( 329778 )  2025/10/06 06:19:35  
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自衛隊の最新小銃である「20式小銃」。こちらの写真は実物。今回公開された「市街地訓練用教材」は撮影NGだったため、本稿では写真の掲載はない。ご了承いただきたい。なお、実銃との差別化のため「市街地訓練用教材」はストック(銃床)などが緑色で成形されていた(写真 

 

2020年より調達の開始された自衛隊の新小銃「20式小銃」。その訓練用教材としてプラスチック製の弾を撃ち出す模擬銃「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」が公開された。【自衛隊新戦力図鑑】 

TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki) 

 

写真は20式小銃(実銃)。「市街地訓練用教材」を試射させてもらったが、再現されたリコイル(射撃時の反動)はとても力強く、これまでの同社の製品と比較してガツンとくる印象を受けた。訓練用教材としてフィーリングを実銃に近づけているのかもしれない(写真=アメリカ海 

 

市街地戦闘訓練で建物へ突入する陸上自衛隊員。都市空間での戦闘は、建物に遮られるため交戦距離が短い(写真=アメリカ海兵隊) 

 

10月1~3日の日程で、自衛隊や法執行機関向けの装備・機材の見本市である「テロ対策特殊装備展(SEECAT)」が開催された。このイベントにおいて、玩具銃メーカーの東京マルイ社が、訓練用として陸上自衛隊に導入する20式小銃型の模擬銃「市街地戦闘訓練用教材」が初めて公開された。 

 

東京マルイは、いわゆる「エアガン」と呼ばれる低威力のプラスチック弾を撃ち出す、玩具銃を製造する企業であり、今回展示されたものも基本的には玩具と同一基準で作られたものだ。しかし、オモチャといっても精巧に作られており、実銃同様の操作性を完全に再現し、射撃時の鋭い反動まで味わうことができる。 

 

「オモチャを訓練に使うなんて」と思う方もいるかもしれないが、銃規制・管理の厳しい日本ではオモチャのほうが使い勝手がよい部分がある。ご存じの方も多いと思うが、自衛隊は訓練で使用した空薬莢(弾の撃ちガラ)をひとつひとつ回収するほど、管理が厳重だ。また、実弾は撃てる場所も限られている。オモチャであれば、こうした規制に縛られることなく訓練に使用することができる。 

 

欧米では市街地・対人訓練には「シムニション」と呼ばれる非致死性弾薬を使用することが多い。ただし火薬式のため、日本では非致死性でも取り扱いは実弾と同じになるだろう。なお、「シムニション」は社名だが、非致死性弾薬全般を指す代名詞となっている。写真のものはUTM 

 

市街地戦闘でも、特に室内など閉所は「CQB(近距離戦闘)」と呼ばれる。実際、CQBの訓練のうち、弾を出すものは全体の1割にも満たず、室内での動きや搭載機器の操作といった項目が多くを占めるという。実銃同様の操作性を再現した「市街地訓練用教材」は、幅広く活用が 

 

「市街地戦闘訓練」とは、どのようなものだろうか。街路や建物内など、文字通り都市空間を舞台とした訓練で、相手との交戦距離が短いことが特徴だ。だから実銃よりはるかに有効射程の短い(最大でも30m程度)エアガンでも、訓練に活用することができる。実際、陸上自衛隊の仕様書では「射距離25mで直径20cmの円内に収まる精度」を求めている。 

 

代表的な訓練に、人間同士での模擬戦闘訓練、いわゆる「フォース・オン・フォース(FoF)」訓練がある。当たり前だが、対人訓練では実銃を使うことはできないので、エアガンは有効だ。筆者はアメリカの警察特殊部隊によるエアガンを使ったFoF訓練に参加したことがあるが、実際に弾が飛んでくるため、自分のミスを把握しやすい(筆者の場合、ミスを理解する以前に一方的にコテンパンにされただけだったが…)。 

 

ただし、FoF訓練は最終段階だ。はじめに室内における小銃・付属機器(ライトやレーザー照準装置など)の操作を学ぶ段階があり、紙のターゲットを相手にする「フォース・オン・ターゲット(FoT)」訓練を経て、FoF訓練にいたる。 

 

これら各段階において、実銃同様の操作性を再現している「市街地戦闘訓練用教材」は、幅広く使うことができるだろう。一方で、できることが多い教材を使うときは、インストラクターの側で「今日の訓練で学ぶべきこと」を明確にしなければ、器用貧乏になりかねないことは留意すべきだろう。 

 

玩具銃最大手の東京マルイ社の製品だけに、非常に優れた製品である「市街地戦闘訓練用教材」の活用の幅は広いと感じる。この銃が陸上自衛隊の練度向上に活躍してくれることを期待したい。 

 

執筆協力:田中伸之介 

 

綾部 剛之 

 

 

 
 

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