( 130339 )  2024/01/19 14:04:12  
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バイクのエンジンをかける際に、バッテリーが弱っていたり、パーキングランプを点灯し続けてバッテリーが上がってしまった場合、セルモーターが十分な力で回らずエンジンがかからないことがあります。

このような状況で押しがけを試みることがありますが、近年のFI(燃料噴射装置)仕様のバイクでは押しがけが通用しない場合が多いです。

昔のレーシングバイクや市販バイクはバッテリーを搭載しておらず、エンジンをかけた後は発電機で必要な電力を得ていましたが、近年のFI仕様のバイクは多くの電子部品を使用しており、バッテリーが弱るとエンジンがかからないことがあります。

そのため、FI仕様のバイクで押しがけによってエンジンをかけることはかなり困難であり、車種によっても異なるため注意が必要です。

(要約)

( 130341 )  2024/01/19 14:04:12  
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 バイクのエンジンをかける際に、バッテリーが弱っていたり、パーキングランプを点けっぱなしでバッテリーが上がってしまい、スターターボタンを押してもセルモーターが力なく“ギュッ…、ギュッ…”と回るだけでエンジンがかからない……。そんな経験は無いでしょうか? それがツーリング先のサービスエリアや駐車場などで起きると、周りにいる先輩ライダーから「押しがけでエンジンをかければ良い」と言われることがあります。 

 

【画像】「えっ…!」これが「押しがけ」でエンジンがかかる仕組みです!画像を見る!(9枚) 

 

昔のロードレースの「押しがけスタート」の様子(1965年/日本GPの125ccクラス)。世界GPでは1986年まで「押しがけスタート」だった 

 

 そもそも「押しがけ」とは、だいぶ昔のロードレースで見られた「押しがけスタート」が由来です。昔のレーシングマシンは、軽量化のためにスターターモーターもキックアームも装備していませんでした。そこでスタート位置に並んだライダーは、エンジンがかかっていないマシンの横に立ち、スタートの合図でマシンをグイグイと押して走り、勢いがついたところでポンッと飛び乗ってエンジンをかけ、そのまま加速してレースが始まる、という具合です。 

 

 エンジンのかけ方を詳しく説明すると、スタートの前にはギアを1速か2速に入れておき、クラッチレバーを握って待機します。そしてスタートの合図で、クラッチを切ったままマシンを押して走り、ある程度勢いがついたらクラッチレバーを離してポンッとクラッチを繋げます(同時にシートに飛び乗る)。 

 

 すると後輪がトランスミッションを介してエンジンのクランクシャフトを回すため、これがスターターモーターやキックスターターと同じ役目をしてエンジンを始動することができる、という仕組みです。 

 

 しかしエンジン始動に失敗したライダーやマシンに後続車が突っ込むような事故も多く、世界GPでの「押しがけスタート」は1986年が最後で、その後はエンジンをかけた状態から発進する「クラッチスタート」に変更されました。 

 

 前置きが長くなりましたが、そんなワケで、前述したようなバッテリー上がりでセルモーターが回らずエンジンをかけられない場合は「押しがけ」が有効……と言いたいところですが、じつは近年のFI(Fuel Injection=電子制御式燃料噴射装置)仕様のバイクだと、押しがけが通用しないパターンの方が多いです。 

 

 

昔のレーシングバイクは、バッテリーも搭載していなかった。写真はヤマハの市販レーサー「TZ250」(1977年型)で、セルモーターもキックアームも非装備のため、エンジン始動は「押しがけ」のみだった 

 

 まず、昔のレーシングマシンはバッテリーを搭載していませんでした。なぜなら電気が必要なのは点火プラグに火花を飛ばすことだけなので、エンジンさえかかってしまえば、あとはエンジンが駆動する発電機が生み出す電気で走ることができたからです。 

 

 そして昔の市販バイクも、バイクが走るために必要な電気は基本的に点火プラグだけで、他にヘッドライトやウインカー等の灯火類も電気が必要ですが、これもエンジンがかかって発電機が動けばまかなうことができました。 

 

 要するに、もっとも電気が必要なのはエンジンをかけるためにスターターモーターを回すことなので、バッテリーが上がった時は「押しがけ」でエンジンさえかけてしまえば良かったワケです。 

 

 バイクは1980年代中頃から、燃料供給の方法がキャブレターからFIへ、徐々に移行しました。BMWやドゥカティ等の欧州車が早期からFIを採用し始め、日本車は1990年代後半からFIに切り替わって行きました。 

 

日本メーカーのバイクは、ほとんどが2000年代中頃までにFI(電子制御式燃料噴射装置)仕様になった。写真のホンダ「CB400 SUPER FOUR」は、同シリーズで最初にFI仕様になった2007年末発売の[NC42型] 

 

 キャブレターは、基本的に重力や物理現象だけで稼働するため電気を必要としませんでしたが、FIはそうはいきません。ガソリンを圧送する電磁ポンプや、噴射するための電気式のインジェクター、そして噴射量をコントロールするためのECU(エンジン・コントロール・ユニット=コンピューターの一種)、他にも様々なセンサー類が必要で、これらのすべてが電気で動いています。 

 

 そのためバッテリーが弱ったことで、これらの電気・電子パーツが動かなくなってしまうと燃料が供給されないため、セルモーターの代りにライダーがどんなに頑張ってバイクを押しても、エンジンはかかりません。 

 

 もし自分の愛車が近年のFI仕様なら、バッテリーが弱ってセルモーターが回らないときに「押しがけしなよ」と言われたら、試すのは結構ですが、エンジンがかかる可能性はかなり低いと考えた方が良いでしょう。 

 

 反対に、ちょっと旧いキャブレター車なら頑張る価値はあります。 

 

 

2000年代初頭までの多くのバイクはキャブレター仕様のため「押しがけ」でエンジンがかけられる車輛が多かった。写真の2006年に発売されたホンダ「CB400 SUPER FOUR」は、同モデルのキャブレター仕様としては最終型となる[NC39型] 

 

 それでは、FI仕様のバイクは、もしバッテリーが元気な状態なら押しがけが可能なのでしょうか……? 答えは「車種による」です。 

 

 FI仕様車の多くは「クランクシャフトが規定の回転数以上でないとエンジンを始動しない」という機能を備えています。これは、バイクが搭載する発電機はクランクシャフトで回しており、ある程度の回転数以上でないと正規の発電量を得られないため、ECU等の電子部品に悪影響を与える、ということで、破損や誤動作等のトラブルを回避するための機能です。 

 

 セルモーターを使えば十分な回転数でクランクを回せますが、ライダーがかなり頑張ってバイクを押して走っても、大抵の場合は既定のクランク回転数に達しないのでエンジンがかからない、ということになります(長くて急な下り坂を使えば可能かもしれないが、危険なので推奨はできない)。 

 

 これらの機能やエンジン始動の条件はメーカーや車種によって異なるので一概には言えませんが、やはりFI仕様のバイクで押しがけするのは、かなり困難と考えた方が良いでしょう。 

 

伊藤康司 

 

 

 
 

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