( 330283 ) 2025/10/08 06:54:12 0 00 NRI研究員の時事解説
高市新総裁の誕生を受け、積極財政と金融緩和継続への観測から6日の金融市場では円安・株高が大幅に進んだ。日経平均株価は前営業日から2100円以上上昇し、4万8千円程度の水準で取引を終えた。海外市場を経ても株高の流れはなお続き、7日の日経平均先物は、4万8千円台半ばで推移している。
自民党の高市総裁は7日に役員人事を決定し、新執行部を発足させる見込みだ。報道によれば、党四役では、幹事長に鈴木俊一総務会長、総務会長に有村治子・元女性活躍相、政調会長に小林鷹之・元経済安全保障相、選挙対策委員長に古屋圭司・元国家公安委員、さらに国会対策委員長には梶山弘志・元経済産業相がそれぞれ内定したとされる。また麻生太郎最高顧問は副総裁に充てられる見込みだ。
また臨時国会での首班指名を見越して、閣僚人事では、官房長官に木原稔・前防衛相を充て、茂木敏充・前幹事長を外相などで入閣させ、小泉進次郎農相も閣内で処遇する方向で調整しているとされる。
党四役では、半数が麻生派となり、副総裁の職とともに麻生派色が非常に強い布陣となる。そのもとで、財政健全化や日本銀行の独立性を尊重する姿勢が強い麻生氏が、高市氏の積極財政と金融緩和継続の姿勢を緩和するかどうかは、金融市場の注目点の一つとなるだろう。
党人事で大きな議論を呼びそうなのが、幹事長代行に、萩生田光一・元政調会長を起用することが検討されている点だ。萩生田氏は、所属していた旧安倍派の政治資金規正法違反事件に関連し、2024年4月に党の役職停止1年の処分を受けた。また今年8月には、同法違反で略式起訴された政策秘書が罰金30万円などの略式命令を受けている。
萩生田氏の起用は、世論の批判のみならず、自民党が連立を組む公明党からの批判を受けるとみられる。
人事に加えて高市氏の喫緊の課題は、野党との連立協議となる。政策が近い野党を連立に取り入れて衆院で過半数を回復できれば、それは首班指名を確実なものとし、さらに、高市氏が掲げる各種政策の実現可能性が高まる。実際そうなれば、円安株高は一段と進むだろう。
連立の相手は国民民主党に絞られてきている。高市総裁の後ろ盾となる麻生氏は、以前より、国民民主党との連立に前向きとされている。高市総裁と国民民主党の玉木代表が5日に東京都内で会談していたことが6日に明らかになった。また麻生氏と国民民主の榛葉幹事長も6日に会談した。
ただし、国民民主党との連立を模索する中で、高市氏にとって大きな課題となってきたのが、自民党が連立を組む公明党との緊張関係だ。高市氏の保守色の強い政策に反発する公明党の一部は、連立解消も検討しているとされる。
国民民主党の玉木代表は6日のテレビ番組で、「そもそも自公(の連立協議)がどうなるのかわからない。そのあたりをよく見定めたい」と語っている。自民党との連立政権入りを巡る協議について、まずは自民、公明両党の動向を見極める考えだ。
自民党は7日の臨時総務会で新たな執行部を発足させた後、同日中に公明党の執行部と会談して、連立政権の継続について協議する見込みだ。しかし、公明党や支持母体の創価学会では保守色の濃い高市早苗新総裁への警戒が強まっており、連立離脱論も浮上している。
公明党の斉藤鉄夫代表は、4日に高市氏と会談した後、記者団に「支持者に大きな不安や懸念がある。解消なくして連立はない」と述べていた。高市氏には具体的に3つの懸念を伝えたという。
第1は、自民党の「政治とカネ」の問題への対応だ。この点から、高市氏が幹事長代行に不記載議員の萩生田光一元政調会長を起用する方針であることを、公明党は懸念しているだろう。
第2は、高市氏が閣僚時代も含めて度々靖国神社を参拝してきたことだ。高市氏は今後の対応を明らかにせず、「適宜適切に対応」と説明している。首相就任後にも参拝すれば改善基調にある中国や韓国との関係が冷え込むことになり、それは公明党が望むところではない。
第3は、高市氏が外国人対策の強化を掲げていることだ。これは、外国人との共生を重視する公明党の理念と相いれない側面がある。
公明党との連立が解消されれば、自民党が国民民主党との連立を成立させても、衆議院で与党は過半数の議席を回復することにはならず、政治の不安定な状況は続く。そもそも、公明党との連立が解消されれば、国民民主党が連立与党入りすることはないだろう。
金融市場は、国民民主党との連立によって、高市総裁が掲げる積極財政と金融緩和継続といった政策の実現可能性が高まるとの期待から、円安・株高が進んできた。しかし、公明党との連立が解消されるとの観測が強まれば、金融市場でそうした期待は後退し、円高株安へと大きな巻き戻しが生じる可能性が高い。
(参考資料) 「自民党四役が内定、半数が麻生派…茂木敏充氏は重要閣僚・小泉進次郎氏も閣内処遇で調整」、2025年10月6日、読売新聞速報ニュース 「公明党・創価学会に連立離脱論 自民党新執行部、協議難航の気配」、2025年10月7日日本経済新聞電子版
木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi)に掲載されたものです。
木内 登英
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