( 130531 ) 2024/01/20 00:16:44 0 00 レゴランドをめぐる炎上騒動、いったいどこに問題の本質はあるのでしょうか?(写真:東洋経済オンライン編集部)
名古屋のテーマパーク、レゴランドに関して炎上問題が起き、物議を醸している。
これはレゴランド入場の際に不当な扱いを受けたとする来場者のX(旧Twitter)への投稿に対し、運営会社レゴランド・ジャパンの社長自ら、DM(ダイレクトメッセージ)を送信。その後、自身が送ったDMのスクリーンショットを一般に公開したというもの。
【画像】今回炎上したレゴランド・ジャパンの公式アカウント。トップが発信すること自体は問題とは言えなかったが
一連の経緯とその返答内容、またスクリーンショットが公開されたことがSNSで拡散され、大きな批判を浴びる結果となってしまった。
なぜ、このようなことになってしまったのだろうか? 初動対応と、経営トップの情報発信のあり方から考えてみたい。
■「ピンチをチャンスに変える」機会はあったのに……
今回のレゴランドのケースは、チケット売り場のスタッフが年間パスポートでの来場者に対し、子ども用のチケットで入場したとして差額の支払いを求めたこと。さらに過去にも子ども用チケットで入場したことを疑った、というのが事の発端である。
家族連れで訪れていたという来場者をその場で長時間待たせた末、スタッフの間違いであることが分かったものの、説明や謝罪はなかったという。
これら一連の詳細な経緯とともに、「チケット売り場で詐欺師扱いされたうえにろくな謝罪ももらえず」と来場者がXで嘆きを発信していた。
現場スタッフに不誠実と受け取られる対応があったことは、たしかに問題である。ただ、顧客サービスと不正防止のジレンマを抱えながら、多くの顧客を相手にして、こうしたトラブルの発生をゼロにすることは、実際は困難である。だからこそ、トラブルが起きた後の対応を適切に行うことが極めて重要になる。
SNSで炎上が起こった際に、炎上を収める(あるいは収まる)ことを、専門家の間で「鎮火する」と呼ぶことがある。
火事と同様に、ネットでの炎上も広がる前に鎮火することができれば、こうした「有事」におけるダメージを最小に収めることができる。一方、自社の利益を守ろうという意識が先行するなどして、余計な“燃料”をくべてしまったりすると、大いに燃え広がってしまう。今回のレゴランドのケースは後者と言える。
■「偉い人」が迅速に前に出たこと自体は悪くない
そもそも今回は、顧客に対して経営トップである社長自らが直接向き合い、迅速に対応を行っているが、それ自体についてはなんら批判されることではない。むしろ評価ができるといっていい。
現場で問題が発生した際に、「偉い人」が前に出てきて対応することで、問題が収まることは非常に多い。筆者自身も、若手の頃にミスを犯して取引先や他部署の担当者を怒らせてしまうことが何度かあったが、先輩や上司が間に入って説明や謝罪をすることで、事態を穏便に収めることができた。
経験やノウハウによって適切な対応ができるのはもちろんだが、相手側に「偉い人が出てきて真摯に丁寧に対応してくれているのだから……」という心証を与えることができる点が大きい。
SNSを起点とする炎上の多くは下記のプロセスで起こる。
1. SNSで批判が発生する 2. 批判がSNS上で拡散する 3. ネットメディア・まとめサイト・インフルエンサーなどが取り上げる 4. マスメディアで報道される 5. SNS上でさらに炎上する
1、2の段階で「鎮火」できれば、炎上に至らず、大きな問題とされることもない。レゴランドのケースは、まさにこの段階で社長自ら対応を行ったわけだから、鎮火できるチャンスは十分にあったと言えるだろう。うまくやれば、「神対応」として称賛される可能性さえあったかもしれない。
では、何が悪かったのだろうか?
■批判されるに至った2つのポイント
レゴランド・ジャパン社長の対応で批判されているポイントは下記の2点である。
1. DMのメッセージの内容が謝罪として不適切なものであったこと
2. DMのメッセージのスクリーンショットを公開したこと(現在は削除)
筆者としては、1よりも2の影響のほうが大きかったように思う。
社長からのメッセージ内容(現在は削除されて公開されていないが)に関しては、「問題提起、ありがとうございます」といった書き出しが不快だと物議を醸したりしたが、言葉尻をとらえたような批判も多いように感じた。
ただし本来、このメッセージは当事者間のもので、その内容の是非については、当該の来場者の方が判断すべきものだった。要するに、すべては「相手がどう感じるか」次第であるということだ。それを一般にも公開することで、第三者の論評が入り込む結果となってしまった。
もちろん、メッセージを公開した背景には、企業側の対応姿勢を示したいといったことや、社長がX上でコメントしていたように「自分が送った内容をクリアにしたい」という意図もあったと思う。しかし、情報発信をすることで、これまで知らなかった人たちに対しても問題が起きていることを知らしめてしまうリスクもある。
SNSの普及により、個人の情報発信力は強くなったが、それでも大企業や経営者のほうが発信力は強い。その非対称性は十分に理解しておく必要がある。
批判が起きた際、あるいは今後批判が起きることが想定される事象が発生した際に、「何らかの情報発信をしたいのだけど」といった相談を受けることがある。どのタイミングで、どのやり方で、どういう情報を発信すればよいのか? については、高度な判断が求められる。
リスク発生の初期段階では、情報が拡散してしまう可能性を鑑みて「いまのタイミングでは何も発信しないほうがよいです」と助言することも多い。「何もしない」ということではなく、事件への対応を迅速に行って鎮火させることを優先するということだ。
松本人志氏の性加害疑惑に関して書いた前の記事で、松本氏がSNSへの投稿を行うのは望ましくないということを書いたのも、同じ理由からだ。
■広報のプロでない経営者が発信するリスク
最後に言っておきたいことは、経営者自らが情報発信を行うことは、諸刃の剣であるということだ。近年、経営者がステークホルダーに対してメッセージを送り届けることが重視されるようになっている。経営者個人がSNSアカウントを開設して情報発信を行っているケースも目立つようになっている。
うまく行っている例もあるが、今回のレゴランドのケースのように、批判を浴びたり、炎上してしまったりするケースも散見される。
経営者は経営のプロである必要があるが、広報のプロである必要は必ずしもない。できるに越したことはないが、十分にできなければ経営面に専念したほうがよい場合も多い。
アメリカでは、トランプ元大統領や起業家のイーロン・マスク氏のSNSへの投稿が時に物議を醸し、時には社会的混乱さえ招いている。誰でも情報発信できる時代であるからこそ、社会的影響力のある存在ほど、情報発信のリスクも十分に理解しておくべきであると思う。
西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
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