( 132250 ) 2024/01/25 12:27:13 0 00 Photo:PIXTA
クルマの「ウインカー」は、車線変更などを周囲に伝える重要な機器です。ですが、その使い方がずさんになっているドライバーが多くいます。ウインカーの使い方が後続車に不快な印象を与えたせいで「あおり運転」の被害に遭う場合もあります。もちろん「あおり運転」は許されない行為ですが、周囲に配慮してお互いに気持ちよく運転するためには、ウインカーの活用法を見直すことも重要です。(モータージャーナリスト 諸星陽一)
【画像】「あおり運転」を避けるにはドラレコも重要だ
● 重要だけれど軽視されがちな 「ウインカー」の使い方
クルマを運転する際に、ウインカーはとても重要な役割を担っています。にもかかわらず、きちんとした使われ方をされていないのもまた事実です。
そもそも、ウインカーの役割は何でしょうか? クルマは他の交通に対して、方向転換などの意思を速やかに伝えるのが難しい乗り物です。そこでドライバーは、ウインカーを使って「私は左に車線変更しますよ」「私は右に曲がりますよ」といった意思表示をする必要があるのです。
事故を防ぐには、その意思表示が相手に正確に伝わることが大切です。そのための条件として、法規では「車線変更する3秒前」「右左折する30m手前」でのウインカー作動が義務付けられています。
ところが、このウインカーがきちんと使われていない光景をよく見かけます。クルマで走っているときに、皆さんも確認してみてください。前方を走るクルマが法規を守り、ウインカーを点滅させてから3秒後に車線変更するケースは意外とまれです。車線変更の直前に一瞬だけ点滅させ、すぐに消してしまうドライバーが多数派になっています。
それどころか、「クルマが動き始めた後」にウインカーを作動させる人もしばしば見かけます。後続車のドライバーからすると、急な車線変更に驚かされないためには、よく観察して「前の車が動きそうだな…」と予測しなければなりません。
こうした事態を防ぐには、ドライバーが余裕を持ってウインカーを作動させれば済む話のように思えますが、ここで気になることがあります。「ウインカーを作動させてから、すぐに車線変更をしないとジャマされる」という悩みを、筆者は時々耳にするのです。
● 車線変更時に 「あおられない」コツとは?
高速道路などで車線変更をする際、移りたい車線を高速で走っているクルマがあるとします。あなたが車線を移ろうとしてウインカーを出し、ハンドルを操作すると、そうした車が「割り込ませてなるものか」と車間距離を詰めてくる場合があります。
ですが筆者の経験上、そのまま3秒以上ウインカーを作動させていると、相手も冷静になって拒むことをやめます。車間距離を詰められても尻込みせず、法規に従ってウインカーを作動させてから車線を変更し、そのままステアリングを「直進」のままにして進むと、多くの場合はスムーズに合流できます。
その証拠に、筆者はウインカーを作動させてから3秒後に車線変更することを基本としていますが、ジャマされた経験はほとんどありません。
もとより、移りたい車線をあらかじめ確認し、加速してくるクルマがないか注意しておくと、車間距離に悩む必要もありません。車線変更をスムーズに行うには、他の交通の流れを妨げないことが最も大切です。
他のクルマが多い状況下でどうしても車線変更する必要があり、3秒以上ウインカーを作動させても車間距離を詰められる場合は、そのクルマをやり過ごして後ろに入ればいいでしょう。無理な車線変更はすべきではなく、余裕を持って車線変更するのがベストです。
高速道路ではなく「下道」であれば、車線変更にこだわらずに混雑した道路を避け、ぐるっと回り道するのも手です。その方が、かえって安全かつスムーズに目的地にたどり着ける場合もあります。
ウインカーの使い方を誤った、強引な車線変更は「あおり運転」の被害に遭うきっかけになります。車線変更を「する側」は「急いでいるので仕方ない」などと思いがちですが、車線変更を「される側」は「割り込まれた」とマイナスに捉える恐れがあるため注意が必要です。
なお、しっかり法規を守り、周囲に配慮した上で車線変更をすれば、基本的には後続車に「お礼」をする必要はないというのが筆者の考えです。
車線変更をしたときや合流をしたときなどに、ハザードランプを点滅させる「サンキューハザード」という慣習がまん延しています。ですが、ハザードランプは本来そういう使い方をする装置ではありません。
ハザードランプとは、やむを得ず路上で駐停車するときなどに、後続のドライバーに「前方に危険がある」ということを伝えるために使うものです。その合図が、別の意味を持つのは危険です。
「車線変更のお礼」と「緊急事態の警告」のどちらなのか非常に紛らわしく、事故のリスクになりかねないので、間違ってもサンキューハザードは行うべきではないでしょう。
(参考記事:本連載第1回 車線変更時の「サンキューハザード」は百害あって一利なし!「反社へのみかじめ料と同じ」と識者が批判するワケ)
● 「ワンタッチウインカー」は便利だが 点滅時間に課題も
ウインカーに話を戻すと、最近は多くのクルマに「ワンタッチウインカー」という装置が採用されています。ウインカーレバーを軽く操作すると、3~5回ウインカーが点滅してから自動的に消えるというものです。
手動でウインカーを消す手間が省ける代物ですが、場合によっては「混み合っている道路で、ウインカーを作動させてから3秒以上たった後に車線変更する」「車線変更が完了してからウインカーを停止させる」といった、周囲に配慮した運転ができません。点滅している時間が短過ぎるのです。
日本車にワンタッチウインカーが付いたのがどれくらい前か記憶が定かではないのですが、欧州車にのみ装着されている時期があり、しばらくすると日本車にも採用が進んだと認識しています。
もし日本車の各メーカーが「外国車に付いていて人気だから、ウチのクルマにも採用しよう」といった軽い動機で採用したのであれば、あまり褒められた戦略ではないように思えます。
最近はクルマの進歩が著しく、「自動車線変更」の機能を持つモデルも増えています。ワンタッチウインカーを操作するだけで車線変更モードに入るクルマも多くあります。確かに便利な機能ですが、ここでもウインカーの点滅時間の短さは気になります。各メーカーには先進的な自動運転技術だけでなく、点滅時間という安全運転の基本にも配慮してもらいたいところです。
● 右左折の際も 周囲に配慮したウインカー操作は必須
さて、本稿では主に車線変更時のウインカー操作について解説してきましたが、もちろん「右左折」の際も周囲への配慮が欠かせません。
冒頭に述べた通り、右左折の際は「曲がりたい地点の30m手前」からウインカーを作動させることが法規で定められています。しかし、これが難しいのが現実です。路地が入り組んでおり、10mごとに曲がり角がある場合などは、そもそも法規通りに合図を出せません。
だからといって、曲がる直前までウインカーを作動させないというのは、これまた困った行為です。大切なのは後続車との意思疎通。とりあえず点滅させればいいというわけではないのです。
さらに気を付けたいのは、多くの人が利用する大きな交差点に加えて、その手前にも小さな交差点がある場合です。小さな交差点の手前で突然ウインカーを作動させると、後続車のドライバーは「もう一つ先の大きな交差点」を曲がるものだと勘違いしかねません。後続車が十分な車間距離を確保できず、右左折時に接触するリスクが伴います。
こうしたことを避けるには、小さな交差点に差し掛かる前から、ゆとりを持ってウインカーを点滅させておくべきなのは自明です。それに加えて、早めにブレーキをチョンチョンと踏んでブレーキランプを小まめに点灯させ、「減速しますよ」という意思を事前に知らせることも有効です。
いずれにせよ、どのような場合でも直前でウインカーを作動させるのは厳禁。「ある程度手前から意思表示する」という、“たった一つのルール”を守ることが大切です。
諸星陽一
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