( 131294 )  2024/01/22 13:45:23  
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JR東日本千葉支社が2024年3月のダイヤ改正で京葉線の通勤快速を廃止し、快速の運転もデータイムのみにしたことが波紋を呼んでいる。

通勤快速は主要駅のみに停車する列車で、かつては特急や急行の役割だったが、私鉄との競合に対抗するために新快速・特別快速・通勤快速といった複数の列車種別が生まれた経緯がある。

通勤快速は内房線・外房線の沿線住民を取り込むために設定されたが、最近は利用者の減少や各駅停車の混雑が問題視され、廃止されることになった。

(要約)

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JR京葉線 

 

■ 「快速」という列車種別が編み出された経緯 

 

 鉄道のダイヤ改正は通勤・通学といった生活環境を大きく左右する出来事だが、普段は注目されることが少ない。ところが、昨年12月にJR東日本千葉支社が発表したダイヤ改正が大きな波紋を呼び、テレビ・新聞・ネットなど各種メディアでも盛んに取り上げられている。 

 

【写真】JR東日本千葉支社に京葉線ダイヤの再検討を要請した千葉市の神谷俊一市長 

 

 JR東日本千葉支社は2024年3月に実施予定のダイヤ改正において、京葉線で運行していた通勤快速を廃止し、同時に快速の運転もデータイムのみにするとした。 

 

 京葉線は東京駅―蘇我駅間を結ぶ約43.0kmの路線のほか、市川塩浜駅―西船橋駅間の支線が約5.9km、同じく西船橋駅―南船橋駅間の支線が約5.4kmという路線。今回、大きな注目を集めた通勤快速は東京駅―蘇我駅間を走る列車で、内房線・外房線にも直通する。 

 

 東京方面へと向かう京葉線の通勤快速は、蘇我駅を出発すると次の停車駅は新木場駅となる。幕張新都心が駅前に広がる海浜幕張駅や2000年代後半からタワーマンションが多く建つ新浦安駅、ディズニーリゾートの玄関駅となっている舞浜駅には停車しない。文字通り多くの駅をすっ飛ばす通勤快速は、かなり大胆な停車駅設定だといえる。 

 

 従来、こうした主要駅のみに停車するのは特急や急行といった列車の役割だった。旧国鉄で特急や急行に乗車するには、運賃のほかに特急料金もしくは急行料金と呼ばれる乗車料金を必要とした。そして、JRでも特急・急行料金は引き継がれた。 

 

 東京・名古屋・大阪・福岡といった都市圏では、JRと私鉄が競合している区間は少なくない。JRが特急・急行料金を課せば、割安な私鉄に利用者が流れてしまう。そこで、並行する私鉄から利用客を奪うための手段として、特急・急行料金を必要としない「快速」という列車種別が編み出される。 

 

 1987年にJRが発足すると、国鉄の赤字体質を改善することが求められた。特に大都市圏を抱えるJR東日本・東海・西日本は収益改善への期待が大きかった。3社は収入を増やすための取り組みとして、通勤圏の拡大に力を入れることになる。なぜなら、通勤圏を拡大させれば鉄道需要は必然的に増大するからだ。 

 

 こうしてJR各社は通勤圏を拡大するべく、運賃のみで乗車できる快速列車を増やしていく。しかも、単なる快速ではなく新快速・特別快速・通勤快速といった具合に多くの種類が生み出された。そこまでJRが通勤圏の拡大に力を入れたのも、通勤客は安定的な需要が見込めることが大きい。 

 

 

■ 「通勤快速」で内房線・外房線の沿線住民も取り込もうとした 

 

 新快速・特別快速・通勤快速など多くの主要駅を通過する列車は、大幅に所要時間を短縮できるため、遠距離通勤も可能になった。 

 

 京葉線は1990年に東京駅まで延伸して全通。それと同時に、朝夕に運行される通勤快速が誕生する。このときに誕生した通勤快速は、内房線・外房線とも直通するダイヤが組まれていた。つまり、JR東日本は京葉線を東京駅まで延伸開業した際に、内房線・外房線の沿線を通勤圏と見なし、その沿線住民を取り込もうとしていたのである。 

 

 1990年はバブル景気が崩壊した直後にあたるが、当時の日本はまだバブルの余韻から覚めていなかった。ゆえに東京近郊の不動産価格が高止まりし、一般の会社員では東京23区はおろか、東京寄りの千葉県内でもマイホームは高嶺の花になっていた。 

 

 このタイミングで登場した京葉線の通勤快速は、まさに内房線・外房線沿線を東京のベッドタウンにさせる威力を持っていたと言っていい。 

 

 JR東日本は1995年に葛西臨海公園駅と海浜幕張駅の2駅に追越設備を新設。これが新設されたことによって、データイムの快速は所要時間を2分、通勤快速は7分も短縮。さらに朝の時間帯に内房線・外房線から京葉線へと直通する通勤快速を一本増発している。 

 

 追越設備の新設は、翌1996年にも夜間帯に快速を2本増発するという効果を発揮した。2004年には外房線から京葉線へと直通する快速を朝に一本増発し、2006年にも快速を増発した。 

 

 快速や通勤快速を増やすことで通勤圏が拡大し、こうした状況を追い風にして千葉県や千葉市、さらには内房線・外房線の自治体が移住促進の旗を振る。 

 

 JRにとっても、遠方の利用者は運賃をたくさん払う上客でもあった。それが増収につながっていくわけだが、実はこうした通勤圏の拡大は京葉線だけに起こった現象ではない。 

 

 

■ 「千葉は遠い」というイメージを植え付けかねない事態 

 

 京葉線が開業した1990年、JR東日本管内では東海道本線・東北本線(宇都宮線)・高崎線でもダイヤ改正が実施されている。それらの路線でも快速・通勤快速による通勤圏の拡大が図られた。 

 

 東海道本線では、朝の時間帯に東京方面へと向かう快速アクティーを一本増発。夕方の時間帯には小田原方面へと走る快速アクティー4本の停車駅が見直され、川崎駅と横浜駅を通過する通勤快速の運行を開始している。 

 

 東北本線と高崎線では国鉄時代から快速スイフトや快速タウンが運行されていた。1990年のダイヤ改正で、スイフト・タウン両快速を通勤快速へと名称変更。それと同時に運転本数を大幅に増やしている。 

 

 こうした経緯を見ると、JR東日本が取り組んでいた通勤圏拡大戦略は千葉県のみならず神奈川県・埼玉県にも及んでいる。しかし、東海道本線・東北本線・高崎線の通勤快速は2021年3月のダイヤ改正で廃止された。 

 

 京葉線よりも早く姿を消した東海道本線・東北本線・高崎線の通勤快速だが、沿線自治体からの強い反発もなく、それほど世間から注目を集めることはなかった。その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大によって出社を必要としないリモートワークが推奨されたことが挙げられる。 

 

 だが、コロナ禍が収束して利用客が戻りつつある2024年は、2021年と利用状況が大きく異なる。東海道本線・東北本線・高崎線の通勤快速廃止と京葉線の通勤快速廃止を同列に論じることはできない。 

 

 また、東海道本線・東北本線・高崎線の沿線は中途半端に東京から離れるよりも、大胆に東京から遠い場所へと移住することが可能という交通事情もある。それぞれ東海道新幹線・東北新幹線・上越新幹線といった新幹線が走っており、昨今では新幹線通勤も珍しくなくなっている。 

 

 そうした東京に隣接する3県の中で、千葉県だけ新幹線が走っていないため、在来線に頼るしかない。京葉線には特急列車も運行されているが、こちらも通勤快速と同様に利用率は低い。 

 

 今回のダイヤ改正では通勤快速ばかりがクローズアップされているが、特急列車も短編成化される。これらダイヤ改正によって、千葉と東京を結ぶ京葉線の利便性が低下することは確実だろう。いずれにしても通勤快速は千葉から東京へと通勤する手段としてシンボル的な存在だったと言っていい。 

 

 そうしたシンボルを失えば、「千葉は遠い」というイメージを植え付けてしまいかねず、企業を遠ざける効果を生む。また、内房線・外房線の沿線に住宅購入を検討している勤労者世帯も離れていきかねない。 

 

 

■ タワマンが建ち並ぶ京葉線沿線、なぜ各駅停車を重視する方針に転換したのか 

 

 京葉線の通勤快速廃止のダイヤ改正について、千葉県の熊谷俊人知事や千葉市の神谷俊一市長は相次いでJR東日本千葉支社に反発。2023年12月28日には神谷市長が、今年1月4日には熊谷知事がそれぞれJR東日本千葉支社長と面談をしている。 

 

 県知事と市長が通勤快速の廃止撤回を訴えた背景には、「千葉は遠い」というイメージを払拭したいという思惑があったことは間違いない。また、京葉線の通勤快速を前提に移住してきた世帯もあり、そうした人たちに対して配慮を見せたともいえる。 

 

 JR東日本千葉支社はダイヤ改正によって通勤快速を廃止した目的を、「利用者を平準化させることで混雑を緩和させる」と説明した。この説明は「コロナ禍が収束して利用者が回復基調にあるとは言っても、通勤快速の利用者数は想定よりも戻っていない」ことを意味している。 

 

 その一方で、各駅停車の混雑は激しい。その理由は、2000年代後半から東京圏で都心回帰の動きが強まっていることが挙げられる。前述したように、新浦安駅でタワマンが増えているのは、東京に近く、それでいてマンション価格は都内よりも手頃になっているからだ。 

 

 最近は京葉線の沿線全体でタワマンが増える兆しを見せている。それらを踏まえると、海浜幕張駅・新浦安駅・南船橋駅・舞浜駅などに停車する快速も混雑の要因になっていた。JR東日本千葉支社は、朝夕の快速も各駅停車へと変更し、データイムのみの運行とした。これも混雑を平準化させる手段といえるが、今回の騒動を大きくした一因にもなっている。 

 

 通勤快速は通勤圏を拡大させて売り上げを増やすという意図があったものの、日本全体が人口減少という局面になっている現在、むしろ通勤圏を拡大させる集客戦略は非効率になっている。こうした計算のもと、JR東日本千葉支社は効率よく稼げる都心部にリソースを集中させるべく、各駅停車を重視する方針へと転換したと思われる。 

 

 だが、蘇我駅以東に住んで東京へと通勤していた人にとって、通勤快速の廃止は生活を大きく変える一大事でもある。通勤快速が廃止されると、通勤時間は10分以上も増えることになる。朝の10分が貴重な時間であることは否定しようがなく、大きく生活が乱されてしまう人も出てくるだろう。 

 

 行政は市民生活を守る責務を負っている。ゆえに、千葉県や千葉市をはじめ沿線自治体が通勤快速の廃止に反対を表明するのは当然の話でもある。 

 

 

 
 

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