( 328348 )  2025/09/30 06:21:06  
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タレントのパックン(パトリック・ハーラン)さん(撮影・張 溢文) 

 

 お笑いコンビ「パックンマックン」で名が知れた、パックンことパトリック・ハーランさんにインタビュー。敵をつくらずに言いたいことを言う様子が気持ちいい。【本記事はアエラ増刊「AERA Money 2025秋号」から抜粋しています】 

 

*   *   * 

 

 最近は、米国ハーバード大学卒業の知識人としてテレビやネットに登場することが増えたパックン(敬称略)。 

 

「今はコメンテーターが仕事の8割くらい」 

 

 パックンは発言する際、心がけていることが2つある。1つは「敵をつくらない」こと。 

 

「意見が違っても嫌われたくない、政治理念が違っても仲良くしたい」 

 

 もう1つは「思っていることは言う」。 

 

「敵をつくらずみんなと仲良くしたいですが、こびを売っているように思われたくありません。5月に古古米を試食した感想を求められて、『おいしいけど、硬くて……』って正直に言いました」 

 

■ふるさと納税は間違ってる 

 

 今回のインタビューでパックンが熱を込めて批判したのは、ふるさと納税だ。自治体間の行きすぎた返礼品競争や事務コストの不透明性が問題になっている。 

 

 2025年10月以降、ふるさと納税ポータルサイトによる納税額に応じたポイント還元が廃止される(総務省告示)。たとえば「さとふる」でふるさと納税をしても「さとふるマイポイント」はもらえなくなる予定。 

 

 パックンは「返礼品を楽しく紹介している番組を見て、『間違ってるな』と思っています。お肉はおいしそうだけど」と。 

 

「ふるさと納税の趣旨は自分がお世話になった自治体、応援したい自治体に、自分が住む自治体に納める税金の一部を回すこと。これには賛成です。 

 

 だったら確定申告書で応援したい自治体にチェックを入れ、納税額を書く欄を設ければいいだけです。 

 

 返礼品はなし。そうすれば煩雑な手続きもいらないし、管理費もかからない」 

 

 正論だ。ネット通販で商品を選ぶかのように、返礼品ばかりに利用者の目が向き、どんな自治体が何にお金を使うかへの関心は薄れる風潮がある。 

 

 

「税金はモノではなく公共サービスを買う仕組みだと思っています。ところが学校や消防、警察、道路に使うはずのお金が誰かの食卓の和牛やイクラに化けているのが現状ですよ。 

 

 寄付という言葉も誤解を誘います。納税は義務だし、税金が余って財政に余裕があるなら減税してほしい。 

 

 減税されて余裕ができたら、そのお金は思い思いに使えばいいでしょう」 

 

 ふるさと納税ファンからは「そんなことより目の前のお得!」「もっと税金を勉強してから言え」などとたたかれそうだが。 

 

「いっぱいふるさと納税をする人が返礼品を多くもらえる。あまり税金を払っておらず、いっぱいふるさと納税をできない人の恩恵は少ない。 

 

 ふるさと納税はたくさん稼ぐ富裕層であるほど得をする制度です。 

 

 富裕層は社会的なインフラの中で儲けているんですから、返礼品なんてもらわずインフラに恩返しすべきではないかと」 

 

 そこで本誌は「富裕層はたくさん納税しているのだから、返礼品が多くてもいいのでは?」と聞いてみたが、瞬殺。 

 

「今みたいに税金をたくさん払わなくて済むように、ふるさと納税はやめようよ。納税者もモノよりお金を返してもらったほうがありがたいと思いますよ」 

 

 確かに減税(現金)のほうがうれしい。 

 

「10万円のふるさと納税で3万円のおいしいものが手に入ったとしても、管理費や広告費、輸送費で消える額が大きい。 

 

 自治体の取り分は10万円の約半分、5万円程度です。返礼品業者をどう選んでいるかも気になりますね。 

 

 同じモノを作る企業はいくつもあるのに、返礼品の対象は1社だけの自治体も見かけました。地方を応援したいなら、自分でおいしいものを好きなサイトで取り寄せればいいだけ」 

 

■僕もやってますよ! 

 

 と、ここでパックンから衝撃の一言。 

 

「まあ、散々批判しているふるさと納税ですが、僕もやってますよ!」 

 

 笑いながら告白するパックンに「やっとるんかい!」と、思わずなれなれしく突っ込んでしまった。 

 

「ふるさと納税の制度は好きじゃないけど、お得な制度であることは確か。僕の力でふるさと納税を変えられるわけでもないし、この制度がある間は僕も使う。 

 

 利用している人のことも悪いとは一切思っていません。万が一、ふるさと納税がなくなったら僕も返礼品をもらえなくなるけど、それはいい。ゆがんだ制度は改善してほしいです」 

 

 

 母子家庭だった少年時代は10歳の誕生日から8年間、新聞配達で家計を助けた。経済的に少し余裕ができた今でも、当時のことを思い出す。 

 

「母親は就職と失業を繰り返していました。職を得るとがんばって働くし、税金も納める。 

 

 でも、不景気でリストラされる。日本の預金通帳みたいな小切手帳を見て、しばしば泣いていました」 

 

 米国で生活保護(に似たもの)を受けていた頃、食料品と交換できる政府のフードスタンプ券(※)を持ってスーパーに行った。 

 

※フードスタンプ券…米国の低所得者向け食料費補助制度。スーパーなどの食料品を扱う店で現金と同様に使える。近年はカード方式になっている 

 

「フードスタンプ券を出したら、店員さんが扱い方を知らなかった。そして、大きな声で『店長! フードスタンプ券って、どうするんですか?』と。 

 

 居合わせたお客さんの視線が僕に集中しました。 

 

 この人はお金を持っていないんだなっていう同情の目というか……恥ずかしかった。 

 

 フードスタンプ券はありがたい制度ですが、低所得者をバカにする制度だと子ども心に思った」 

 

■貧乏だからできない 

 

 この制度の悲しい思い出は他にも。 

 

「貧乏になる前から飼っていた犬がいました。名前はポピー。母はお金がなくても子どもの好きな犬を売り払うことは考えなかったんですね。 

 

 ポピーのドッグフードを買おうと思ったら、店員から『人間が食べるものしか買っちゃダメ。フードスタンプ券じゃ買えないよ』って。 

 

 確かにそんなルールですが、『低所得者は犬も飼えないのね』と母は悲しんでいました。切なかったなぁ」 

 

 この話を載せると厳しい意見(「税金で補助してもらっているのに犬なんてぜいたく」など)が来そうだが、パックンの当時の切ない気持ちが伝わってきた。 

 

「貧乏だからできないことはいくつかあるとわかっていました。だから、お金のかかる選択は避けました。 

 

 丈夫なプロテクターが必要なアメリカンフットボールはやらない。スポーツはパンツ一丁でできる板飛び込み(水泳競技の一種)を選びました」 

 

 

 競技人口が少ないこともあり、パックンはスター選手になり、新聞にも載った。 

 

 パックンは2021年の著書『逆境力』で経済的に困窮した時代を振り返り、貧乏でよかったと書いている。 

 

 でも、「貧乏なんてしないほうがいいに決まってる。みんなが余裕のある暮らしになればいいと思っています。現実は厳しいですが」。 

 

 母とお金の苦労を分かち合い、貧困を克服したパックンだからこそ、お金についての言葉に重みがある。 

 

■投資と保険は分けて 

 

 近著『パックンの森のお金塾 こども投資』は2児の父として書いた。これからお金と付き合う子どもにも、マネーが苦手な親にも役立つ内容だ。 

 

 一例だが、「教育資金は学資保険でつくるのが正解か?」という問いについて、パックンは「教育資金は保険じゃなくていいです」と答えていた。 

 

「満期に払込保険料に上乗せして全額をお返ししますという保険がありますが、これは投資ではありません。お金を育てる投資と万が一に備える保険を分けて考えてほしい。 

 

 米国株のインデックス投資信託なら10年で200%を期待できます。親にもしものことがあっても学費の心配がないようにしたければ、掛け捨ての保険で備える」 

 

※編集部注:米国株の投資信託に100万円を投資して年平均利回り7%の場合、10年複利で約200万円 

 

 教育資金のような大事なお金を投資信託などで運用することに抵抗のある人が日本では多い。だから学資保険が支持される。 

 

「明日のミルク代や再来年の私立学校の学費は投資に回すべきではありません。でも大学進学まで15年以上あるなら、投資したお金は戻ってくると思いますよ」 

 

 株式の投資信託が不安なら債券でも。 

 

「一切リスクを取らないなら、単利ですが個人向け国債もいい。変動10年で約1%(2025年8月分/財務省)まで上がってきています。 

 

 金利上昇局面に国債は合う。下がっても0.05%は保証されていますし、1年経てばいつでも引き出せるから気分的にも安心感がある」 

 

 家庭では子どもにお金についてどう教えればいいのか。パックンパパの持論は。 

 

 

 
 

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