( 330228 ) 2025/10/08 06:02:09 0 00 イメージ画像
先日、日本銀行が「資金循環統計」を発表しました。
資金循環統計とは、日本の金融機関や家計、企業といった経済の主体となる部門間において、金融資産と負債がどのように流れているのかを示した統計です。よく「個人金融資産がいくらになりました」と言われる際の個人金融資産は、資金循環統計の家計部門における金融資産の額を示しています。
統計は四半期ベースで公表され、直近は2025年第2四半期のデータになります。つまり、2025年6月末時点の数字ということです。
ざっと数字を見ていくと、家計で保有している金融資産の額が、2238兆7250億円です。その内訳をざっと記すと、
現金・・・・・・101兆3705億円 流動性預金・・・・・・666兆3210億円 定期性預金・・・・・・351兆2775億円 外貨預金・・・・・・7兆3399億円 債務証券・・・・・・16兆9609億円 株式等・・・・・・294兆2647億円 投資信託・・・・・・140兆3569億円 生命保険受給権・・・・・・253兆3175億円 年金保険受給権・・・・・・108兆1778億円 年金受給権・・・・・・154兆4700億円
ちなみに「債務証券」は、国債や社債などの債券を指しています。
これらの数字から、「現預金の比率が50.3%。日本人は現預金指向が強い。NISAやiDeCoを利用して資産形成するように、もっと啓蒙しなければ」などと、どこぞの団体やFPが言いそうなことを、ここで書くつもりはありません。もう少し、中身を見ていきたいと思います。
まず、気になるのが株式や投資信託を買う人が増えているのかどうか、という点でしょう。直近まで、S&P500や日経平均株価が最高値を更新し続けてきただけに、家計部門がどの程度、リスクオンになったのか、注目されるところです。
家計部門の金融資産保有残高の推移を見ると、投資信託は2024年を通じて前年比30%前後で増加していますし、株式等についても投資信託には及ばないとしても、安定的に前年比増を続けています。
とはいえ、これらの保有残高は時価評価になっているので、マーケットが上昇すれば、その評価益によって金額は押し上げられますし、逆にマーケットが下落すれば、評価損が生じることによって金額は押し下げられます。
したがって、実際に資金が流入しているのか、それとも流出しているのかを見定めるためには、この評価損益分を取り除いた数字を見る必要があります。
そのために必要なのが「調整額」の数字です。この調整額がマイナスの時は評価損が生じているので、実数を把握するためには、この評価損分を残高に加えます。逆に調整額がプラスの時は評価益が発生していることになるため、実数を把握するためには、この評価益分を残高から差し引かなければなりません。
このようにして調整した残高で推移を見ると、株式に関しては2024年9月以降、資金流入ペースが落ちています。2023年9月期から2024年6月期までの前年同期比は20%台で増えていましたが、2024年9月期以降は伸び率が1ケタ台になり、2024年12月期と2025年6月期の前年同期比はマイナスになっています。
これはおそらく、株価の動きと関係しています。2023年9月期から2024年6月期までは、日経平均株価が3万1000円台から過去最高値を更新し、4万円台をつける過程でした。また2024年9月期以降、2025年6月期までは、株価がボックス圏で推移しています。つまり株価の上昇局面では資金流入が大きく伸び、逆にボックス圏の時には資金流入ペースが大きく落ちることが分かります。
では投資信託ですが、こちらは安定的に伸びています。2023年9月期以降、2025年3月期まで、前年同期比は15~33%の増加です。投資信託の場合、NISAの積立投資枠の影響があるのかどうかは定かでないものの、恐らく積立購入の普及が、安定した資金流入を支えているように思えます。
では、構成比をもって「日本人は現預金指向が強い」とされる現預金はどうでしょうか。
まず現金は減少傾向にあり、2023年9月以降は前年同月比でマイナスが続いています。残高を見ても、2023年9月期の106兆477億円に対し、2025年6月期のそれは101兆3705億円です。徐々にインフレの傾向が強まるなか、さすがに現金で保有し続けるのはまずいと判断した人たちが増えていると思われます。
また、定期性預金の残高は長期にわたって減少傾向が続いています。前年同期比で見ると、2015年9月以降、実に40四半期連続で前年同期比マイナスです。残高を見ると、2015年9月期の460兆8765億円に対し、2025年6月期は351兆2775億円です。
ところが、逆に流動性預金は増加傾向が続いていて、2009年12月期以降、実に63四半期連続で前年同期比を上回っています。こちらの残高は、2009年12月期の291兆4574億円に対し、2025年6月期は666兆3210億円ですから約2.3倍です。
理由は、超低金利です。ようやく金利が生まれてきましたが、長期にわたって続いた超低金利によって、流動性預金と定期性預金の金利差がほぼなくなりました。そうなると、いつでも現金化できる流動性預金の方が、利便性に長けてきます。定期性預金から流動性預金への資金シフトは自明だったといえるでしょう。
ただ、これはある意味、銀行経営にとって不安定要素になります。
銀行にとって預金は負債勘定項目であり、低コストの資金調達手段です。かつ定期性預金の残高が多いほど、あるいは満期までの期間が長い定期性預金の残高が増えるほど、負債の返済を先延ばしにできるため、資産・負債のコントロールがなります。
それとは逆に、いつでも解約できる流動性預金の比率が高まるほど、銀行にとっては予期せぬ預金流出に対応しなければなりません。
過日、銀行同士で資金の貸し借りを行うインターバンク市場関係者に聞いたところ、特に地方銀行で預金の獲得競争が激化しているとのことでした。理由は、相続です。
高齢の親が地方に住み、その子供が大都市圏で生活していると、親が亡くなって相続が発生した時、地方銀行、特に第二地方銀行など規模の小さい地域金融機関に預けてある親の預金が、大都市圏の銀行に移されてしまうケースが増えているとのことです。
定期性預金から流動性預金への資金シフトが加速すると、経営規模の小さい地域金融機関は、ますます予期せぬ預金流出に苦しむことになります。それだけに、この手の地域金融機関を活用している人たちは、その経営状況をできるだけ注視しておく必要がありそうです。
鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)
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