( 329058 )  2025/10/03 05:56:36  
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23時半ごろ、続々と大型トラックが集まる浜松SA下り - 筆者撮影 

 

日中と夜間とで様子がガラッと変わるのが、高速道路のSA・PAだ。物流ジャーナリストの坂田良平さんは「深夜帯は休憩しているトラックが押し寄せ、乗用車用スペースに駐車するといった迷惑行為も散見される。ただ、こうした混雑が起きる原因は『トラックドライバーのサボり』ではない」という――。 

 

■一般ドライバーからすれば「迷惑すぎる」 

 

 ご存じない人も多いと思うが、トラックを原因とする深夜帯の高速道路SA(サービスエリア)・PA(パーキングエリア)の混雑が凄まじい状況になっている。 

 

 交通量が多い新東名では、SA・PA内の駐車スペースでは空きを見つけられなかったトラックが、本来の駐車スペースではない走路上や、普通乗用車用の駐車スペースを塞ぐように駐車しているケースもあり、中にはSA・PAと高速道路本線をつなぐ分流・合流ランプ上に駐車しているトラックすらいる。 

 

 こうした状況に一般ドライバーからは、「危なすぎる」「迷惑極まりない」といった批判の声も上がっている。 

 

 こうした状況は、職業ドライバー向けの労務コンプライアンス、高速道路の深夜割引制度、そして高速道路各社の事情などが複雑に絡み合った結果として生じており、一朝一夕に解決することは難しい。 

 

■30年前は事実上「働かせ放題」だった 

 

 筆者が現役トラックドライバーだったのは、もう30年近く前の話だ。 

 

 その頃は、今のようなトラックによる深夜帯のSA・PA大混雑は発生していなかった。なぜなら、今に比べて職業ドライバーに対する労務コンプライアンスがゆるく、また摘発もあまり行われていなかったため、事実上ドライバーを働かせ放題だったからである。 

 

■「寝ずに走り続けてはいけない」ルール 

 

 一般の就労者では労働基準法によって労務管理コンプライアンスが定められているが、トラックドライバーやバスドライバー、タクシードライバーなどの職業ドライバーは、改善基準告示により厳しい労務基準が定められている。 

 

 トラックドライバー向けの改善基準告示のうち、SA・PA混雑の原因となりうる条項をピックアップした。 

 

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・4時間運転すると30分の休憩を取らなければならない(430ルール) 

・1日の運転時間は、2日平均で1日あたり9時間以内 

・1日の拘束時間は、最大15時間まで 

・1日の休息時間は、長距離輸送に従事する場合には継続8時間以上で基本継続11時間以上 

 

※上記は一般の人にも分かりやすく単純化しており、実際にはさらに詳細な条件がつく 

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 一般ドライバーの中には、SA・PAの大混雑を見て「そこまでして休みたいのかよ。他人に迷惑をかけるくらいならば寝ないで走り続けろよ」と心無い言葉をぶつける人もいるが、職業ドライバーにとってはきちんと休憩・休息を取るのも仕事のうちなのだ。 

 

■コンプラ順守のためにマナー違反をする 

 

 深夜帯の大混雑における当事者となってしまうトラックドライバーには、430ルールによって休憩を取ろうとする人と、最低8時間の休息を取ろうとする人がいる。 

 

 例えば、すでにトータル8時間55分運転をしているドライバーにとっては、次のSA・PAまで走る余裕はない。原則として高速道路におけるSAは約50km、PAは約15km間隔で設置されており、5分以内に次のSA・PAまで走り駐車スペースを探すのは困難だからである。 

 

 かといって、9時間を超えて運転してしまえば改善基準告示違反になってしまい、場合によっては会社が行政処分を受ける可能性がある。 

 

 だからこそ、ここぞと決めたSA・PAでは無理・無法をしてでもトラックを駐車し、コンプライアンスを遵守しなければならないのだ。 

 

 いわばコンプライアンスを守るために、ルールに抵触しかねないマナー違反をせざるを得ないというのが、トラックドライバー、そして運送事業者のジレンマなのだ。 

 

 

■「3割引き」のために深夜帯を選んでいる 

 

 ちなみに2024年4月に改正された改善基準告示では、430ルールは少しだけ緩和され、「SA・PA等で駐車スペースがなく、やむを得ない場合4時間30分まで延長可」とされた。だがトラックドライバーたちからは、「30分で空いているSA・PAを探せるとは限らない」「政府は現場の事情を理解していない」という、あきらめにも近い批判の声が上がっている。 

 

 もう一つ、SA・PA混雑の原因となっているのが、高速道路各社が提供するETC深夜割引制度である。 

 

 これは深夜0時から4時のあいだに高速道路上にいれば、その高速道路利用にかかる料金が3割引きになるというものだ。この深夜割引制度の適用を受けるため、長距離輸送を担うトラックは、日中ではなく夜間帯に走行したり、あるいは高速道路上にあるSA・PAで夜間の休息を取ろうとする。 

 

 もっとも、日本国内を見れば大きなトラックを駐車したうえで、トイレや食事なども確保できる場所は極めて少ない。 

 

 余談だが、新東名におけるSA・PAが混雑するのは、コインシャワーが設置されているところが多いことも一因だと思う。これまた一般人の中には勘違いしている人もいるのだが、「汗を流したいから」といってトラックで移動すれば、その時間も運転時間にカウントされてしまう。「入浴のための移動は休息時間」という理屈は通らないのだ。 

 

■打開策は「スペース拡張」しかないが… 

 

 結論から言うと、大混雑を解消するには駐車スペースを大幅に拡張するしかないが、SA・PAの駐車スペースを拡張するためには多額のコストがかかる。一方、少子高齢化が進む日本ではトラックによる国内貨物輸送は減少傾向にあり、今、多額のお金をかけて駐車スペースを増やしたとしても、将来は余らせてしまう可能性もある。 

 

 高速道路各社に十分なボリュームの駐車スペース投資を求めるのは酷であろう。 

 

 一部のSA・PAでは、トラック向けに駐車スペースを事前予約できる社会実験を行っている。しかし、これは主としてダブル連結トラック(大型トラックがさらに大型トラック相当のトレーラーを牽引する車両)向けであり、限定的な取り組みである。 

 

 

■新たな深夜割引制度は「未定」に 

 

 余談だが、筆者がダブル連結トラックを運行する事業者に取材したところ、「事前に予約していても、勝手に他のトラックが駐車していることがあるんですよね」と嘆いていた。 

 

 駐車場の予約とは、スムーズに駐車スペースを確保するための策であって、そもそも駐車スペースが足りないという課題を解決するためのものではない。 

 

 NEXCO中日本・東日本は、この実証実験の意義を「ドライバーの確実な休憩機会を確保するため」としているが、混雑緩和の対策にはならないのだ。 

 

 また、2024年度中に開始予定だった新たな深夜割引制度も、トラックによる深夜帯のSA・PA大混雑解消の一助として期待されていた。新深夜割引制度では、22時から翌5時までの間に走行した距離だけが3割引きとなるため、SA・PAでの休憩・休息を抑制する効果が見込まれるためである。 

 

 だが新深夜割引制度は、準備の遅れに加え、2025年4月に発生した大規模なETCシステム障害によって開始時期が未定となってしまった。 

 

■物流関係者の勤務時間まで変えるのは大変 

 

 そもそも、新深夜割引制度が始まったからといって、全ドライバーのタイムスケジュールを「夜間にSA・PAで休息する」から「休息は割引時間帯外で取得し、割引が適用される22時から翌5時は運行する」に変更できるわけではない。 

 

 なぜならば、22時から翌5時を運行にあてるためには、貨物を積むタイミング・おろすタイミングを夜間や早朝にシフトしなければならないケースもあるからだ。これはトラックドライバーの勤務シフトだけではなく、工場や物流センターなどの担当者らの勤務シフトも変更せざるを得ず、簡単には実施できない。 

 

 ほかに考えられるのは、いよいよ(細々とではあるが)社会実装が始まった自動運転トラックの普及や、政府が前のめりで検討中の自動物流道路などのテクノロジーによって、休息を取る必要がない長距離輸送手段の確立だろうか。だがもちろん、こうした革新的なモビリティの普及には時間がかかる。 

 

 あえて言えば、可能性があるのは、一部の道の駅などで行われているETCを利用した高速道路からの一時退出社会実験だろうか。 

 

 

■「道の駅でいったん休憩」をしやすくする 

 

 これは本来、高速道路を経路の途中で降りると長距離逓減(ていげん)制のメリットが失われ、高速料金が高くなってしまうのを防ぐための特別な措置である。 

 

 例えば富津館山道路の鋸南保田(ほた)ICでは、いったん高速道路から降りて「道の駅 保田小学校」に立ち寄っても、その後の高速道路走行では長距離逓減制を反映した高速料金が担保される。 

 

 特に地方では、高速ICのそばに大規模な道の駅などが立地していることも多く、夜間に限りトラック向けの休憩・休息スペースとして開放するというアイデアはありだろう。 

 

■死と隣り合わせの職業に未来はない 

 

 「眠気とうまく付き合って仕事をするのもトラックドライバーの素養」――以前は、このように語る運送業界の関係者も少なくなかった。 

 

 現役トラックドライバーだった頃、同僚の中には30時間くらい睡眠を取らずに長距離輸送をこなす猛者がいた。そんな同僚を見て、「俺はトラックドライバーには向いていないのかもしれない」と何度も思ったものだ。 

 

 確かに、ほかにも眠気と戦いながら働く仕事はあるだろう。 

 

 だが、職業ドライバーのように寝てしまうことが自分と第三者の命の危険に直結するような仕事は限られている。 

 

 繰り返しになるが、一般ドライバーの中には「東京〜大阪間だったらノンストップで走り続けられるだろう」とトラックドライバーが休憩・休息を取ること、あるいはその法令整備が行われていることを揶揄する人もいる。 

 

 だが、命をかけてまで働くことが、果たして職業として正しいのだろうか? 

 

 そこまで言わずとも、眠気に強い才能を求められる職業に、将来はあるのだろうか? 

 

 それでなくともトラックドライバー不足が深刻化する今、安全な労働環境を提供できなければ、ますます物流業界の人手不足は深刻化していくだろう。 

 

 残念ながら、深夜帯のSA・PAにおけるトラック大混雑を回避するためのカンフル剤はない。 

 

 乗用車用の駐車スペースに無理やり駐車したり、あるいは分流・合流ランプなどに駐車するような迷惑行為・危険行為は許されるものではないが、この背景にある事情をぜひ多くの人に知ってほしい。 

 

 

 

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坂田 良平(さかた・りょうへい) 

物流ジャーナリスト、Pavism代表 

「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。物流ジャーナリストとしては、連載「日本の物流現場から」(ビジネス+IT)他、物流メディア、企業オウンドメディアなど多方面で執筆を続けている。 

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物流ジャーナリスト、Pavism代表 坂田 良平 

 

 

 
 

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