段として用いることもあるという。もはや子どものおもちゃにとどまらない存在になっているのだ。
ハッピーセットは1987年に「お子さまセット」として販売を開始、1995年に現在の名称となった。定期的に新しいおもちゃをおまけとして付け、子連れを呼び込むのが狙いだ。そうした趣旨の商品に大人が殺到するポケモンカードはふさわしくないと筆者は考えている。
5セットまでの購入制限も不十分だった。本来の趣旨に沿って子どもを対象とするならば、販売を子連れ客に限定すべきだっただろう。むろん、今の日本に5人の子どもがいる世帯は珍しいため、マクドナルドは最初から大人向けに売り込む狙いだったのかもしれない。
吉野家は2024年に「カービィと吉野家まんぷく大作戦」の第1弾・第2弾を実施した。並盛633円(小盛600円)の「カービィ盛」を注文した客に、カービィのフィギュアを付けるキャンペーンだ。フィギュアは第1・2弾合わせて全7種あり、牛丼を持つなどのポーズをとっている。だが、同キャンペーンにも転売ヤーが殺到し、連日売り切れの店舗も現れた。
これを受けて吉野家は2025年1月に第3弾を実施した。第3弾では第1・2弾のフィギュア全7種を景品としたうえで、450円ごとの会計で1ポイントを付与し、2ポイントでフィギュアを提供する仕組みとした。
転売ヤーから見て、原価が600円から900円に値上げされたことになる。また、第3弾ではその場で提供するのではなく、半年後の7月上旬に発送予定とした。SNSではマクドナルド騒動が起きた8月以降、フィギュアが「届いた」という投稿が現れ、マクドナルドとの対比で吉野家の対策が称賛された。
転売ヤーは商品を買い占め、購入者の「今すぐ欲しい」という感情を利用して高値で売りつける。半年後ではフィギュアの人気が読めないため、仕入れを避けがちになると考えられ、吉野家による時間差での提供は、買い占めを避ける有効な手段といえるだろう。
転売ヤー問題では、Nintendo Switch2も注目を集めた。任天堂は6月に2種類のNintendo Switch2を発売した。日本語版の4万9980円に対し、海外利用を想定した多言語対応版は6万9980円だ。安い方を日本語限定にすることで、海外への転売を防ぐ狙いがあったとみられる。
同社はすぐに供給するのではなく、抽選販売などで少しずつ供給する体制を採用した。公式ショップの「マイニンテンドーストア」では、「Nintendo Switchのプレイ時間が50時間以上であること」などを応募の条件の一つとしている。第4・5弾と抽選販売を継続している点も消費者に「いつか買える」と思わせることができ、高値での購入を踏みとどませる。
大手家電量販店も転売ヤー対策を実施している。ビックカメラやヨドバシカメラでは購入を提携クレジットカードの所有者に限定。本人確認書類の提示を求めた上で、過去に自社グループでNintendo Switch2を購入していないことなどを条件にした。
単なる購入回数の制限は転売ヤー対策として効果を発揮しない。高価で売れると転売ヤーが判断すれば、何度でも並ぶからだ。本人確認書類や会員IDで制限しても、友人などを使って大量に仕入れようとする。国内のテーマパークでは、1人3点までなどの購入制限をかけているが、転売ヤーは1人で複数枚のチケットを用意し、大量に仕入れているという。高値で売れるなら入場料くらいは回収できてしまうわけだ。
転売ヤーの多くは専業のフリーランスや大学生とされる。時短で働く外国人などもおり、時間的な制約は少ない。とはいえ、吉野家のように待たせる対策は、一つの正解例となるかもしれない。売れるかどうか分からないまま待ち続けるのは大きなリスクだからだ。
その上で、転売による利益を生じさせない適正な価格設定も必要である。マクドナルドのように1枚300円弱でレアなカードを供給するのは、転売ヤーから見て異常に安いといえる。企業が「転売ヤー相手でも、売れれば良い」と思うなら別だが、消費者の不満の矛先が企業に向かっていることも認識しなければならない。
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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