( 330728 ) 2025/10/10 05:26:31 0 00 写真はイメージです Photo:PIXTA
「日本人ファースト」に端を発して議論が過熱している外国人労働者の受け入れ問題。日本が海外の移民政策から学べることは多い。ドイツは移民の誘致と同時に、解雇に関する規制緩和など一大改革を行い、経済成長率を高めた。スウェーデンは約500万円を支払う代わりに、社会になじめなかった外国人に帰国を求めている。シンガポールは、「自国にプラスになる外国人」の受け入れを明示。社会に順応できる移民を選別し、慎重に管理する方針だ。日本は外国人をどのように受け入れ、社会と経済の活力アップにつなげるべきだろうか。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
● 現実問題として外国人の力を借りずに 超少子高齢化の日本の経済・社会は回るのか
思い起こせばかなり以前から、わが国で多くの外国人労働者の姿を目にすることがあった。例えば筆者が10年以上前、東京・新橋のそば屋に行ったとき、まだ日本語がおぼつかない外国人が注文を取りに来たことを鮮明に覚えている。そのころから、わが国の人口減少問題が深刻であることを感じていた。
令和の時代に進み、人口減少の問題は一段と深刻さを増している。政府は、企業に70歳までの就業機会を提供する努力義務を課したが、人手不足の解消は一朝一夕にいかない。人口減少・人手不足の問題の解決に、外国人の受け入れに関する議論は待ったなしだ。
1990年代から、海外の労働者や高度人材をどのように受け入れればいいのか議論はあった。ただ、同質性が高いわが国の社会特性上、外国人受け入れ議論の推進は容易ではない。外国人との共生に慣れていない、わが国社会が移民問題を解決することは容易ではないだろう。
一方、少子高齢化の進展で、外国人の力を借りずに経済・社会を円滑に運営することは現実的に難しくなっている。国際社会の中でのわが国の地盤沈下を避けるためにも、移民の受け入れは避けられないだろう。海外の事例に学びながら、わが国独自の解決策を模索することが必要だ。
米国は建国当時から、さまざまなバックグラウンド、価値観を持つ人を受け入れ、成功のチャンスを与えた。第2次世界大戦後のドイツ、スウェーデンなども問題に直面しながら外国人と自国民の統合に取り組んだ。移民に関する政策議論は、今すぐに始める必要がある。長期的な日本の国力に関わる問題だ。
● 日本の人口が8700万人以下になったとき 外国人は900万人弱、約1割に上昇する見込み
日本に限らず、主要先進国の移民・外国人労働者に関する政策は、大きな転換点を迎えている。多くの国で自国民の雇用・所得機会の確保、社会保障を優先すべきとの論調は目立つ。
わが国でも、そうした議論が目立つ。7月の参議院選挙では、「日本人ファースト」を主張した参政党が議席を獲得した。自民党総裁選の討論でも、各候補は「外国人規制の強化」を訴えた。政治家諸氏は国民優先の考えを示すことで自身の支持につなげようとしている。
現状、国の想定を上回るペースで外国人労働者は増えている。法務省によると2024年末時点の在留外国人数は376万人であり、2023年末比で35万人増加、過去最高を記録した。
日本人の労働力不足は深刻であり、今後、外国人受け入れの重要性は高まるとみられる。国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口』によると、2070年の人口は現在より30%ほど減少し、8700万人を下回る。このうち外国人は900万人弱、人口に占める割合は10%ほどになると推計されている。
そうした変化に対応しようと、政府もようやく新たな制度を導入した。これまでの外国人労働者の受け入れは、1993年開始の技能実習制度に準拠していた。本制度は、原則「転職」を認めていない。これに端を発し、劣悪な労働環境に耐えられなかった外国人労働者の失踪が相次いだ。
2027年4月1日から、政府は「育成就労」制度を施行する。基本的には3年間働いた後、技能水準が高い別の在留資格(特定技能)に移行できる。転職も認める。ただし現状、政府は、わが国に居住する外国人を増やす移民政策は打ち出していないことにも留意したい。
欧米では移民への反感が高まっている。「人種のるつぼ」と言われ、移民を受け入れることで経済成長を実現してきた米国では、トランプ政権が移民政策を厳格化した。これにより民間企業の採用や、個人消費にも悪影響が出ている。
欧州では、移民・難民を受け入れることで人口規模を維持してきたフランス、ドイツ、スウェーデンが、近年は政策を修正している。オーストラリアも、留学生の受け入れ上限を設定し移民を抑制し始めている。
● 「ガスト・アルバイター」って? ドイツとスウェーデンの移民政策から学べること
ドイツやスウェーデンの移民政策をたどると、移民や難民と経済成長、社会統合に関して日本も学べるものがある。1950年代、ドイツは第2次世界大戦後の労働力不足を補うため、イタリア、スペイン、ギリシャやトルコから一時的に移民を受け入れた。それは、「ガスト・アルバイター」と呼ばれた。
しかし1973年に第1次オイルショックが発生すると、ドイツ政府は自国民の雇用を優先すべくガスト・アルバイターの帰国を支援した。ところが外国人労働者は、母国より賃金水準が高いドイツでの生活を希望し、家族を呼び寄せたので移民は増加した。
2000年2月、シュレーダー政権(当時)は永住権を与えることで、海外のIT技術者の獲得を重視した。同政権は移民の誘致と同時に、解雇に関する規制緩和と職業訓練や就職あっせん、失業保険給付の短縮を組み合わせる一大改革を行った。こうしてドイツ経済の成長率は高まった。ドイツの人口に占める外国人の割合は、24年末で約16%とみられる。外国人の社会統合に苦戦しつつも、移民大国であることに変わりない。
スウェーデンは一時、世界で最も移民に寛容といわれた。ただし、それは経済合理性よりも、人類としての責任を果たすといった価値観が背景にあっただろう。
第2次世界大戦後、スウェーデンも移民を受け入れることで労働力を増やした。当初は、フィンランドやイタリア、トルコ、バルカン半島諸国から移民を誘致した。第1次オイルショック後は就業目的の移民は抑制し、難民を受け入れる方針に転換した。
1980年、スウェーデン政府は外国人法を改正し、外国人の居住に際して入国前の居住許可取得を義務付けた。89年には難民を庇護する基準を明確化し、居住や労働許可の審査規定も国が整備した。その後、紛争が起きた旧ユーゴスラビア、シリアやソマリアなどから難民を積極的に受け入れ、社会経済との統合を進めた。
スウェーデンの人口約1000万人のうち20%程度が移民、難民、その家族であるといわれている。その後、自国民との融和の難しさが徐々に表面化した。2024年にスウェーデン政府は、約500万円を支払う代わりに社会になじめなかった外国人に帰国を求めた。
● シンガポールは明確方針 「自国にプラスになる外国人」を受け入れる
アジアに目を向けると現在、シンガポールは移民の受け入れを一段と重視している。リー・シェンロン上級相は3月、「シンガポールの生き残りに移民は不可欠」との認識を改めて明示した。自国民の対立など移民政策にはセンシティブな部分があることを認めつつ、社会に順応できる移民を選別し、慎重に管理することが重要であるとの見解を示した。
それと同時に、移民の受け入れを閉ざせば(他の国と同じように)、成長の機会を逸することになると警告も発した。シンガポールは明確に、「自国にプラスになる外国人」を受け入れる方針を示している。今年6月、外国人労働者の増加でシンガポールの人口は過去最高の611万人に増えた。
わが国が、海外の移民政策から学べることは多いはずだ。ドイツの例が示す通り、外国人労働力は、人手不足の解消に有効だ。外国人労働力の取り込みにより、1950年代から70年代の旧西ドイツ経済は「奇跡」と呼ばれるほど復興し、さらに高成長した。高度人材を定着させることで、経済の効率性向上に寄与した。
移民受け入れを経済成長につなげるためには、自国民との共生が欠かせない。移民受け入れの初期段階から、言語、社会規範、そして法令順守に関する教育を徹底し、自国民と公正・公平に扱うことは重要だ。法律を守れないなら厳正に対処することは言うまでもない。
わが国は、移民の定義を明確化し、現実的な受け入れの体制を議論すべきだ。欧米が移民に厳しい姿勢を取り始めた今は、わが国が外国人労働力を受け入れるチャンスでもある。
四方を海に囲まれ、同質性が高い社会のわが国において、外国人受け入れの議論が難しいことは言うまでもない。それは長く指摘されてきた。一方で、わが国の少子高齢化による人口減少と労働力不足は、もう小手先の政策では何も解決できないレベルであることを国民も自覚すべきだろう。
外国人をどのように受け入れ、社会と経済の活力向上につなげるか。本格的な政策議論は待ったなしである。議論を先送りすれば、人口減少の加速を食い止められず、日本という国の力を維持することは困難になるだろう。
真壁昭夫
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