( 130972 )  2024/01/21 13:50:40  
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『ピクミン』シリーズの人気が再燃している。

その背景には、企業努力と「応援したくなる」要素がある。

ゲームソフトの売り上げとしては不振だったが、再販のグミやアプリ、広告展開などで認知度が向上し、最新作が大ヒットした。

『ピクミン』とも共通する「応援したくなる」要素が、現代の日本人に通底する傾向となっている。

併せて、『すみっコぐらし』や『ちいかわ』なども同様の要素を持ち、令和の人々に愛されている。

このような要素が、現代の日本人に魅力的に映るのだろう。

(要約)

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『ピクミン』ブームが再来。なぜ令和の今になって?(写真はイメージです) Photo:PIXTA 

 

 シリーズ初のミリオンセラーとなった『ピクミン4』。4作目の大ブレイクの背景は企業努力の賜物に他ならない一方、昨今の「ちいかわ」ブームにも共通する「応援したくなる」要素に起因するのではないか。令和に生きる現代日本人に通底する、ある傾向を考えよう。(フリーライター 武藤弘樹) 

 

● 売り切れ続出の再販売グミ ピクミンがブレイクに至るまで 

 

 ゲーム『ピクミン』のキャラのキーホルダーが入ったグミ「ピクミン マスコット&フルーツグミ」(バンダイ キャンディ)、通称「ピクミングミ」は、昨年8月の発売以降人気で品薄となっていたが、1月15日に再販売され、またも早速全国各地で売り切れが続出した。当日Xのトレンドワードに「ピクミングミ」がランクインするほどであった。 

 

 今年いよいよガツンと来たピクミン人気だが、ゲームキューブでシリーズ1作目が発売された2001年はCMソングだけは大流行したものの、ゲームソフト自体の売れ行きやピクミンというキャラの浸透具合は芳しくなかったようだ。 

 

 最新作『ピクミン4』は2023年7月に発売されシリーズ初のミリオンセラーとなったが、ようやく果たしたこのブレイクの背景には、ピクミンをゲーム外で認知させるべく動いた任天堂の企業努力の他、今大人気の『すみっコぐらし』や『ちいかわ』、少し遡れば『鬼滅の刃』にも共通する、そして令和に生きる現代日本人に通底する、ある傾向がうかがえるように思えてならないのである。このことについて、もう少し詳しく解説していきたい。 

 

 ピクミンは大きさが「プチトマトぐらい」(公式より)の、頭に植物を生やした二足歩行の生物である。ゲーム内ではプレーヤーの指示に従って物を運んだり、橋を作ったり、自分より大きな原生生物に群がって倒したりする。生命力は高くなく、油断するとすぐ死んでしまう。また、笛を吹かれれば整列するなど、知能が高く従順な一面ものぞかせる。 

 

 

 ピクミンのCMソングについては、ちょっとここには権利関係の問題で書かない方が無難ゆえ、詳しくは割愛させてもらうが、ピクミンのよく働くけど時に捕食されることもある悲哀が歌われていて、これが歯車的な滅私奉公を当たり前のように要求されてきた当時のサラリーマン像に重なる部分があって、広い世代から支持された。 

 

 ゲーム内容は一風変わっていて、ピクミンに物を回収させるのが目的である。ささいな謎を解きながらマップを隅々まで探索し未知と出会っていく冒険のワクワクがまずあって、それらを効率よく進めていこうとすると(ゲーム内では「ダンドリ」と呼ばれる)、頭を使ったさらに刺激的なアクションゲームとなる。 

 

● 「なぜ面白いのに売れないか?」 任天堂が心血を注いだ認知向上策 

 

 任天堂公式サイトの開発秘話によると、ピクミンシリーズ1作目でプロデューサーを務め、ピクミンの開発に携わってきた宮本茂氏(マリオシリーズやゼルダの伝説シリーズの生みの親でもある)は、ピクミンシリーズの1~3について「なぜこんなに面白いのに売れないのか」と悩み、チームで検討と試行錯誤を重ねて、幅広い層に楽しんでもらえる『ピクミン4』のゲーム性が完成したそうである。 

 

 https://www.nintendo.co.jp/interview/ampya/02.html 

 

 任天堂がピクミンシリーズの開発と並行して取り組んできたのが、ピクミンというキャラの認知向上である。2014年にWii Uで有料配信された短編アニメでは、我々の日常の中にピクミンが描かれた。また、2021年にリリースされたスマホアプリ『Pikmin Bloom』では、AR(拡張現実)技術を用いつつ「歩くとピクミンが育つ」というシンプルかつ平和なゲーム性がウケて、女性を中心とした新たなファン層を開拓した。 

 

 また、最近ではオリジナルグッズやコラボ商品、広告展開がさかんに行われている。筆者が電車に乗った際、モニター広告でピクミンの短いクイズ動画が流れているのを発見して「ピクミンが有名になった」と感慨深かったのだが、あれは「ピクミンを有名にするための任天堂の施策」のひとつだったようである。 

 

 あくまで筆者の感想だが、ピクミンはとにかくグッズが素晴らしく、ピクミン自身のかわいさもさることながらデザインに北欧風テイストが取り入れられるなどして洒落ている。筆者はピクミンの一輪挿しの花瓶がものすごく欲しかったのだが、うちでは花を飾る習慣がないため自重し、リビングに壁掛け時計を導入することでいったん落ち着いていた。なお、ピクミングッズに関しては筆者より妻の方により深く刺さっている印象である。 

 

 

 身の回りでも、ピクミンが流行っているのを強く感じる。娘の保育園のクラスでは「ピクミンごっこ」というのが行われるらしいし、先日すれ違った小学生男子はピクミンについて熱っぽく話していたし、娘がスーパーにオッチン(ピクミンに登場する宇宙犬)のぬいぐるみ(当時品薄で若干プレミアがついていた)を持っていったら、推定5~10歳の男子数人がオッチンに大興奮して殺到する一幕もあった。 

 

 かくしてピクミンは人気を博し、大人から子どもにまで愛されるコンテンツとなったのである。 

 

● ピクミン・すみっコ・ちいかわに 共通する「ある魅力」とは 

 

 ピクミンのかわいさを言葉で正確に説明するのは難しいが、その「かわいさ」の中に「はかなさ」や「健気さ」の要素が強く含まれていることは間違いない。何しろ一匹一匹は非力で弱いのに、なんでも言うことを聞くし一生懸命なのである。 

 

 長らく大ヒット中の『すみっコぐらし』は成人女性にも愛されているが、低年齢層での席巻ぶりが顕著で、いまや小学生女子の間では「私はすみっコ関連グッズを〇個持っている」というマウントに用いられるまでの存在となった(らしい)。特徴的なのは、キャラたちが皆それぞれひっそりと陰の部分を備えている点である。たとえば「しろくま」は寒がりで、「あったかいお茶をすみっこでのんでるときがおちつく」という設定である。 

 

 Twitter(現X)発、現在大人気真っ只中で、日本キャラクター大賞2022年のグランプリを獲得した『ちいかわ』は、ちいかわたち主要キャラが過ごす日常を描写したものである。主人公の「ちいかわ」は優しい、臆病、泣き虫、口下手といった性格で、思わず寄り添って応援したくなるようなキャラである。 

 

 この「応援したくなる」要素を、すみっコ、ちいかわ、ピクミンは共通して有している。そしてこれが、令和に見られる特徴的な傾向であるように思われる。 

 

 筆者が子どもの頃、女子の間で人気のキャラと言えば、もっぱらサンリオやディズニーで、とにかく「かわいいもの」が順当に人気を集めていた印象がある。やがてサンエックスが台頭し、1998年に登場したたれぱんだ、2003年のリラックマでは、どこか抜けたところのあるかわいさが人気を集め、その系譜を引き継いだ2012年のすみっコぐらしでは、さらにそこに「応援したくなる」要素が追加された。 

 

 

 ストレートなものがウケていた傾向は、どうやら少年マンガにもある。『ドラゴンボール』の連載は1984~1995年(昭和59~平成7年)で、『ONE PIECE』の連載開始が1997年(平成9年)である。悟空やルフィなどの少年マンガの王道主人公は、信念を貫くために苦境を乗り越えながら戦っていく超人的な強さと精神性に、主人公としての魅力とカリスマが宿っていた。 

 

 一方、社会現象になったことが記憶に新しい『鬼滅の刃』は連載が2016~2020年(平成28~令和2年)、テレビアニメ第一期の放送が2019年(平成31/令和元年)である。こちらの主人公の炭治郎は、王道マンガらしくきちんと超人的な強さと精神性を備えていた。ただし悟空やルフィが、見る人にリングの中で戦う超人を応援するような構えを取らせていたのに対し、炭治郎は思わず寄り添い同じ目線で手を取って応援したくなるようなはかなさをも備えていた。 

 

 炭治郎に見るこの「強くまっすぐ」一辺倒でない主人公像は、何も『鬼滅の刃』発祥というわけでもないだろうが、時代の傾向を占うにあたって、ひとつの目印になるであろう。たとえばアニメ化も好評だった『チェンソーマン』(連載は2019~2021年、および2022年~)の主人公デンジは、炭治郎とはまったくベクトルが異なるが、「思わず寄り添って応援したくなる」要素を痛烈に備えている 

 

● 令和の人々が心奪われる 「応援したくなるキャラ」 

 

 思えば、ファンが誰かを応援することを表す「追っかけ」という言葉は、近年では「推し活」「推し事」という言葉に取って代わられた。SNSで情報の間口が広がったこと、で大小いたる所でおびただしい数の推し活が行われるようになった。 

 

 発信者・表現者の活動を成立させるのは彼らを推しているファンであり、ファンが自身の喜びを「何かを推す行為」に見出す姿は、ピクミンやすみっコなどの「思わず応援したくなるキャラ」が人気を集める傾向と符合している。つまり、令和の人たちはどうやら「応援する」のが好きなようなのである。 

 

 なお、ピクミンは元から体長数センチという設定なので、キーホルダーなどのグッズ化と非常に相性がいい。「推し」を全力で推したい令和のファンを前にして、ピクミングミが即日売り切れ続出となるのは、どうやら必然だったようである。 

 

武藤弘樹 

 

 

 
 

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