( 330193 ) 2025/10/08 05:24:23 0 00 群馬県前橋市の初の女性市長として期待されていた小川晶氏(画像:本人の公式サイトより)
女性首相誕生のニュースの裏で、群馬県前橋市初の女性市長・小川晶氏のスキャンダルが連日報道されています。
部下である、既婚の前橋市役所幹部とラブホテルで密会していたという騒動ですが、この件には人々の耳目を集める要素がたくさんあるように思います。
メディアの質問から逃げ通していると批判されていた市長は、10月6日の市長定例会見ではじめて質疑応答に応じました。しかしここまでの対応は、まるで自ら世間の関心を煽っているかのようで、危機対応として間違った選択だったといえるでしょう。
■なぜ小川市長は追いかけられるのか
議員や首長といった政治家のスキャンダルは珍しいものではなくなりましたが、政治家であっても、特別に注目を浴びる存在とそうでない人がいます。連日報道されている小川市長は今、最も注目を浴びている政治家の1人なのは間違いありません。
いち地方都市の首長で、それまで地元の人以外には広く知られる存在ではなかった小川市長。それなのになぜ、全国区で報道され続け、批判を受け続けるのでしょうか?
それは、市長自身が “メディアの関心を集める要素”を持っていることと、さらに関心を煽る行動を取っていることから。キラーコンテンツとプロモーションが合致したことで、時の人となったと考えます。
清新な女性市長、弁護士という超エリート属性、まじめそうなビジュアルとラブホテル密会というギャップ。事件を要約すれば、「新進の若手女性市長が、ラブホテルで頻繁に部下の既婚男性と密会」と、パワーワードの詰め合わせであり、興味を惹かないわけがありません。
ここ最近は地方首長にまつわるさまざまな事件や騒動がありますが、つい先日まで学歴詐称疑惑で静岡県伊東市の田久保眞紀市長がメディアに追われていました。田久保市長は市議会で不信任の議決を受け、9月10日に議会を解散。10月19日に投開票となる市議選の結果が出るまでは一段落でしょう。
このタイミングも、小川氏への注目を集めるアシストとなったことでしょう。信頼の声や実績を評価する声もある中、時間とともにスキャンダラスな報道も増えています。
■視聴率を上げるための“プロモーション”に
小川市長は市議会など一部の関係者には完全にクローズドの状態で報告し、質疑も受けたようです。しかし、メディアの取材には応えず、市民にはほとんど情報発信をしてきませんでした。
記者会見としながら質問を受けずに打ち切って会場を去るという、情報管制ともいえる行動は、「ダンマリを決め込んできた」という批判どおりでしょう。
前述のとおり、はじめてメディアの質疑に対応したのは問題が発覚した9月24日から13日経った10月6日の市長定例会見の場です。この遅れは「逃げた」という批判が当たっていると思います。
「ラブホテルには10回以上一緒に行ったが、男女関係はない」という苦しい説明をして、追及するメディア取材からは逃げる。そのシーンが取り上げられることで、さらに視聴者の想像をかき立ててしまう。
これでは逆に、視聴率を上げるための“プロモーション”になってしまっています。
広告では「ティーザーマーケティング」という手法があります。わざと情報をすべて出さずに小出しにし、視聴者の関心を煽るというものです。新規公開映画のクライマックスシーンの一部だけを映して興味を煽る手法など、昔から使われています。
小川市長の行動は、情報発信を拒んで出し惜しみしたことで、ティーザーCMのような関心を集める効果を生んでしまったように思います。
■「不倫は辞職」すべきことなのか?
では、「不倫した政治家は辞職すべきなのか」。
まず前提として、小川市長は男女関係を否定しています。つまり、事実関係がはっきりしない以上、不貞行為はないということになりますが、不倫ではないとしたら、「不適切な男女関係を強く疑われる行動をした首長は、その任にふさわしいのかどうか」が問われることとなります。
市長という立場の人間が、市役所の職員と頻繁にラブホテルに行き、個人的な相談や感情が発露して泣いてしまうような私的相談事に長時間乗ってもらっている。
どれだけ小川市長が男女関係はないと強弁したところで、この行為だけをもっても、弁護士など多くの法律専門家が民事事件なら通らない主張だと解説しています。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、党が大勝利を収めた総選挙直後に、自身の不倫スキャンダルを暴かれました。玉木代表はそれを認めて、代表の役職停止処分を受けましたが、その後、処分が解けた参院選では代表に復帰し、党は勝利となりました。
政治家という立場は、選挙に通るかどうかが最大の分かれ道です。小川市長を支持する有権者で投票の過半数を確保できれば、不倫は犯罪ではないため、不適切な行動があっても政治家を続けることは可能です。
裁判と違って、選挙は法律上の白黒を決めるものではなく、有権者の得票数で決まります。投票する一般の人びとは必ずしも法律知識に詳しいわけでも、公平公正なわけでもなく、真偽不明のフェイクニュースや陰謀論に踊らされて投票する人もいます。
市長が全否定する不倫が事実だったとしても、選挙では選ばれる可能性はあり、まして「市長は不倫をしていない」と認める人が多ければ、市長職はできることになります。
「不倫したなら辞職すべき」かどうかは、法律論ではなく、有権者の意思で決まるものといえるでしょう。有権者以外の意見は、少なくとも市長職については関係ないということになります。市長はそのための説得を行うことが必要だと思います。
■小川市長に「残された選択」
定例会見での「市民への説明」は、自身のサポートを増やすうえではきわめて重要です。支持の声が大きくなれば、辞任を回避できるかもしれませんし、仮に選挙になっても再選の可能性が高まります。
とはいえ、これがきわめて難しいのも一目瞭然です。ここまでで述べたように、不倫関係を否定するのは悪魔の証明であって、どれだけ説明をしたところで証明は不可能です。
支持の声を増やすための説得をするにしても、誰を対象に、どの程度の規模や頻度で行うかもまだ未定ということでした。
小川市長は、不信任決議などを通じて市長に強い影響力を持つ市議会や、市長の支援者に対しては発覚後すぐに説明や質疑応答など、ていねいな対応をしています。ステークホルダーから押さえていくというのは理に適う行為といえます。
それでも、「一般市民」という特定の相手ではない存在に、自身の主張を理解させて賛同をもらうのは、とてつもないハードルの高さでしょう。
しかも、説明を果たした市議会からは、進退を問う声が上がっています。
■ここからの「逆転」は可能か?
6日の会見では、市民に向けた説明を行う旨も発表されました。これまで何より大事な一般有権者への説明がほとんどされてこなかったことは、大きな問題でした。
時間が経てば経つほど不信は広がり、さまざまな憶測や真偽不明な噂レベルのニュースも増えていきます。直接話すことには、一定の効果は期待できます。
市民との対話の場に出るなら、批判を一身に浴びる覚悟が必要です。「10回以上ラブホテルに行ったが、仕事上の用事であり、男女関係はない」という、民事なら勝ち目がないといわれるほど不利な説明をするのは悪手でしょう。
自分の言うことを信じてもらうしかないというのは、限りなく不可能に近い説得です。「なかったことの証明」が不可能である以上、報道への反論は説得力を持ちません。
わずかでも説得力を上げるのであれば、自らへ処分を課すという手があります。
不適切な行動と不信への責任ということで、まずは自ら報酬の自主返納、正式な懲戒委員会での審判も受けて、懲戒処分も受け入れる姿勢を示すなどをすれば、わずかですが説得力を持つでしょう。
自身の危機をどう乗り越えるのか、自ら招いたともいえる危機的状況は、引き続き多くの関心を惹きつけると思います。
増沢 隆太 :東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家
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