( 132667 )  2024/01/26 14:20:13  
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2023年12月22日、群馬県のローカルテレビ局、群馬テレビの代表取締役社長であった武井和夫氏が突然解職された。

解職の動議は会議中に唐突に上がり、武井氏にとっても予期せぬ出来事だった。

労働組合は、人事異動や外注削減による現場社員の負担を問題視しており、武井氏はこれについてコメントした。

武井氏は人事異動に関しては、社員の能力向上のためと説明し、外注の削減による負担増についても否定している。

また、解職決議を受け止めておらず、会社を生き残らせるために尽力してきたと述べている。

今後については、11年間の在任中、自らが残業時間の削減や給与の引き上げなどに取り組んできたことを強調し、生き残れる会社を目指し続けたと語っている。

(要約)

( 132669 )  2024/01/26 14:20:13  
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解職された群馬テレビの武井前社長は「一瞬の出来事で、全然理解できなかった。私の在職中に働きやすい環境は作れたと思っている。社員に負担をかけるようなことはしていない」と語った(記者撮影) 

 

2023年12月22日、群馬県のローカルテレビ局、群馬テレビの代表取締役社長であった武井和夫氏が取締役会で解職された(詳細な経緯はこちら)。 

 

【写真で見る】高崎市内で取材に応じた武井前社長。3時間近くにわたり、自身の経営に対する思いなどを語った 

 

労働組合などの証言によれば、度重なる人事異動や制作会社などへの外注削減に加え、「ニュースなんか流さなくてよい」などの問題発言により、現場社員の疲弊や不満が限界に達していたとされる。 

一連の施策や発言の裏にどのような意図があったのか。解職後の武井氏本人を直撃した。 

 

■解職は「一瞬の出来事だった」 

 

 ――昨年12月22日の取締役会で、群馬テレビの代表取締役社長を解職されました。解職の動議について事前に知らされていましたか。 

 

 知らされていない。12月15日の役員会では、解職に関する動議の話は上がっていなかった。 

 

 ――その1週間後の取締役会で突然、議題に上がったと。当日の会議はどのように進められたのでしょう。 

 

 会議が始まって、最初に中川(伸一郎)専務取締役が中間期決算について説明した。その後、私が話をするつもりだった。自分で文案を作り、常勤監査役にも事前に見てもらっていた。当然、労働争議の件も含めて準備をしていた。 

 

 ところが決算の報告が終わると、隣にいた中川専務がサッと手を挙げて。「代表取締役社長の武井和夫氏。社内で労働争議を引き起こした。頻繁に人事異動をして社内が混乱しています」というようなことを言った。 

 

 それで「緊急動議をします」と言ったら、前に座っていた外部の取締役がみんな「賛成」って言うわけ。私は何が起こっているのか、全然理解ができなかった。 

 

 その後は「武井社長は利害関係者なので部屋から出てください」と言われて、出されちゃった。しばらくして「戻ってくれ」と言われ戻ると、向かいにいた群馬県副知事が「次期代表取締役社長に中川専務を推薦します」と言いだした。そしたらみんなが「賛成」って。一瞬の出来事だった。 

 

 ――何かコメントする機会はなかったのですか。 

 

 なかった。それで「取締役会を閉会します」と言ってすぐに終わった。事前に監査役に見せていた内容も話せなかった。後で確認してみたら、会議はたった16分で閉会した。 

 

 ――解職の決議をどう受け止めましたか。 

 

 普通は、代表取締役を解職するのであればそれなりの理由があるはず。社長がどうしようもないということであれば、第三者委員会を設けてきちんと議論をするべきだ。第三者に入ってもらい、それでも(社長を辞めさせないと)どうしようもないという結論ならば、納得できる。 

 

 

 あまりに突然すぎた。これまで一生懸命やってきたのに、解職の理由があれだとね……。 

 

 ――労働組合は、武井社長による頻繁な人事異動(過去3年間で計25回、延べ122人)が現場の負荷になっていたと主張していました。 

 

 人事異動が頻繁だというけども、その中には昇格も多く含まれている。 

 

 そのうえで、私の考えでは若い社員は1つの仕事をおよそ2年で覚える。2年経った時点で、違う仕事を当然やってもらうことになる。そうしないと社員の能力は上がらない。何でもできるような社員を作っていくことは、企業が生き残るために必要だ。 

 

■アナウンサーだけやっていたら回らない 

 

 ――組合によると、事前の相談もなく異動させられたケースもあったそうですが。 

 

 そんなことはない。人事異動は私の一存ではできない。実際に決めるのは私だが、その人がどんな能力を持っていて、どのくらい仕事ができるのか、すべて担当のセクションに聞いている。 

 

 異動は会社の業績を上げるためでしかない。会社の中には、日によって非常に忙しいセクションもあればそうでないセクションもある。複数の仕事ができる社員であれば、そのときだけ忙しいところに移ってもらうこともできる。 

 

 ――組合員の中には、アナウンサーとして採用されたものの、営業局に異動させられたという社員もいます。どのような考えがあったのですか。 

 

 アナウンサーはテレビの画面に出ているので、お客さんは皆知っている。どこに行っても会ってくれる。その意味で、アナウンサーに営業をやってもらうことは理にかなっている。 

 

 NHKさんのアナウンサーは、アナウンサーしかやっていないかもしれない。だけどうちはアナウンサーだけやってもらっていたら、とてもじゃないが業務が回らない。そのことは入社の時に伝えてあり、当然みんな分かっている。 

 

 ――制作会社などへの外注を削減し、過度な内製化を進めたことが、社員の負担増になっていたという声もあります。 

 

 そんなことはない。私が社長に就任した当時は、月の残業時間が100時間超えの社員がかなりいた。 

 

 だからうちは残業を減らそうということで、組合と36協定を結んで残業の上限を月45時間に決めた。人事異動をやったのは、そのための体制を作る目的もあった。 

 

 毎月の残業時間については、役員会で全部チェックしている。例えば月45時間を超えたなら、その原因を調べて是正させていた。今は以前より残業が減っている。 

 

 

 ――組合によれば、武井さんから「(金銭で)協力しない市町村は取材に行く必要はない」などの発言もあったといい、報道機関としての責任も問われています。 

 

 そんなことは言っていない。なんで(組合は)そんなことを言うかな。 

 

 事業の再構築のためにニュース番組の時間を短縮したのは事実だ。お昼の番組を1時間から30分にして、20時からの番組も15分縮めた。結果的に、これまで1日10本のニュースを入れられていたものが6本になった。 

 

 群馬テレビは民間のテレビ局なのだから、ある程度利益を出す必要がある。ニュース番組は経費が約3億円で、収入が1億円しかない。単純計算では2億円の赤字だ。 

 

 組合は「県内のニュースについてはどんどん取材に行くべきだ」と言っていたが、社長として大幅な赤字が出ているところをそのままにしておくわけにはいかない。 

 

 ニュース番組で1回の取材にかかる費用を計算すると10万円になる。取材するニュースの価値も含めて考えていかないと、当然テレビ局としての経営は成り立たなくなる。 

 

■県への申し立ては「むしろ良かった」 

 

 ――「そんなことは言っていない」と言いますが、組合は報道軽視とも受け取れるような発言が記載された臨時団体交渉の議事録を作成しており、県の労働委員会にも提出しています。 

 

 それは労働組合で作った議事録でしょ。そこには私に対する批判が書かれていて当然だろう。 

 

 私は組合が県の労働委員会に申し立てをしてくれて、むしろ良かったと思っていた。 

 

 ――良かった?  

 

 そりゃそうだ。武井社長が「取材に行くな」と言ったとか、ありもしないようなことを書いているのだから。私が良かったと思ったのは、そこで労働委員会という第三者が入って判断してくれるようになったこと。実際、組合の申し立てに対するわれわれの考えを労働委員会にすでに提出している。 

 

 労働委員会の調停が2月5日に予定されていたから、そのタイミングで組合の主張に対してある程度歩み寄る形にするつもりだった。救済申し立ての時点で私がコメントを出さなかったのは、話したところで言い訳だと取られて、混乱を招くだけと考えたからだ。 

 

 ――群馬テレビは10年間黒字が続いていて、倒産寸前というわけでもありません。急速に物事を進めすぎて現場の混乱を招いた、という反省はありませんか。 

 

 私が社長に就任する前は、ずっと赤字が続いていた。そんな中で黒字を維持するために私が何をしたか。社員に負担をかけるようなことは、いっさいしていない。 

 

 

 それまで20年以上使っていたエアコンを新しくして、電気も蛍光灯からLEDに交換した。さらに残業時間も減らした。これによって年間4500万円かかっていた電気代が、直近では年間1200万円にまで下がった。 

 

■生き残れる道を模索してきた 

 

 ――経営環境が厳しくなる中で急激なコスト削減を進める一方、開局以来初の株主配当を出したことを“矛盾”と受け止める向きも社内にはあったようです。 

 

 本当はもっと早く配当を出したかった。創業から約50年で一度も配当を出していない。これは通常の経営ではない。株主も大事なステークホルダーなのだから、配当を出すのは当たり前のことだ。総額500万円程度で、それほど大きいわけでもない。 

 

 従業員についても、2022年の4月には群馬銀行に見劣りしていた初任給を16万5千円から22万円に上げた。当然、それ以上の社員の給与も上げている。労働時間が減っただけでなく、給与面でも良くなっている。 

 

 社員にはできる限り給与を払いたい。会社には社員が60人いて、関連会社も合わせると80人になる。3人家族だとすると240人だ。群馬テレビが潰れれば、この社員の家族を含めて生活が狂っちゃう。社長として絶対にそんなことはできない。 

 

 ――群馬テレビをどんな会社にしたかったのでしょうか。 

 

 どんな状況になっても生き残っていける会社にしたかった。それだけだ。生き残る道は、社員の能力を引き上げるしかない。私の在職中に働きやすい環境は作れたと思っている。 

 

 会社が生き残れる道をみんなで模索してきた中で、今回のことが起こった。それが一番の悔いだ。自分としては10年間それなりにやってきたと思う。 

 

髙岡 健太 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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