( 330383 )  2025/10/09 04:11:18  
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麻生太郎副総裁(左)と麻生氏の義弟の鈴木俊一幹事長(右)にはさまれた高石早苗新総裁 

 

 自民党の高市早苗新総裁が10月7日に新執行部を発足した。 

 

 高市氏の総裁選出に大きな役割を果たした麻生太郎元首相が副総裁に就任するほか、幹事長は麻生氏の義弟の鈴木俊一前総務会長、総務会長は有村治子元両院議員総会長と、いずれも麻生派から登用。政調会長には総裁選に出馬して決選投票では高市氏を支持した小林鷹之元経済安全保障相(旧二階派)、選対委員長には高市氏の推薦人代表だった古屋圭司元拉致問題相(無派閥)をあてるという、露骨な“論功行賞”人事となった。 

 

 自民党の閣僚経験者A氏が指摘する。 

 

「党人事は高市氏の意向というより、麻生氏が総裁のような人事にしかみえない。鈴木氏は麻生氏の身内で、有村氏も麻生派で高市氏の総裁選推薦人。高市氏は総裁選後に、麻生氏とばかり会談していて操り人形のように見える。まさに表紙を変えただけだ」 

 

 このほか、裏金問題で「更迭」された旧安倍派幹部の萩生田光一元政調会長が幹事長代理として復活することも決まった。 

 

 A氏は、「この先に連立交渉という大きな仕事が待っているので心配だ」と危惧し、スマートフォンのカレンダーを見せてくれた。 

 

■どんどん後ろ倒しになる臨時国会 

 

 当初、首班指名をする臨時国会は10月14日とみられていた。それが総裁選後、15日に延び、さらに17日もしくは20日に後ろ倒しになる可能性もあるという。1999年10月に自民党、自由党と公明党の自自公連立政権が成立して以来、26年間も自民党と歩調を合わせてきた公明党との連立交渉が停滞していることが大きい。 

 

 公明党の斉藤鉄夫代表は、10月4日に高市氏と会談した際、3つの懸念事項を伝えた。旧安倍派などの裏金問題について高市氏が「けじめがついている」としている点、そして、高市氏の靖国神社参拝の姿勢と外国人排斥とも思える政策だ。 

 

 公明党は惨敗した参院選の総括で、自民党の「裏金議員」への推薦を敗因のひとつに挙げており、特に裏金問題への厳しい態度を自民党に求めている。10月7日にも高市氏と会談した斉藤氏は、 

 

「政治とカネの問題に時間を長く割いた」 

「理念の一致があって初めて連立が成立する」 

 

 などと高市氏をけん制している。 

 

 

■「首班指名で斉藤の名前を書くこともある」 

 

 公明党の幹部は、こう話す。 

 

「高市氏の新執行部のラインナップを見ると『公明党との連立は解消しましょう』というようなメッセージに思えてしまう。とりわけ政治とカネの問題が最大のポイントなのに、裏金議員で秘書の有罪が確定している萩生田氏を起用するとはどういうことなんだ? 

 正直、タカ派の高市氏と連立を一緒にやるのは難しいという意見が党内の半数ほどを占めている。連立協議はすぐに答えは出ませんよ。だから臨時国会の日程も決まらないでしょう」 

 

 この幹部はさらに、 

「首班指名で高市氏ではなく、斉藤氏の名前を書くことは十分にあり得ます」 

 とまで口にした。 

 

■「連立相手を国民民主に乗り換えてはどうか」 

 

 一方で、高市氏と急接近しているのが国民民主党だ。 

 

 10月5日、高市氏は国民民主党の玉木雄一郎代表と極秘会談したことが報じられた。連立への参加を求めたとみられる。同日、麻生氏も国民民主党の榛葉賀津也幹事長と会談している。麻生氏と榛葉氏は親しい関係で、岸田政権時代にも国民民主党との連立交渉を話し合ってきたという。 

 

「麻生氏と榛葉氏が先に会って、その後に高市氏と玉木氏の会談が決まったそうだ。麻生氏はもともと公明党との関係が良好とはいえず、かねて連立相手を国民民主党に乗り換えてはどうかという持論を持っている。高市氏も、公明党から注文がつけられ、自身の政治信条を曲げることを嫌がっている。公明党を切って、国民民主党と連立を組みかえる可能性は十分にある。国民民主党には、すでに閣僚ポストも打診しているそうだ」(前出・A氏) 

 

 国民民主党の衆院議員B氏に聞くと、 

 

「玉木氏、榛葉氏ともに連立には乗り気だ。誰が閣僚に入るのかまで検討している。だが、玉木氏は野党がまとまって首班指名で自公に勝てないかという野望もゼロではない」 

 

 と打ち明ける。 

 

 10月7日午前、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党など野党の国対委員長が国会内で会談したが、その席上の雑談で、 

 

「首相指名で(国民民主の)玉木代表の名前をみんなで書いたらどうなんだ」 

 

 という話が出たという。維新の遠藤敬国対委員長が、自分が持ちかけたと報道陣に明かした。国民民主党の古川元久国対委員長は、「代表に伝えておきます」と受けたという。 

 

 しかし、その場の空気は、 

「冷たい感じで、盛り上がらなかった。玉木氏で野党はまとまりません」 

 と参加していた議員の一人はいう。 

 

 

■「公明党なしでは選挙は厳しい」 

 

 衆参ともに少数与党となっている自公政権。公明党は衆院で24議席、参院で21議席。一方、国民民主党は衆院27議席、参院23議席。自公に国民民主党が加わって自公国の3党連立になれば衆参で過半数を超えるが、公明党から国民民主党に連立相手が変わって自国で連立しても、衆参ともに過半数には届かない。 

 

 公明党が抜ければ少数与党に変わりがないのだから、自民党が公明党との連立協議を進めない選択肢は考えにくい。また、長く連立を組んできた公明党は、選挙で自民党に大きく貢献してきた。 

 

 昨年の衆院選で落選した旧安倍派の前衆院議員C氏はこう話す。 

 

「どの小選挙区でも公明党の組織票は2万票ほどあるとされる。公明党が連立から外れて組織票がなくなれば、小選挙区ではますます厳しい戦いになる。公明党なしで解散総選挙になれば、自民党全体でも議席を減らしかねない。高市氏の主義は賛同するが、公明党ともうまく付き合って、そのうえで国民民主党を取り込んで連立してほしいというのが正直なところだ」 

 

 政治評論家の田村重信氏は、自民党内で公明党と一番太いパイプを持つのは菅義偉元首相だとして、こう指摘する。 

 

「自公政権が長く続いているが、連立政権は『自自公』、『自社さ』など3党のほうが安定することは歴史が証明している。自公にプラス国民民主党でやってこそ、高市政権が安定する。菅氏は総裁選では小泉氏についたが、ここは高市氏が菅氏に頭を下げて公明党と連立を続けてもらうよう仲介に入ってもらうべきだろう。麻生氏一辺倒では、政権は立ちゆかなくなるのではないか」 

 

 長年、政権を担った自公政権の枠組みが、高市氏の総裁就任で揺らぎ始めている。 

 

(AERA編集部・今西憲之) 

 

今西憲之 

 

 

 
 

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