( 328113 )  2025/09/29 06:17:47  
00

日本農業新聞 論説 

 

 主食用米の需給緩和の恐れが強まっている。政府備蓄米の放出で、農水省は民間在庫量が過去10年で最多水準になると見通す。政府は米の「増産」を打ち出したが、価格下落時のセーフティーネットの明示なしに、増産できる状況にない。混乱を避けるためには正しい情報発信が必要だ。 

 

 「『増産』じゃなく今まで通りだと言っても、(政府が増産だと)言ったじゃないかと回答が返ってくる」「誤解がないよう、『需要に応じた生産』をこれまで通り行うんだと、強いメッセージを」 

 

 9月の自民党農林関係会議で、米の作付けを巡り生産現場が混乱しているとの声が議員から相次いだ。供給過剰が現実味を増す中、現場では政府が唱えた「増産」が独り歩きをし、混乱を招いている。 

 

 石破茂首相は8月、米の増産にかじを切ると強調。総裁選に出馬した小泉進次郎農相も「安心して増産」などと訴えた。米価の安定化を望む消費者への配慮が背景にあったとみられるが、ただ、増産に伴う米価下落時の農家の所得対策はいまだに示されていない。主食である米政策は国民的関心事で、総裁選の争点の一つとなる。自民党員には農業関係者も多い。各候補は、将来にわたって安心して農業ができる所得対策を明らかにし、議論を戦わせてほしい。 

 

 米需給はこの先、小泉農相の当初発言通り「じゃぶじゃぶ」となる見通しだ。農水省は、来年6月末の民間在庫量は最大229万トンとみる。需給安定の目安となる180万~200万トンを上回り、米価が低迷した2015年の226万トンに匹敵する。来年6月までの1年間の供給量は908万~926万トンと増える一方、同期間の需要量は前年以下の697万~711万トンとなるためだ。 

 

 求められるのは、米を巡る正確な情報の発信だ。自民党内の議論では、政府の増産方針に異論が相次いだ。農林幹部の一人は、現場への伝わり方が問題だと指摘し、「あくまで需要に応じた生産だ」と強調した。他の幹部も、増産に向けてアクセルを「べた踏み」すれば米価暴落を招くと懸念を強めている。 

 

 与党の反発を受け、政府は「増産」との表現を「需要に応じた増産」に改めた。需要を上回る増産は、政府も否定した格好で、結果としてこれまでの「需要に応じた生産」と解釈できる。 

 

 だが、増産のメッセージは、もち米や飼料用米、麦や大豆など他の作物に影響が出てきている。安易な主食用米の増産は米価暴落を招きかねず、所得対策とセットの議論が欠かせない。消費者の米離れと輸入米の流入を避けるには、この「米騒動」を一刻も早く落ち着かせる必要がある。 

 

日本農業新聞 

 

 

 
 

IMAGE