( 328813 )  2025/10/02 06:07:48  
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子供たちが独立し、アラ還夫婦の2人暮らしにもすっかり慣れたという山本明美さん(仮名)。それもあって、毎年、お盆休みの帰省シーズンが憂鬱だと言います。首都圏に暮らす長男一家が帰ってくるからです。 

 

夏は山本さん宅、冬はお嫁さん宅に帰省するのが恒例のようですが、今年は暦の関係でお盆休みが9連休となり、滞在日数も5泊6日に延びました。さらに、例年は食事の支度や孫のお世話を手伝ってくれていた独身の長女から「夏休みは沖縄旅行に出かけることにした」と聞かされ、茫然自失状態に。 

 

そうして迎えたお盆休み、長男一家は相変わらずやりたい放題で、手土産1つ持参せず、食事代や子供服の買い物代も山本さん夫婦に払わせて当たり前のような顔をしていたとか。怒り心頭に達した山本さんは、長女からアドバイスされていたある行動に出ます。 

 

〈山本明美さんプロフィール〉 

 

石川県在住 

59歳 

女性 

公務員 

公務員の夫と2人暮らし 

金融資産5300万円(世帯) 

 

2025年のお盆休みは山の日の3連休と合わせ、最大で9連休。私は昨年末に、このカレンダーを見た時から憂鬱になりました。 

 

このところ毎年、お盆休みには首都圏に住む息子一家が帰省します。息子と嫁はメーカーの工場に勤務しているのでお盆休みは長め。例年は1週間のお盆休みのうち3泊4日を我が家で過ごしていたので、それが長くなったらいやだなぁと思ったのです。 

 

同僚からは「お孫ちゃんの顔を見るのは楽しみでしょう?」と言われますが、とてもそんな気持ちにはなれません。孫は2人で、上の男の子は5歳、下の女の子はまだ2歳です。息子夫婦の躾が行き届いていないせいか、上の子はいたずら好きでとんでもないことをやらかすので目が離せません。下の子はおむつ離れもしておらず、まだまだ手がかかります。 

 

最近はお嫁さんが帰省に同行しなかったり、義両親の家に泊まるのは気づまりだから近くにホテルを取ったりするケースもあると聞きます。そういう家庭に比べれば、我が家は恵まれているのかもしれません。でも、私に言わせれば、むしろ、息子一家は来ない方がありがたいくらいです。 

 

息子一家の滞在中、昼間は夫が運転手役になって近くの海水浴場やショッピングセンターなどに外出するのが恒例です。一昨年からは、私は下の孫と一緒にお留守番。孫が昼寝をしている間は少し休憩できますが、この年になってずっと幼い子の相手をするのは結構なストレスです。 

 

朝・昼・晩のご飯を用意するのも私の役目です。普段は夫と2人なので、仕事で帰宅が遅くなった日などは漬け物とお茶漬けでさっと晩ご飯を済ませてしまうこともできますが、息子一家が来ている間はそうはいきません。 

 

毎日献立が偏らないように、栄養のバランスも考えながら夕食には大皿料理を5品くらい用意しています。にもかかわらず、息子からは「母さんの料理はいつも同じだよね。たまには寿司でも取ってよ」と文句を言われ、上の孫からは「ピザが食べたい」とだだをこねられます。 

 

嫁は下の孫の世話をしていて知らんふりで、後片付けも手伝おうとはしません。息子にそう言われているのか、我が家では完全にお客様待遇。息子一家には1階の広い客間に寝泊まりしてもらっていますが、滞在中は布団を敷きっぱなしで、掃除もできないので困ります。 

 

以前はこんなふうに思ってしまうのは私が嫌な姑だからだろうかと自省したりしたのですが、どうやら都内で働いているシングルの娘も私と同じように感じていたらしく、毎年帰省していたのが今年は「お兄ちゃんたちがいると家に帰ってもゆっくりできないから、友達と沖縄に行くことにした」と言ってきました。新しくできたジャングリアを体験してみたかったようです。 

 

 

娘は子供の頃から周囲の空気を読むのがうまく何事にも気の利くタイプで、帰省する際も、昼ご飯にできる乾麺や皆で食べられるお菓子、夫と私用にワインなどを買って持ってきてくれます。けれど、息子夫婦から手土産をもらったことは一度もありません。 

 

それどころか、ショッピングセンターで孫の洋服や玩具を買う時は、息子がへらへらしながら「ほら、『じぃじ、ありがとう』って言えよ」と孫に言わせて夫に払わせるというのですから呆れます。 

 

息子夫婦は2人とも正社員ですが、メーカーなので同世代と比べても給料が低く、しかも、昇給もほとんどないといつも愚痴っています。最近は食料品の値段や家賃も上がっていますから家計のやり繰りも大変なのだと思いますが、だからといって我が家がお財布代わりにされたらたまりません。 

 

先日、娘と電話をした時に冗談交じりに「お兄ちゃんたちに1週間もいられたら、うちが破産だわ」とこぼしたら、娘から「食費くらいは払わせた方がいいよ。帰りの時にお兄ちゃんに請求書を突き付けてやれば?」と言われ、悪くない提案だと思いました。 

 

しかし、その時点では本当に実行するつもりはありませんでした。 

 

初日は移動疲れで孫たちが早々と休んでしまったことから、久しぶりに息子とお酒を飲みながら話をする余裕がありました。孫を寝かしつけにいった嫁も疲れていたようで、呼びにいった息子が「ぐっすり寝ているようだから、起こすのをやめた」と笑っていました。 

 

大変だったのは2日目からです。 

 

上の孫は6時過ぎには騒ぎだしたせいで、身支度をさせたり、朝ごはんを食べさせたりしていましたが、息子たちはなかなか起きてくる様子がありません。夫が「休みの日くらいゆっくり寝かせてやれ」というので放っておいたら、結局、息子と嫁が顔を見せたのは昼近くになってからでした。 

 

あまり食欲がないというので、朝昼兼用のそうめんと簡単なサラダをつくって出してやりました。テーブルに並べていると、嫁が上の孫がいないと騒ぎ始めました。 

 

「ばぁばと一緒にいると思っていたから」と言い訳を並べる息子たちに、「私が探してくるから、そうめんが伸びないうちに食べて」と言い置いて、2階に向かって孫の名前を呼びました。返事はありませんでしたが、がさごそと動く音がしました。 

 

「いるんでしょ、ちゃんと返事をしなさい」 

 

声をかけてから、階段を上りました。 

 

賃貸アパート住まいの孫は階段が珍しいようで、去年も勝手に2階に上がっていたことが何度かあり、姿が見えないと聞いた時から居場所の見当はついていたのです。 

 

しかし、事態は私の想像を超えていました。 

 

2階には桐ダンスが3竿並べてあり、中には茶道を嗜む私が仕立てた着物や、母や祖母から受け継いだ着物がしまってあります。孫はあろうことか、その引き出しを全て開け、中から着物を引っ張り出していたのです。 

 

「何やってるの!」 

 

思わず、大声を出してしまいました。 

 

 

私の声に驚いた息子と嫁が慌てて2階に上がってきましたが、嫁はわびるでもなく、きょとんとした孫を抱き上げるとさっさと階下に下りていってしまいました。 

 

息子に「悪いことをしたら、『ごめんなさい』を言うのが当たり前でしょ」と苦情を言うと、「一方的に叱りつけるのは子供が委縮するから良くないんだよ」と澄ました顔です。 

 

その日はあいにく前日からの雨模様だったのですが、私の機嫌が悪いのを察した夫が「ショッピングセンターにでも行こうか」と息子一家を誘って出かけていきました。この時ばかりはさすがに私に下の孫を預けていくわけにはいかないと思ったのでしょう。下の孫も一緒に連れていったようでした。 

 

留守になった自宅でひとり、2階の片付けをしました。大事な着物なので、一点一点確認しました。幸い、着物は無事でしたが、たとう紙が破られたものは幾つかありました。全てをしまい直した後、やむをえず、桐ダンスに目張りをして引き出しが開けられないようにしました。 

 

その日皆が帰宅したのは17時過ぎでした。 

 

息子が両手に子供服店の大きなビニール袋を提げていたので「あら、ずいぶん買い込んだのね」と言ってやったら、「ちょうど夏のバーゲンだったんだよ。子供の服はいくらあっても足りないからさ」と固い声で返してきました。 

 

大方お財布は夫なのだろうと夫の方をにらんだら、分かりやすく目をそらされました。 

 

急いで夕食の支度をしようとすると、夫が「今日は寿司でも取らないか」と言うので、近所の寿司店に大きな寿司桶の特上握りのセットを頼みました。 

 

新鮮な地魚を揃えたその店の寿司を魚好きの息子はうれしそうに頬張っていましたが、上の孫は「どうしてサーモンがないの?」とか「もっと甘い卵焼きがいい」とぐずり、なかなか箸が進まないようでした。挙げ句、私が買っておいたプリンを2つ平らげ、「こっちの方がおいしかった」とけろりとした顔で言うのですから脱力してしまいます。 

 

 

3日目以降は例年通りでした。 

 

ただ、今年は上の孫が大きくなって「今日は焼肉が食べたい」「ピザにして」「おやつはチョコレートケーキ」などとはっきり言うようになったので、表面上は「じゃあ、そうしよう」と従いながらも、外食先や、材料を購入したスーパーのレシートはしっかり取っておくようにしました。 

 

お盆休みの前に娘から今年は帰らないという電話をもらった時、息子が手土産1つ持参せずに食事やレジャーの費用は全てこちら持ちなのを愚痴ったら、「食費くらいは払わせた方がいいよ。帰りの時にお兄ちゃんに請求書を突き付けてやれば?」と言われたことが頭にあったからです。 

 

その時点で実行に移すつもりはありませんでしたが、さすがに今年は腹に据えかねることが多過ぎました。下の孫の世話や食事の支度、洗濯などを一切合切私に押し付けておいて、「ありがとう」の一言もないこと。いたずら盛りの上の孫を制御できず、悪いことをしても謝罪させもしないこと。そして、食事代やレジャー施設の利用料、子供の洋服代などを私たちに払わせて当たり前のような顔をしていること……。 

 

そこで、息子たちが帰宅する日、澄ました顔で「これ、お母さんが立て替えたお前たちの食費。よろしくね」と7万円の請求書を差し出してやったのです。 

 

その時の息子の驚いた顔といったら! 

 

「手持ちの現金がないから」と後で私の口座に振り込んできましたが、1週間ほどして息子から電話で泣きを入れられました。嫁から「安くない交通費をかけて、帰省ラッシュの中、小さな子供を連れて大変な思いをして顔を見せに行っているのに」と責め立てられたとか。 

 

「だったら来年からはもう来ていただかなくて結構です」 

 

口元まで出かかった言葉を、さすがに大人げないかとぐっと飲み込んだのでした。 

 

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。 

 

森田 聡子(金融ライター/編集者) 

 

 

 
 

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