( 132328 )  2024/01/25 14:03:13  
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防衛予算増に伴い、2023年度に日本が「カールグスタフM3」と呼ばれる無反動砲を大量に購入した。

この装備はスウェーデンのサーブ社が開発し、陸上自衛隊が2012年に採用したものである。

M3の調達には一連の混乱があり、2017年度から5年間も調達されていなかった。

しかし、2023年度には325門を急に購入し、その背景には防衛予算の増額がある。

さらに、M3からM4への調達計画が急転換され、混乱があった可能性が指摘されている。

同様の混乱は他の装備の調達でも見られ、装備庁と陸幕の能力不足と責任意識の欠如が明らかになっている。

(要約)

( 132330 )  2024/01/25 14:03:13  
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防衛予算増により、国が2023年度に大人買いした無反動砲「カールグスタフM3」(写真:陸上自衛隊) 

 

 防衛装備庁と自衛隊、とくに陸上自衛隊は装備調達がずさんである。その典型例が、スウェーデンのサーブ社が開発する口径84mmの無反動砲「カールグスタフM3」の調達だ。 

 

【写真】豊和工業がライセンス生産していた84mm無反動砲「カールグスタフM2」 

 

 無反動砲とは、発射の際に発生する爆風を後方に噴出させて、砲身の後退を軽減するようにつくられた火砲。小型軽量で、主に装甲車両や陣地などの攻撃に使用される。また照明弾を打ち上げるためにも多用されている。 

 

■陸幕は継続調達が不明なM3を選択 

 

 陸上自衛隊は豊和工業がライセンス生産していたカールグスタフM2の後継として、その後開発されたM3を2012年度に採用した。M3は輸入調達となったが、輸入となったのは調達数が国内生産すると非現実的なコストになるからだろう。輸入は住商エアロシステムが担当している。 

 

 実は2014年にサーブ社はさらに次の世代のM4を発表していた。陸自が採用した2012年以前からM4の開発はすでにアナウンスされていた。M4の生産が開始されればM3の生産は終了となる。 

 

 数年待てば新型が調達できるのに、陸上幕僚監部(陸幕)はあえて生産終了直前に旧式化し、継続調達が可能かどうか不明なM3を選択したのだ。 

 

 M3の重量は約10キロだがM4はそれより3.4キロも軽い。近年、歩兵の個人装備の過重化が問題となっており、3.4キロの差は大変大きい。全長は950ミリでM3よりも115ミリ短い。安全装置が追加され、弾薬を装填したたま安全に携行することが可能である。 

 

 M4は火器管制装置が装備でき、電子信管をセットすることによって、敵の頭上で弾頭を空中炸裂させるプログラム機能も有している。性能には歴然とした差がある。 

 

 そしてM3の調達も混迷した。2014年度から2022年度まで61門、年に平均10門に満たない。これは軍隊の調達数とは言えないほど少ない。しかも2017年度から5年間は調達されなかった。 

 

 陸幕はほかの装備の調達を優先したというが、もうすぐ生産が終わろうという装備の調達を5年間も停止したのだ。 

 

 

■防衛予算増で325門を大人買い 

 

【カールグスタフM3の調達推移】 

2012年度 3門 0.3億円  

 2013年度 17門 2億円  

 2014年度 24門 3億円  

 2015年度 6門 0.6億円  

 2016年度 3門 0.3億円  

 2017年度 0門 0円 

 2018年度 0門 0円 

 2019年度 0門 0円 

 2020年度 0門 0円 

 2021年度 0門 0円 

 2022年度 8門 1.1億円  

 

 2023年度 325門 35億円  

 5年間の調達停止の後、2022年度の調達はこれまたわずか8門である。ところが、翌2023年度は急に325門を大人買いした。これは岸田内閣が防衛力整備計画で予算を大幅に増やしたからこそ可能となった。 

 

 防衛費は2022年度当初予算と比べて26%増、1兆4192億円増額され6兆7880億円となった。これがなければ従来通り、せいぜい年に10門程度の調達になっていただろう。そうであればサーブ社は今年でM3の生産ラインを閉じていただろう。 

 

 陸幕は岸田内閣の防衛費増大によって、生産終了寸前の「旧式」装備をわざわざ大人買いしたことになる。毎年少数しか調達しない、まして5年間も調達を停止するほど優先順位が低いのであれば、M4の生産開始を数年待っても何の問題もなかったはずだ。 

 

 関係者へ取材したところ、サーブ社はM3のラインを閉じてM4の生産に専念したかったとみられる。メーカーとしては当然だろう。ところが陸幕から懇願されてM3ラインの廃止を先延ばしにしたもようだ。 

 

 すでにアメリカ軍やオーストラリア軍などはM4に調達を切り替えている。ラトビアとエストニアは共同で2022年にサーブ社へM4を発注し、2021~ 2024年にかけて納入される。時代は電気機関車に移っているのに蒸気機関車を調達するようなものだ。 

 

■急転換した調達計画 

 

 だが、防衛省は昨年末になってこうした調達計画を急に転換した。 

 

 2024年度の防衛予算概算要求ではM3が要求されていたが、2023年12月に閣議決定された防衛予算政府案で、調達をM3からM4に変更したことを筆者の質問で認めたのだ。来年度はM4導入のため調査費1.2億円に加えて、M4が174門と火器管制装置が19億円で調達されることとなった。 

 

 

 本来なら調査をしてから翌年以降に調達が決定されるのだが、調査と調達を同時に行うのは極めて異例であり、これは何らかの混乱があったからだろう。陸幕に対して内部部局から圧力があったと筆者は聞いている。 

 

 今後、部隊では2種類のカールグスタフが混在することになり、訓練や兵站は二重になり非効率だ。しかもM4で使用する空中炸裂弾はM3では使用できない。 

 

 このようなずさんな装備調達を行っているのはカールグスタフの例だけではない。 

 

 対戦車ヘリAH-1Sも同様だ。アメリカ陸軍が1984年から新型のAH-64Aを導入しているのに、その2年前からすでに旧式化しているAH-1Sのライセンス生産による調達を始めている。しかも調達単価はアメリカ軍の5~6倍も高かった。 

 

 その後継の戦闘ヘリAH-64Dも同じだ。アメリカのボーイング社がラインを閉じる寸前に採用を決定し、富士重工(現スバル)が国内生産した。アメリカ軍が調達をすでに終え、近い将来ボーイング社が調達を中止することがわかっていた。 

 

■数千億円規模の調達が「口約束」で行われていた 

 

 それでも予定の62機を一括して発注すればボーイング社のラインは維持されただろう。だがこれもずさんな調達計画で漫然と単年度でしか発注せず、生産は中止された。結果、AH-64Dは調達予定数62機に対し、わずか13機(2002~2007年度)で調達が打ち切られた。 

 

 このとき、すでに62機を生産する予定でライセンス料やライン構築の費用などを払っていたスバルはそれを最後の3機に乗せて払ってくれと防衛省に請求したが、そんな契約はないと防衛省側が突っぱねて訴訟となり国は敗訴している。 

 

 数千億円規模の調達が、実は事実上計画がなく、まともな契約も結ばれずに「口約束」で行われていたのだ。普通の軍隊は調達数、調達期間(戦力化)、総額を明示し、議会で予算を承認されてメーカーと契約を結ぶが、いまだに防衛省はこの普通の契約ができない。これは極めて異常だ。 

 

 これらのことから装備庁と陸幕には装備調達の当事者意識と能力が欠けていることは明らかだ。このような無責任な体制のまま、防衛費をGDP比2%まで上げて、はたして国民の理解を得られるのだろうか。 

 

清谷 信一 :軍事ジャーナリスト 

 

 

 
 

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