( 131893 ) 2024/01/24 12:25:49 0 00 災害時の生理用品の必要性の理解はなかなか進まない。画像はイメージ(GettyImages)
被災地で生理用品はぜいたく品――。近年、災害が起きるたびに一部の男性から上がる、生理用ナプキンの支援を軽視する声。今回の能登半島地震でも、すでにSNS上などで散見される。だが実際、避難所で生理になった女性たちは想像以上の困難に見舞われ、人知れず対処してきた。東日本大震災で被災した女性たちにインタビュー調査をした、国際医療福祉大学・保健医療学部の及川裕子教授に「災害と生理」の実情を語ってもらった。
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女性にとって生理のケアがいかに切実な問題か。「メッセージを発しなければならない」と取材に応じてくれた及川教授は、まずは看護学の視点から、健康面のリスクを挙げた。
「男性の尿道が約20センチあるのに対し、女性は4センチほど。男性に比べてぼうこうに細菌が侵入しやすいため、下着を替えられなかったり、同じナプキンを当てっぱなしにしたりすれば、ぼうこう炎になる可能性があります」
だが、このような医学的な知見がなかったとしても、生理についての基本的な知識があれば、「生理用品はぜいたく品」などとは言えないはずだ。
月に一度のペースで訪れる生理は、3~7日間にわたって出血が続き、期間中に使うナプキンの枚数は平均で20~25枚ほど。一般的に月経開始から3日目までは経血の量が多く、2~3時間程度でナプキンが血でぐっしょりとぬれ、吸水量の限界を迎えることもある。授業中や会議中などで、どうしてもこまめにナプキンを替えられず、経血が漏れて下着や服を汚していないか冷や汗をかく経験は、女性にとっては“あるある”だ。
■「落ちていたら拾ってきてほしい」
「思春期の男の子だと、夢精をして下着を汚すことがありますが、精液の量と経血の量はケタ違い。ナプキンが手に入らないがゆえに、血でドロドロに汚れた下着を履き続けるなんて、あまりに残酷です」(及川教授)
及川教授は2014年、「避難所におけるウィメンズヘルスの課題」の調査のため、東日本大震災で被災した女性10人にインタビューを行った。
その結果、「誰でもいいからナプキンをわけてもらおうと、浸水をまぬがれた民家に行って助けを求めた」「街を見回りに行く男性陣に『ナプキンが落ちていたら拾ってきてほしい』とお願いした」など、なんとしてもナプキンを確保しようとする切実な姿が浮き彫りになったという。
一方、「助けを求めに行った民家は、おばあさんしか住んでいなかった」といった理由から、ナプキンを手に入れられなかった女性たちは、ティッシュペーパーやトイレットペーパーでなんとか対処していた。
だが、ナプキンのような防水性のビニールシートはついていないため、経血が漏れるリスクは格段に高まる。実際、避難所には血で汚れた服を着ている若い女性もおり、その姿にいたたまれなくなった周りの女性たちが、近隣の民家を訪ねて着替えをもらいに行ってあげたそうだ。
■女性避難者は「冗談じゃない!」
さらには、ナプキンの用意があったにもかかわらず、女性たちが困り果てていた避難所もあった。
物資を配るメンバーが男性で、ナプキンをもらいに行くこと自体が大きなハードルになっていたのだ。しかも、勇気を振り絞ってもらいに行ったところ、「1人2個ずつね」と言われたという。
「その男性は『全員に配れなくなったら不公平だ』と思ったのでしょうが、2個なんてもらったところで、どうしようもない。ナプキンは、生理中もしくは生理が近い女性に配ればいいことも、生理になると何枚くらいのナプキンが必要なのかも知らなかったのでしょうね。避難所を運営する中心メンバーに女性が一人でもいれば、こんなやり方にはならないはずだし、そもそも男性が女性の体のことを何も知らないというのは問題だと思います」(及川教授)
その避難所では、女性避難者たちが「冗談じゃない!」と声を上げた結果、トイレにナプキンを置いて、必要な人が適宜使えるスタイルになったという。
避難所での女性たちの苦痛を少しでも減らすためには、日頃からトイレットペーパーと同様にナプキンもストックしておくことが欠かせない。だが及川教授によると、生理の問題以外にも、「更衣室がなくて着替えに苦労する」「トイレが男女共用なので、男性の目が気になって行きづらい」など、軽視できない「女性ならではの悩み」があるという。
■女性としての尊厳を守りたい
「ある避難所で、中学生の女の子たちが走るなどの激しい動きをなるべくしないように生活していたという報告を聞いたことがあります。その理由は『ブラジャーがないので胸の動きが目立ってしまうから』でした。体のフォルムが隠れるダボっとした服を着てやり過ごしていた彼女たちは、支援物資でユニクロのブラトップが届くと喜んで身につけて、今までどおり活発に動き回るようになったそうです」
ほかにも、長い間髪を洗えず脂でベタベタになっているのが嫌で、みんなで冷たい川に入って洗ったといった体験談もあり、及川教授は「女性としての尊厳を守りたいという欲求はそれだけ切実だ」と話す。
発災直後は、水や医療など命に直結する支援が最優先されるべきだろう。だが事態が徐々に落ち着くとともに、避難生活が長期化してくると、命の次は尊厳を考えるフェーズがやって来る。ナプキンすら用意のない避難所では、女性たちの“人間らしい生活”を守ることなど到底できない。
(AERA dot.編集部・大谷百合絵)
大谷百合絵
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