( 329008 ) 2025/10/03 04:52:57 0 00 自民党総裁選の出陣式に臨む小泉進次郎農相(左端)=2025年9月22日、国会 - 写真=共同通信社
■自民党員票は高市氏35%、小泉氏28%
石破茂首相(自民党総裁)の退陣表明(9月7日)に伴う自民党総裁選(9月22日告示―10月4日投開票)が終盤戦を迎えている。序盤戦では小泉進次郎農相と高市早苗前経済安全保障相が各種情勢調査で2強とされていたが、ここに来て林芳正官房長官が国会議員票を伸ばして猛追している。決選投票の組み合わせが「小泉vs.高市」でも「小泉vs.林」でも、小泉氏が勝利する公算が大きい、というのが関係者の概ね一致する見方だろう。
衆参両院で少数与党となり、解党的出直しを迫られている今回の総裁選は、295人の国会議員票と同数の党員・党友票の計590票を争う。投票権を有する党員は91万5574人で、2024年9月の前回総裁選時から、13%も減っている。
10月1日に日本テレビが報じた自民党員・党友調査(9月28〜29日)によると、総裁選に出馬した5人のうち誰を支持するか尋ねたところ、高市氏が35%でトップ、小泉氏が28%で続き、林氏23%、小林鷹之元経済安全保障相5%、茂木敏充前幹事長4%で、「決めていない・分からない」が5%だった。前回調査(9月23〜24日)と比べると、高市氏が1ポイント増、小泉氏が横ばい、林氏が6ポイント増やしている。「決めていない」を除いて党員票295票に換算すると、高市氏が110票、小泉氏88票、林氏72票となった。
これに日テレが10月1日時点で調べた国会議員票を加えると、小泉氏160票超、高市氏は150台半ば、林氏は120票を超える勢いとなっている。ただ、70人弱が態度を明らかにせず、情勢は変わる可能性があるという。
10月中旬に召集される臨時国会の首相指名選挙では、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党の野党3党が投票先を一本化できないことから、自民党新総裁がそのまま首相に選出される見通しだ。
■キングメーカー争いが死語になった
自民、公明両党が衆参両院で過半数を有していた24年の前回総裁選は、菅義偉元首相(現副総裁)がキングメーカーだった。小泉氏を積極的に擁立し、第1回投票で3位に沈むと、決選投票では小泉陣営の票を石破氏に寄せ、セカンドベストの石破政権を作った。岸田文雄前首相も、決選投票前に旧岸田派内に「高市氏以外」と指示し、石破氏を押し上げた。麻生太郎元首相(現最高顧問)は、菅氏に対抗して、高市政権を作ろうと、麻生派内をまとめようとして失敗し、非主流派に転落した。3氏はキングメーカーの座を競ったのである。
しかし、衆参で少数与党になった今回の総裁選はどうか。多党化時代を迎え、3党が集まらないと、安定政権を作ることができない。首相は、自分がやりたい政策を実行できず、野党にひたすら頭を下げないと、政権や国会を運営ができない。比較第1党に過ぎない自民党の総裁をキングと呼べるのか。
菅氏は、前回同様に小泉政権を目指し、キングメーカー然としている。岸田氏は、林氏による宏池会(旧岸田派)政権を積極的に作ろうとせず、小泉陣営に側近の木原誠二選挙対策委員長や村井英樹元官房副長官、小林史明環境副大臣が入ることを容認している。麻生氏に至っては「次は短命政権だな」と周辺に嘯き、勝ち馬に乗ろうとしてか、小泉、高市、茂木、小林の4氏のうち誰を推すのか、明らかにしていない。
9月18日に出馬のあいさつに訪れた小泉氏に「俺だったらお前の年で火中の栗は拾わねぇな」と激励したこと、麻生派の河野太郎前デジタル相や井上信治元万博相、鈴木馨祐法相ら主力メンバーが19日の小泉氏の出陣式に送り込まれていることから、意中の候補が小泉氏だと推察されるが、ギリギリまで言わないだろう。
これではメーカーとは言えない。せいぜいキーマンというところではないか。キングメーカー争いが死語になった所以である。
■「周りに人が付けば、何とかなる」
今回の総裁選を小泉、高市、林の上位3氏はどう戦ってきたのか。
小泉氏は、前回総裁選を共に戦った木原氏や斎藤健前経済産業相らの「チーム小泉」を維持したうえで、今回は保守右派の加藤勝信財務相を陣営の選対本部長に迎え、党員票対策で保守リベラルから右にもウイングを広げようとしている。
政策的には、世論の賛否が割れている選択的夫婦別姓制度の1年以内の導入、解雇規制の緩和など、前回総裁選で打ち出した改革路線を修正し、党内融和を優先するとの政治姿勢を取っている。モデルは自民党が下野した2009年当時の谷垣禎一総裁だという。小泉氏は「敢えて自身の主張を抑え、党内の一体感を作るためにご苦労された」と語っている。
今回、小泉陣営の国会議員票が積み上っているのは、政治家としては未熟だが、「周りに人が付けば、何とかなる。人の言うことは聞くから」(閣僚経験者)という思惑もあっての小泉氏支持なのだろう。
高市氏は、前回総裁選同様、陣営に保守右派の古屋圭司元国家公安委員長、中曽根弘文元外相、萩生田光一元政調会長、山谷えり子元国家公安委員長らを配している。 前回の第1回投票で1位となりながら、決戦投票で議員票が伸びずに石破氏に敗れただけに、議員仲間作りに力を入れてきた。その一つが黄川田仁志、尾崎正直両衆院議員、山田宏、佐藤啓両参院議員ら15人程度の中堅・若手が旧派閥の枠を超えて集まった「高志会」で、今回総裁選の実働部隊でもあると、報じられている。
■「私は穏健保守、中道保守に当たる」
高市氏は、これまで岩盤保守層とされる党員票に支えられてきたが、今回総裁選で立ち位置を変えている。参院選での参政党などの台頭を受け、「私は穏健保守、中道保守に当たる」と言いだした。
前回総裁選で首相就任後も靖国神社に参拝すると公言したが、今回は明言を避けている。経済政策では、積極財政派として参院選前に主張した、食料品の消費税率ゼロについても「選択肢として排除するものではない」とトーンを落とした。
高市氏は、党本部での所見発表演説で、大伴家持の歌「高円の秋野の上の朝霧に妻呼ぶ雄鹿出で立つらむか」を詠み、「そんな奈良のシカを足で蹴り上げる、とんでもない人がいる」と外国人観光客の蛮行ぶりを取り上げた。外国人対策に力を入れる意向を示し、岩盤保守層にアピールしたのだが、根拠・出所不明な情報だとの指摘も受けている。
林氏は、古賀誠元幹事長を後ろ盾に、旧岸田派の田村憲久元厚生労働相、松山政司参院議員会長、宮沢洋一党税調会長、金子恭之元総務相らが陣営を構成している。
岸田、石破両政権で官房長官を務めた経験と実績をアピールしつつ、中長期の政策である低中所得世帯に所得に応じた支援を実施する「日本版ユニバーサルクレジット」に加えて、多党化時代に対応する衆院中選挙区制の再導入、省庁再編に絡んで「コンテンツ庁」設置を提唱するなど、独自色も発揮する。
議員票対策としては、石破政権継承を打ち出し、前回の石破票を取り込む作戦だ。首相が周辺に自身の後継に林氏を推したこともあって、中谷元防衛相、岩屋毅外相、青木一彦官房副長官、舞立昇治参院議員らが、終盤戦になって林陣営に馳せ参じている。
林氏が、参院選向けに石破首相が掲げた2万円給付について「私だったらやらなかったかもしれない」と発言し、批判を浴びて撤回したことは、さほど影響を与えていない。
■「ペーパーを見てしゃべっている」
総裁選の論戦では、9月24日の日本記者クラブの総裁選候補者討論会が党内外の耳目を集めた。小泉氏が本命視された前回総裁選で、外交や政策で不安定ぶりが露呈して失速したのが、この討論会だったからだ。
小泉氏は、安全運転に徹した。例えば、経済対策では、国民民主党が主張する所得税の非課税枠「年収の壁」の178万円への引き上げについて問われても直接答えず、「国民の声は、目の前の物価高対策をスピーディーに進めてほしいということだ」「インフレ時代に合わせ、所得税の基礎控除などを物価や賃金上昇に合わせて引き上げる」などと手元のペーパーを読んだのだ。高市氏が「賛成だ」と言い切ったのとは対照的だった。
小泉氏は、記者から「ペーパーを見てしゃべっている」と指摘され、「公務の合間を縫って自分なりに相当手を入れ、何度も推敲を重ねて、いかに正確に私の思いが伝えられるかに重きを置いたつもりだ」と釈明したが、自分が書いた紙ではないことも認めてしまった。実際に発言要領を書いているのは木原氏だが、こうした舞台裏を見せても、余計な発言をしないことを優先したのだろう。
その象徴の一つが選択的夫婦別姓の導入を封印したことへの説明ぶりだ。記者から「党内に異論があっても信念を通すのが『らしさ』ではないか」と挑発されても、「コンセンサスをどう作っていくのかに、努力しなければならない」とかわし続けた。
外交問題でも、パレスチナを国家承認するか問われ、「私が首相になった暁には、国際情勢の変化なども(外務省から)説明、ブリーフを受けたうえで総合的な判断が必要だ」と述べ、自らの見解を示さなかった。
■「小泉氏は総裁選から撤退した方がいい」
9月25日には小泉陣営がインターネット上の配信動画に小泉氏を称賛する“やらせコメント”を投稿するよう関係者に要請したステマ(ステルスマーケティング)問題が週刊文春に報じられ、牧島かれん元デジタル相が翌26日、陣営の総務・広報班長を引責辞任するという騒動も起きた。
問題になったのは、牧島氏の事務所が考案し、陣営で共有されたコメントの文例だ。「あの石破さんを説得できたのスゴい」「コメ大臣は賛否両論だけど、スピード感はあったな」などと小泉氏を持ち上げる一方で、「ビジネスエセ保守に負けるな」「やっぱり仲間がいないと政策は進まないよ」といった高市氏をあげつらう表現も含まれていたからだ。正体を隠した世論誘導で、選挙の公正を損なう極めて悪質な行為にほかならない。
小泉氏は、26日の記者会見で「私がしっかりしていれば心配かけず、こうしたことは起きないと申し訳なく思う」と陳謝した。
自民党内ではステマ規制への感度が鈍く、さほど問題視されていないが、日本維新の会の前原誠司前共同代表が29日、京都市内で記者団に対し、偽情報の流布への対応は国際的な課題だとし、「かなり深刻な事態だ」「広報担当者が辞任するくらいでは済まない。小泉氏は(総裁選から)撤退した方がいい」との見解を示したのは、極論ではない。
■「政策協議、連立打診協議は当然だ」
総裁選の論戦では、自公連立政権の拡大も主要テーマとなったが、温度差があるにせよ、5人の候補全員が日本維新の会や国民民主党との連立協議に意欲を示した。
小泉氏は「政党間協議で丁寧なやりとりの努力を重ね、政策や基本的な理念の一致が見える先で出てくるものだ」とし、期限を区切らない考えを示した。林氏は「安定した政権を築く意味で連立拡大は目指す方向だ」と強調する。高市氏は臨時国会に向けて「首相指名(選挙)までにできるよう精いっぱいの努力をしたい」と述べていたが、9月28日に配信されたユーチューブ番組で、参政党や日本保守党との政策協議を排除しないとの考えも示している。
維新の会の吉村洋文代表は9月26日、大阪府庁で記者団に「新総裁から政策協議、連立打診協議があるのであれば、協議をするというのは当然だ」と呼応し、連立入りの条件として社会保障改革や「副首都」構想の実現を挙げている。
次の政権が「短命政権」で終わるのか、「安定政権」に移行するのかは、新総裁の下で挙党体制を築くことができるのか、自公維の連立協議がどこまで進捗するのか、にかかっている。
---------- 小田 尚(おだ・たかし) 政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。 ----------
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚
|
![]() |