( 129642 )  2024/01/17 14:14:35  
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2023年は物価上昇による困難な1年で、賃金が上がらないことについて疑問の声が上がっている。

しかしこの状況は企業の経営改革が必要であり、物価上昇後、利益が増えても賃金に回されるわけではない。

多くの企業はコスト増加を価格に転嫁できず、結果として賃金が上がらない。

多くの場合、物価が上がっても利益率は変わらず、賃金を上げるにはより魅力的な製品やサービスを開発し、価格を引き上げる必要がある。

(要約)

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photo by gettyimages 

 

 2023年は値上げに振り回された1年だったが、相変わらず賃金が物価に追いつかない状況が続いている。物価が上がっているのに、なぜ賃金が上がらないのかという疑問の声を耳にするが、賃金が上がらない理由ははっきりしている。現実から目をそらしていては、いつまで経っても日本人は豊かになれない。 

 

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日経平均は年明けから伸び、一時3万6000円台に突入したが……/photo by gettyimages 

 

 日本の物価は継続的に上昇を続けており、日本経済が、長期にわたって物価が低迷する、いわゆる「デフレ経済」から、物価が上がり続ける「インフレ経済」に転換したのはほぼ確実である。こうした中、物価が上がっているにもかかわらず賃金が上昇しないため、多くの国民の生活が苦しくなっている。 

 

 物価が上がっているのに、なぜ賃金が上がらないのかという悲鳴にも似た声があちこちから聞こえてくるが、現状の日本経済で賃金が上がらないのはある意味で当たり前のことである。 

 

 政府関係者や一部の専門家は、物価が上れば、自然に賃金も上がるかのような説明を行っていたが、そのようなことは基本的にありえない。賃金の上昇を実現するには企業の経営改革が必須要件であり、今の日本企業の経営状況では、そのレベルに至っていないというのが悲しい現実である。 

 

 物価が上がっても、それ以上に賃金が上がらないというメカニズムは、ごく簡単なモデルで説明できる。 

 

 例えば物価上昇率が10%だったとすると、100円だった商品の価格は1年後には110円になっている。一方で、その商品を仕入れたり、開発するために70円のコストがかかっていたのだとすると、コストも同じように10%上がるので、物価上昇後のコストは77円となる。 

 

 価格が100円の場合、当該企業の売上総利益(いわゆる粗利益)は、仕入れコストの70円を差し引いた30円となる。一方、価格上昇後の粗利益は、110円から77円を差し引くので33円になる。 

 

利益の絶対値は3円増えているが、利益率という点では、100円の時も110円の時も同じく30%なので、実質的には何も変わっていない。利益率が上がったわけではないので、多くの経営者は増えた利益の3円分を従業員の賃金には回さない。 単純に物価が上がっただけでは何も変わらないということがお分かりいただけたと思う。このケースでは、状況に変化がないだけマシだが、現実はそうでないことも多い。 

 

 製品やサービスにもよるが、コスト増加分をそのまま価格に転化できる企業はそれほど多くない。たとえば米アップルが提供するiPhoneのように、多くの人が「他の支出を犠牲にしても買いたい」「ないと困る」と考えるような魅力的な商品ならば、企業側は容易に価格を引き上げられるだろう。 

 

 だが、それほど魅力的ではない商品の場合、企業はコスト増加分を価格に十分に転嫁できない。さらに言えば、大手企業の下請け的な仕事をしている中小企業の場合、大手企業が買い叩きなどを行うため、コスト増加分をまったくといってよいほど価格に転嫁できないこともある。 

 

そうなると、先ほどのケースにおいて物価が10%上がっても、価格が据え置かれた場合、価格は100円のままで、コストだけが70円から77円に上がるということが十分にあり得る。このままでは利益が減ってしまうため、企業の中には従業員の賃金を減らすところさえ出てくる。 ストレートに言ってしまえば、一部を除いて日本企業の多くは、こうした状況に陥っており、物価が上がっても賃金を上げることができない。逆に言えば、賃金を上げるためには、企業がより魅力的な製品やサービスを開発し、物価上昇分以上に価格を引き上げる必要がある。 

 

 

 
 

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