( 130289 )  2024/01/19 13:08:52  
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週刊文春による性行為強要疑惑報道を受けて、松本人志氏が芸能活動の休止を発表し、吉本興業とホリプロコムの初期対応について考察された。

企業は危機管理において、事実確認を怠らず適切に対応すべきであり、条件反射的に"事実無根"を主張することは避けるべきと述べられた。

また、議論のテーマを明確にして、建設的な意見交換を行うことが重要であるとも指摘された。

(要約)

( 130291 )  2024/01/19 13:08:52  
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(写真:metamorworks/PIXTA) 

 

 ダウンタウン・松本人志氏が、『週刊文春』による性行為強要疑惑報道を受けて芸能活動の休止を発表し、波紋が広がっています。今回の件から企業が学ぶべき点について考えてみましょう。 

 

■「事実は一切ない」とは?  

 

 まず、企業は「危機管理」のあり方、とりわけ初期のクライシスコミュニケーションを見直す必要がありそうです。 

 

 今回、松本氏が所属する吉本興業は、『週刊文春』が発売された12月27日、「当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです」と記事を強く否定しました。 

 

 ただ、「一切ない」というのが「女性と会ったという事実がない」のか、「会ったが、性的関係を持ったという事実がない」のか、「性的関係を持ったが、強要したという事実がない」のか、まったく不明。そのためマスメディアやSNSなどでさまざまな臆測を呼びました。 

 

 また、松本氏に女性を紹介したとされるスピードワゴン・小沢一敬氏が所属するホリプロコムは1月13日、小沢の活動自粛を発表しました。ついその4日前の9日に「小沢の行動には何ら恥じる点がない」として活動継続を発表したばかりで、ネット掲示板やSNSでは「やっぱり恥じる点があったのね」という臆測を呼んでいます。 

 

 もちろん、臆測はあくまで臆測です。しかし、コンプライアンスを重視するCMスポンサー企業は、松本氏・小沢氏を番組に起用することに難色を示しました。現実に大損害を被ることになった今回の吉本興業・ホリプロコムの初期対応は、不適切だったと言わざるをえません。 

 

 一般の企業でも、経営者や従業員の不祥事が報道されることがあります。そのとき、今回の吉本興業やホリプロコムのように、即座に「事実無根」と強く否定するケースをよく見受けます。 

 

 これは、どういう心理、どういう事情によるものでしょうか。大きく次の3つが考えられます。 

 

 ① 社内調査を行った結果、事実無根だと判明した 

 

 ② まだ事実確認をしたわけではないが、「わが社の従業員がそんな不誠実なことをするはずがない」と確信した 

 

 ③ 不祥事の事実が確認されたが、「どうせバレないだろう」と判断した 

 

■条件反射的に「事実無根」とするのは危険 

 

 このうち①の場合、「事実無根だ!」とアピールしたいところですが、多数の従業員が社外の時間も含めて不祥事が「まったくない」と言い切るのは、かなり困難です。調査結果を公表し、「疑念を招かないように今後は注意したい」とするくらいが穏当でしょう。 

 

 

 日本企業は従業員を大切にするので、②が多いかもしれません。ただ、誠実な従業員でも、魔が差すことはあります。経営者が従業員を信じるのは大切ですが、危機管理は性悪説に立つべきです。「早急に事実確認し、〇週間をメドに調査結果を公表します」とするのが適切でしょう。 

 

 ご法度なのが、③です。以前なら、社内の出来事はあまり表沙汰になりませんでしたが、いまは社内のあることもないこともSNSに晒されます。「どうせバレないだろう」と考えて傷口を広げるのが、最悪のシナリオです。誠意を持って謝罪し、今後の対策を約束するのが妥当です。 

 

 もちろん、今回の吉本興業・ホリプロコムが3つのどれに該当するかは現時点ではわかりません。ただ、いかなる場合でも、条件反射的に「事実無根」と表明するのは、クライシスコミュニケーションとして不適切なのです。 

 

 今回の件は芸能界で起きたことですが、一般企業においても他人事として片づけられることではありません。 

 

 #Me Too運動が盛り上がりを見せたように、性被害に遭っても声を上げられず、泣き寝入りしている女性が多いと言われます。一方、痴漢やセクハラの冤罪事件が後を絶たず、多くの男性も「女性に訴えられたらその時点でアウト」と怯えています。男女関係なく、多くの国民にとって今回の件は切実な問題です。 

 

 企業でも、セクハラやパワハラの告発に対し、「ちっちゃなことでガタガタ言うな」「昔と比べたら随分とマシ」といまだに取り合わないことがあります。事態を放置し、さらに傷口が広がってしまうことも珍しくありません。 

 

 声が上がったら、自分の価値基準で「くだらない」と切り捨てるのではなく、まず相手の話に耳を傾けるようにしたいものです。 

 

■争点を明確にして議論する 

 

 また、相手の訴えを聞いて議論のテーマとして取り上げても、感情的な主張の言いっぱなしではいけません。争点を明確にし、建設的な意見交換をし、問題を解決する必要があります。 

 

 

 今回の件を例に取ると、もし松本氏が女性を相手取って、「同意があったのに、強要されたと嘘をついている」と訴えるなら、性加害の有無が最大の争点です。 

 

 しかし、松本氏は、女性ではなく『週刊文春』を訴えるようです。『週刊文春』は「性加害を告発している女性がいる」と記事で紹介しているので、争点になるのは「『週刊文春』が女性からの告発を捏造したのか」「(性加害がなかった場合)女性の告発が虚偽だと知りながら記事で取り上げたのか」の2つになるでしょう。 

 

 現在ネット掲示板やSNSでは、「松本氏による性被害があったのか?」という点を巡っていろいろな意見が飛び交っていますが、争点としてはピントがずれていると言えます。 

 

 企業でも、本筋から離れたこと、重要性が低いこと、解決不可能なことを延々と議論し続けたりします。議論の途中で、「いま議論していることは、本当に大切な争点なのか?」と振り返るようにしたいものです。 

 

 今回の件をきっかけに、日本企業の危機管理のあり方や議論の進め方が大きくレベルアップすることを期待しましょう。 

 

日沖 健 :経営コンサルタント 

 

 

 
 

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