( 124155 )  2023/12/23 11:30:12  
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英国のエコノミスト誌は、11月16日号で「日本経済に転機到来」(A chance to rise again)という記事を掲載しました。この記事では、長期にわたる日本経済の停滞から脱却し、ダイナミズムを取り戻し始めていると分析しています。エコノミスト誌が日本経済を肯定的に評価するのはこれが3度目で、過去には小泉純一郎首相の時と安倍晋三内閣のアベノミクス開始時にも同様の記事がありました。

エコノミスト誌の分析によると、日本経済が変化している原因として「2つの外的ショック」と「2つの内的シフト」が挙げられています。外的ショックとは、物価上昇と地政学リスクが日本経済にプラスに作用していること、内的シフトとはコーポレートガバナンスの改革と世代交代が進んでいることを指します。

しかし、日本経済はまだ不安定な要素も多く、実質GDP成長率や景気ウォッチャー調査の結果などからは景気の足踏みが見られます。政府も月例景気報告で基調判断を下方修正しています。一方で、日銀短観では企業の景況感が改善しており、特に大企業・非製造業の業況判断DIが高い水準にあります。

このような状況の中、日銀のマイナス金利解除のタイミングが注目されています。筆者は当初、2024年4月の金融政策決定会合を予想していましたが、最近の状況を踏まえて2024年1月の会合で政策変更があるかもしれないと考え直しています。

(要約)

( 124156 )  2023/12/23 11:30:32  
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やや旧聞に属するけれども、英国のエコノミスト誌(電子版)11月16日号が「日本経済に転機到来」(A chance to rise again)という記事を掲載した 。長らく停滞が続いてきた日本経済が、ようやくダイナミズムを取り戻しつつあるという分析記事である。

 この記事を見て、官邸内では歓声が上がったという。このところいいニュースがなかっただけに、海外メディアによる日本経済への肯定的な評価がありがた~く感じられたのであろう。とはいえ、岸田文雄内閣の前途はあまりにも多難でありますけどね。

■英エコノミスト誌「日本推奨」は3度目、予防線も

 英エコノミスト誌が日本を推奨する記事を書くのは、これが3度目になる。1度目は2005年10月、小泉純一郎首相が「郵政解散」で大勝利を収め、「これで構造改革が進む」との期待を集めたときだ。

 2度目は2013年5月、安倍晋三内閣がアベノミクスをスタートさせ、対外的に「強い日本」をアピールしたときである。2度とも外資の「日本買い」を呼び、日経平均株価は爆上げとなったものの、最終的には期待外れとなっている。

 「3度目の正直」となる今回は、冒頭で以下のような予防線を張っている。この雑誌の長年の読者としては、「そうだろうなあ」と感じるところである。

 「懐疑論者は、また日本の偽りの夜明けにだまされると言うだろう。1980年代の奇跡は資産バブルの生成に至り、数十年にわたるデフレに陥って幕を閉じた。以後、本誌も含む部外者は、ほぼ10年おきに新首相に好感を持ち、変化の兆しを見つけては『陽はまた昇る』と主張してきた。そのたびに外国人投資家は失望して撤退する。今度は違うのだろうか」(筆者訳)。

 英エコノミスト誌が今回「日本は買い」だと判断したのは、「2つの外的ショックと2つの内的シフト」が原因である。このロジックがちょっと面白い。

■日本は「一世代をかけてようやく変わり始めた」

 「2つの外的ショック」とは、普通であればマイナスとなる物価上昇と地政学リスクが、日本経済に対してはプラスに働いていることを指す。確かに物価は日本銀行の目標である2%を超えていて、「物価と賃金の好循環」が見えてきた。そして経済安全保障を理由に、日本に対する大型投資が始まっている。うまくいけば、「日の丸半導体」が復活するかもしれない。

 そして「2つの内的シフト」とは、コーポレートガバナンス改革と世代交代が進んだことを指している。「ホンマかいな?」と言いたくなるところだが、「今や海外のアクティビストのみならず、日本の機関投資家も企業にROE(自己資本利益率)向上を求めるようになった」とか、「日経平均採用企業CEOの平均年齢は、過去10年で12歳も下がった」などの指摘がある。

 とにかく30年にわたる停滞を経て、文字どおり「一世代」をかけてやっとこの国は変わり始めたぞ、と言ってくれている。「仏の顔も三度まで」というけれども、今度、期待を裏切ったら、さすがに外資は日本を相手にしなくなるだろう。足元では日経平均株価は3万3000円前後まで上昇し、商社株に投資したウォーレン・バフェット氏も大いに儲かっているようだが、日本経済は本当に大丈夫なんだろうか。

10月14日付の当欄に寄稿した「日本経済がちょっといや~な感じになってきた」 で予想したとおり、足元の景気は決して盤石ではないのである。

● 7~9月期の実質GDP成長率は、12月8日公表の2次速報では年率▲2.9%と、1次速報の▲2.1%から下方修正されている。

● 景気ウォッチャー調査は、9月から11月まで3カ月連続で現状判断DIが50を割ったままである。

● 政府は11月の月例景気報告で、基調判断を7カ月ぶりに下方修正した。前月までの「景気は緩やかに回復している」という文章に、「このところ一部に足踏みも見られるが」というただし書きが入った。

 そもそも臨時国会では13兆円規模の補正予算が成立しており、「物価対策」が焦眉の急となっている。1人4万円の定額減税が適切な手法かどうかは疑問が残るが、とにかく景気を下支えして、2024年の春闘で賃上げが続いてもらわないことには、せっかく海外で芽生えた「日本の変化への期待」がしぼんでしまいかねない。

 そんな中で、12月13日に公表された日銀短観では、幅広い業種の景況感の改善を確認することができた。大企業・非製造業の業況判断DIが+30というのは近年では記憶にないような高さであるし、大企業・製造業の+12は3期連続の改善である。

 さらに中小企業・製造業は6ポイント改善の+1となったが、こちらはなんと4年9カ月ぶりのプラス圏である。思うに中小企業の業況判断が改善することは、来年春の「賃上げ」にとって極めて重要な前提条件といえよう。

■企業は経済が名目で成長することの「御利益」を実感

 察するに、家計部門は物価高で縮み志向になっているけれども、企業部門には明るさが見えてきた。どこでそんなギャップが生じるかというと、要は「日本経済が名目で伸びている」ことに由来するのであろう。7~9月期の名目GDPを年率換算すると、実に594兆9984億円となる。なんと「ほぼ600兆円」に達しているのである。安倍政権時代に目標に掲げたものの、すっかり忘れ去られていた数値である。

 おそらく今現在、企業の中にいる人たちは、経済が名目で成長することの「御利益」を実感していることだろう。売り上げは伸びるし、今まで考えられなかった値上げもできる。賃金だって上げていいのである。とにかく経営の自由度が一気に上がる。逆に言えば、物価が上がらなかったこれまでの経済とは、なんと大変であったことだろう。

 他方、名目が伸びる経済においては、企業は資材高騰や金利上昇などに伴う負担増にも備えなければならない。これまで「じっと我慢することで得をしてきた企業」にとっては、今後は試練のときということになる。「物価と賃金の好循環」が定着したあとの日本経済においては、誰もが自律的に行動しなければならないのである。

 逆に家計部門においては、物価上昇による負担が生活を直撃している。何しろわれわれは、「物価が上がる」という現象の不快さを長らく忘れていた。財布の中身がどうこういう以前に、現実の商品の値段と「以前はこれくらいの値段で買えた」という「脳内価格」との落差がいちいちストレスフルとなってしまう。

 しかし、これは「慣れる」しかないのであろう。言い換えれば、われわれは「昔の値段」をどんどん忘れるべきなのである。

 ところが、そんな「新習慣」が定着するまでには、どうしても時間がかかる。この不満は当然のことながら政治に向かう。岸田内閣の支持率低下が問題になっているけれども、そもそも今の先進民主主義国で支持率の高い政権は、ほとんど見当たらない。世界的なインフレが止まらない中で、これは致し方ないことであろう。

 2024年は、文字どおり日本経済がデフレと決別する年となるだろう。その中でも注目点は、「いつ日銀がマイナス金利を解除するか」である。

 筆者は当初、それは2024年4月の金融政策決定会合(25~26日)であろうと考えていた。つまり、日銀としては組織防衛のためにも、「二度とデフレには戻らない」ことを、念には念を入れて確認しなければならない。

 そこでわかりやすいのが、①2024年の春闘で3%台以上の賃上げを確認すること、②2023年10~12月期GDPでデフレギャップがプラスに転じること、の2点である。①は2024年3月を過ぎないと確実ではないし、②が発表されるのは2024年2月15日である。となれば、4月会合となるのが自然な流れである。

■日銀が動くのは「1月の金融政策決定会合」か

 しかるにここへ来て、「ひょっとすると、2024年1月会合(22~23日)で一気にやってしまうのではないか」と考え直しているところだ。以下のような理由からである。

A. 2024年4月まで待っている間に、アメリカで利下げが始まってしまうかもしれない。12月のFOMCで示されたドットチャートでは、前回に比べて利下げ回数の中央値が2回から3回に増えていた。今後、ハト派色がもう一段強くなったら、それこそ「3月利下げ」もありうることになる。その場合、日銀の利上げは非常にやりにくくなってしまう。

B. 12月7日の参議院財政金融委員会で、植田和男総裁は「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と証言している。これは市場に対して政策変更を織り込ませるために、「ヒント」をくれているのではないか。とりあえず、すぐにやってくる12月の金融政策決定会合(18日~19日)で、どんなメッセージが発せられるかに注目しよう。

C. 政界における「パーティー券問題」により、安倍派の重鎮たちが続々と要職を解かれている。この問題は相当に長引き、政界における安倍派の凋落は今後、避けられないものと考えられる。となれば、経済政策の分野では、リフレ派が「応援団」を失うことを意味する。日銀は金融政策の「正常化」に向けて、ほぼフリーハンドを得たのではないか。

 つまり慎重にデフレ脱却を確認している間に、マイナス金利解除のチャンスを逃してしまうかもしれないのだ。それだったら、前倒しもアリではないか。

 と、ここまで書いたところで為替レートを見たら、なんと1ドル=141円まで円高が進んでいる。これまでの円安は「日米金利差の拡大」が原因だったのだから、日米双方でそれが逆流し始めた現在は、円安是正が始まるのは自然な流れといえる。

 為替レートは、「思ったよりも流れは急だよ」と教えてくれているのではないだろうか。

 (本編はここで終了です。このあとは筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)

 ここから先は恒例の競馬コーナーだ。

週末(17日)の朝日杯フューチュリティステークス(G1)は2歳牡馬のチャンピオンを決める芝マイル(1600メートル)戦。もともとこのレースは中山競馬場で行われていたが、2014年から阪神競馬場での施行となった。筆者のように中山を主戦場とする競馬ファンにとっては、やや残念な決定であった。

 その代わりに、年末の中山で新設されたG1レースが、同じく2歳牡馬を対象としたホープフルステークス(28日)で、こちらは芝2000メートルである。

 つまり、2歳牡馬はどっちを目指すかが選択できるようになり、その分、朝日杯FSが薄味になったきらいはある。一昨年の優勝馬であるドウデュースは見事にダービー馬となったけれども、昨年の勝ち馬ドルチェモアは今や「どこでどうしているのよ」状態である。

■朝日FSの本命は「行きたがり」の「あの馬」で勝負! 

 今年はクラシックへの王道たる東京スポーツ杯2歳ステークスの勝ち馬、シュトラウス(8枠17番)を狙ってみたい。ホープフルSではなく朝日杯FSのほうを選択したのは、この馬は気性が荒くて「行きたがり」で、この距離のほうが合っていそうだから。2歳馬ながら堂々たる馬格で、いかにも「マイル王」になりそうに見える。ここは単勝で。

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

 
 

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