( 328753 ) 2025/10/02 04:57:23 0 00 画像=プレスリリースより
自民党総裁選の投開票が10月4日に行われる。そんな中、「週刊文春」が2週にわたって小泉進次郎氏をめぐる疑惑を報じ、波紋を広げている。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「文春報道に加えて、ひろゆき氏が司会を務めた討論会でのやりとりが、進次郎氏には大きな痛手となったのではないか」という――。
■「小泉進次郎総理」が爆誕かと思われたが…
自民党総裁選で盤石と見られていた小泉進次郎氏の優位が、ゆらいでいる。報道各社の情勢調査では優位を保ってきたものの、先週、「週刊文春」が「小泉進次郎『卑劣ステマ』を暴く!」と報じてから風向きが変わったのではないか。
朝日新聞が9月29日までに行った調査によれば、自民党所属の国会議員295人のうち、小泉氏は72人からの支持を集めトップに立ってはいるものの、2位には57人を集めた林芳正氏がつけており、猛追をうけている(「自民総裁選、議員票首位は小泉氏、追う林氏、高市氏は3位 朝日調査」朝日新聞デジタル、2025年9月30日12時配信)。
若く、清廉なイメージだった小泉氏が、汚い手段を使っていた。「ステマ」報道以来、投票資格の有無にかかわらず、世論には、そんなムードが漂っている。この空気が、小泉氏ではなく、林氏の勢いを加速しているのだろう。
そこに追い打ちをかけたのが、2ちゃんねる創設者のひろゆき氏だった。9月27日に行われたネット討論会「ひろゆきと語る夜
日本の未来を語れ!」で司会を務めたひろゆき氏とのやりとりが、進次郎氏には大きな痛手となったのではないか。
■ステマより、チームの「ゆるさ」が不安
質疑応答は、前述の「ステマ」から始まった。問いかけとしては、「『ステマ』に関してどう思うのか」、だったものの、もちろん、週刊文春の報道、つまり、進次郎氏陣営による、「サクラ」コメントをめぐって各候補が答えた。
最初の質問のためか、総裁選への立候補届出順での答えがつづき、最後に回ってきた小泉氏は、次のように答えた。
---------- (「ステマ」指示を)知らなかったとはいえ、最終的に、私を支援してくれている議員のもとで、私の当選のために起きたことですから、私として本当に申し訳なく思っています。 ----------
「知らなかった」かどうかは問題ではない。あまりにもお粗末な「ステマ」を組織的に行っていただけではなく、その指示が、いとも簡単に週刊誌に流れる、その情報管理をはじめとするガバナンスが不安を抱かせるのではないか。
「ステマ」のような汚い手を使うからとの点で、彼が批判されているのではない。それよりも、そのやりとりがダダ漏れするような、そんなぬるくてゆるいチームが彼を支えていること、そして、そのチームすら統制できないところが心配なのである。
先に挙げた、ひろゆき氏の質問に対しても、まるで用意された紙を読み上げているかのようで、当意即妙とは言いがたい。わざわざ「ステマ」一般に広げているのだから、あらかじめ持っていた答えではなく、もっと自由に発言すべきだった。実際、最初の順番だった小林鷹之氏は、進次郎氏の話題に限らず、「外国からの情報干渉」についての持論を展開した。
他候補の答えと比べると、上に引いた進次郎氏の答えは、懸念を拭い去るどころか、贔屓目で見ても現状維持に過ぎなかった。
■ひろゆきの「英語質問」で分かれた対応
進次郎氏をめぐる、この討論会の見どころは、終盤の「英語質問」だった。ひろゆき氏が「簡単な質問なんですけど」と前置きし、「これから総理大臣になったら、(米国のドナルド・)トランプ大統領と話をするってことなんですけど」と言った上で、「What kind of country do you wanna Japan to be? Could you explain in English in 1 minute?(日本にどんな国になってほしいですか? 英語で1分以内でお答えいただけますか?)」と問いかけたのである。
1番手の林芳正氏がすべて英語で澱みなく答えたのにつづき、2番目の高市早苗氏は「Japan is back」との1文を英語で、つづいて、その意図を日本語で説明した。3人目で回ってきた小泉氏は、どうだったのか。質問に直接答えるのではなく、次のように話しはじめた。
---------- これは、きょう、ひろゆきさんの提案に乗ってはいけないというね、私にとっては、ちゃんと正確にお答えしたいと思いますので、私も高市さん同様、日本語でお答えさせていただきたいと思います。 ----------
■「コロンビア大院卒の超高学歴」なのに…
言い訳というか、予防線というか、林、高市の両氏が、質問に正面から答えていたのとは異なり、まず、ひろゆき氏の姿勢に言及している。リアルタイムの視聴者をはじめ、この様子を見聞きした人たちの多くが、小泉氏の「学歴」に思いを馳せたのではないか。
関東学院大学卒業で、米国コロンビア大学院修士課程修了という彼の「学歴」に注目が集まる背景には、日本の大学進学率が上がったことなどが背景にあると、私は昨年分析した(〈本当は「コロンビア大院卒の超高学歴」なのに…小泉進次郎氏が「これだから低学歴は」とバカにされる根本原因〉プレジデントオンライン、2024年8月22日18時配信)。
学部卒だろうと大学院修了だろうと、米国のみならず世界のトップレベルであるコロンビア大学に在籍した以上、小泉氏にとって英語はお手のものだと見られてきた。実際、環境大臣当時には、英語での質疑応答もこなしている。
それなのに、今回の対応は、どうか。「学歴ロンダリング」批判をふたたび燃え上がらせたばかりか、学力はおろか、ベースになる英語力すらおぼつかないのではないかとの疑いすら生んだのではないか。
■ひろゆきの「無茶ぶり」の真意
ひろゆき氏は、討論会を終えるにあたって「無茶ぶりに乗れる人と乗れない人がいて」と振り返った上で、米国のトランプ大統領が理不尽であるのだから、として、次のように要望している。
---------- どんな理不尽でもちゃんと立ち向かえる人、そういう人が総理大臣になっていただいたほうが、今後の国際社会のなかでも良いのではないかなと思います。 ----------
ひろゆき氏の「無茶ぶり」は英語質問にとどまらなかった。最後に、「自分以外で、『この人が総理大臣になってほしい』と思う人を指さしてほしい」と問いかけた。目をつむった上で、自分以外を指したのは、茂木敏充氏に向けた林芳正氏ひとりだった。
小泉氏ひとりが「無茶ぶりに乗れない人」だったわけではない。英語質問に答えなかったのは小林鷹之氏も同じだから、この点では、ふたりとも当意即妙ではなかった。ただ、「進次郎構文」と揶揄されながらも、いや、揶揄されているがゆえに、まがりなりにも自分のことばで答える印象の強かった小泉氏にとっての打撃は大きかったのではないか。
そのショックは、林氏との比較を超えて、父・純一郎氏との対比に及ぶからである。
■父・純一郎氏との決定的な違い
純一郎氏の名ゼリフというか、迷言とも言うべきことばは枚挙にいとまがない。2001年の総裁選での「自民党の派閥論理こそぶっ壊さなきゃいけない」に始まり、首相就任後はじめての代表質問に対しては「私の内閣の方針に反対する勢力、これはすべて抵抗勢力」など、パンチの強さとともに内実があった(かのように思わせた)。
また、「非戦闘地域」の定義について「自衛隊が活動している地域が非戦闘地域」と答えたり、厚生年金の加入資格を問われて「人生いろいろ、会社もいろいろ、社員もいろいろです」と切り返したり、とアドリブに長けていた(ように見えた)。
何より、その当否はどうあれ、純一郎氏には「郵政民営化」を何がなんでも成し遂げるとの信念というか狂信があった。2005年に、参議院で郵政民営化法案が否決されたから衆議院を解散したのは、その際たるものだった。参議院での賛否を、衆院選によってひっくりかえす。理屈では通らないとしても、その執念に国民は動かされ、自民党を圧勝に導いた。
ひるがえって進次郎氏には、父と同じようなアドリブもテーマも欠けているのではないか。ひろゆき氏は、その化けの皮を剥がしたのではないか。
なるほど、「ステマ」が報じられる前に、党員のおよそ半数が投票を終えたと報じられており、国会議員票でも優勢には変わりがない。昨年の反省をもとに、今回の総裁選では、選択的夫婦別姓や、解雇規制緩和といった、論争を呼ぶような、つまりはツッコまれやすそうな政策は封印している。しかも、選挙戦最終盤の10月1日と2日はフィリピン・マニラへの外遊のため、失言を恐れるどころか、その機会そのものがない。
こうした作戦と呼べばよいのか、それとも、単なる逃げなのかは判断しにくいが、父・純一郎氏は、総裁選の投開票日が迫れば迫るほど、ボルテージをあげていたのだから、親子の違いは鮮やかなほどに対照的と言えよう。
■「そんな慎重でどうするんですか?」
ひろゆき氏司会の討論会の翌日・9月28日に「ニコニコ生放送」などで配信された「総裁候補vs.中高生『日本の未来』討論会」でも、小泉氏は英語での質問に対して、日本語で答えている。質問者は、「ニューヨークに住んでいたので、日本語に堪能ではないので」と前置きし、「英語で答えてください」と頼んでいるにもかかわらず、小泉氏は「正確にお伝えしたいので、ゆっくり(日本語で)お伝えをさせていただきます」と返した。
このときもまた、小林鷹之氏も同じく日本語で答えているので、小泉氏だけが、ひろゆき氏の言う「無茶ぶりに乗れない人」ではなかった。それでもやはり、アドリブに弱いとの印象を濃くさせたのではないか。
このイメージは、9月24日の日本記者クラブでの立候補者討論会から一貫している。その日、橋本五郎・読売新聞特別編集委員から、こう問われている。
---------- 他の候補は、ほとんど(手元の)ペーパーを見ないで喋っている。しかし、小泉さんは、きわめてそこは何度もペーパーに目を落としている。慎重にやらなければいけない、ということなんでしょうけども、まだ44歳でしょう? そんな慎重でどうするんですか? ----------
■結局、何がしたいのか見えてこない
進次郎氏は、質問に対して、「ご指摘があることは承知をしています。だからといって、自分のことばではない、ということではなく」と返したものの、まさに、この答えそのものがペーパーに書いてあったのではないか。
問題は、ペーパーを読んでいるかどうかではない。それよりも、父・純一郎氏の「郵政民営化」のような信念の有無、というよりも、信念のなさ、ではないか。ひろゆき氏が、意図したにせよしなかったにせよ暴いたのは、彼の臨機応変さの欠如のみならず、英語を使おうとしない姿勢だった。
それは、彼が世界トップ大学で修士号をとったにもかかわらず、逃げた姿である。逃げたからカッコ悪いと言いたいのではない。そうではなく、逃げる程度に、彼は英語にも、それに裏打ちされているはずの「学歴」にもこだわりがないように映ったのである。
もっと素朴に言えば、進次郎氏は何がしたいのか。まったくわからなくなったのである。そのこだわりのなさは、国民的な人気のある若いスターを神輿の上に乗せて担ぐ人たちには、御しやすいのだろう。そんな制御のしやすさゆえにリーダーに選ぶのだとしたら、自民党が変わるはずがない。
---------- 鈴木 洋仁(すずき・ひろひと) 神戸学院大学現代社会学部 准教授 1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。 ----------
神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁
|
![]() |