( 132677 )  2024/01/26 14:32:45  
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パソナグループが淡路島に本社機能の一部を移転して、島全体の活性化を目指している様子が取材された。

約1200人の社員を淡路島に移動させ、地域の活性化に取り組む一方で、シングルマザーの支援やインターナショナルスクールの設立など、子育て環境の整備にも着手している。

淡路島在住者からは好評で、移住を希望する人が増えている。

また、音楽家やシェフなどの雇用も提供し、地域の活性化に貢献している。

パソナグループの取り組みは淡路島内だけでなく、他の地域にも広まる可能性がある。

(要約)

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淡路島に本社機能の一部を移転したパソナの今を取材した 

 

 パソナグループが2020年9月に表明した、東京都心部の大手町から兵庫県・淡路島への本社機能の一部移転が起爆剤となって、淡路島が活性化している。 

 

【画像】淡路島のおしゃれなオフィス、働く3人のシングルマザー、会社併設の無料インターナショナルスクール(全9枚) 

 

 同社は24年5月までに本社勤務社員の3分の2に当たる約1200人が淡路島に転勤する体制を目指し、島内にオフィスや社員寮を整備してきた。代表の南部靖之氏も淡路島に移住し、ワーケーションを実践。島内のオフィスに通勤している。23年5月には約1050人が淡路島で働いており、目標の9割近くに到達した。同社広報によれば「社内でも淡路島へ移住した人たちからの評判を聞いて、移住を希望する人が増えている」とのことだ。 

 

 パソナグループは、さらに進んだ取り組みに挑戦している。自然に恵まれた淡路島で伸び伸びと子どもたちが育つように、シングルマザーの支援、インターナショナルスクールの誘致など、子育て環境の整備にも取り組んでいる。そればかりではなく、同社は淡路島に観光客を呼び込む、テーマパーク、飲食店、観光物販店、ホテルを多数経営して、過疎化が止まらなかった島内ににぎわいを創出。コロナ禍で仕事がなくなった音楽家やレストランのシェフたちに、パソナが経営する施設で働く場をも提供して喜ばれている。同社は淡路島での取り組みの成果を各地に拡散し、第2、第3の地方創生に取り組む計画を打ち出している。 

 

 現在、主に事業展開しているのは北部の淡路市である。淡路島は北から、淡路市、洲本市、南あわじ市と3つの市で構成されており、明石海峡大橋を往来する高速バスで、神戸市内の高速舞子バス停から、淡路市の玄関口である淡路ICバス停前までわずか約7分。神戸の繁華街、三宮からも40分弱でアクセスできる。 

 

 淡路市は05年、津名郡の津名・淡路・北淡・一宮・東浦の5町が合併して誕生した。23年4月1日時点で人口は約4万2000人だが、過疎により合併前から大幅な人口減が続いてきた。国勢調査によれば、00年には約5万2000人の人口があったので、当時より2割も減っている。 

 

 ところが、20年には転入者が転出者を上回る「社会増」に初めて転じた。同年の転入は兵庫県の推計で1321人。それに対して転出は1252人で、69人の増加だった。以来、21年は139人増、22年は313人増と、社会増が続いている。パソナグループをはじめとする企業誘致の成果が出たと淡路市役所は喜んでいるようだ。今や淡路市内に30社以上が新しく事業所を置いているという。 

 

 淡路市内に分散するパソナグループのオフィスのうち最大の規模を有する「パソナワーケーションハブ志筑」は、島内に2カ所あるイオンの1つ「イオン淡路店」の3階部分をまるごと借り切っている。仕事が終わって買い物をして帰るには最高の環境だと社員に好評だという。同オフィスでは約300人が働いているが、そのうち8割は女性だ。 

 

 社員専用の駐車場が屋上にあり、快適に通勤できる。車を持たない人も、路線バスの停留所がすぐ近くにあるため便利だ。社内施設を循環するシャトルバスもあり、運転免許がなくても就労が可能になっている。 

 

 パソナグループは淡路島で「ひとり親働く支援プロジェクト」という、子育て中のシングルマザーやシングルファーザーを支援するプロジェクトを推進している。社宅を用意し、働く時間帯に柔軟性を持たせるなど、子育てが困難とされるひとり親に、働きやすい環境を提供している。これまで30人ほどを採用し、退職者は3人と定着率が高い。 

 

 

 今回、ひとり親働く支援プロジェクトで就職した人を取材した。パソナワーケーションハブ志筑で働く岡亜沙美氏は、同じ淡路島でも洲本市出身のUターン組だ。セールスサポート・オペレーション本部に勤務する。 

 

 リクルートコンサルティングと呼ばれる営業部門が獲得してきた求人データを、社内のフォーマットに則って入力代行する営業支援業務と、代表電話に掛かってきた電話の受け付けを行っている。 

 

 営業支援業務について、これまで求人データは全国に散らばる営業メンバーが各自でPCに入力していた。ところが作業がなかなか煩雑で、入力に時間が取られて肝心の営業が滞りがちだったという。それならば、淡路島で入力作業を集約して行った方が、営業担当者がもう1軒、2軒と数多く企業を訪問できる。また、全国からかかってきた代表電話は、淡路島でまとめて受けて、内容によって各部署に振り分ける。 

 

 岡氏はUターンするまで千葉県の外房に住んでいて、電車で東京まで移動する機会も多かった。アクアラインで東京や横浜とつながっている千葉と、明石海峡大橋で大阪や神戸とつながっている淡路島は、環境として似ていると実感している。パソナが淡路島でワーケーションを始めるというニュースを見て、自分も故郷で働いてみたいと思ったという。22年3月に入社し、23年6月からは管理職であるチーム長に昇進した。 

 

 「淡路島はシンガポールの国土くらいの広さがあって、もっと発展するポテンシャルを持ちながら、おじいちゃん、おばあちゃんしか住んでいないと見られているのはもったいない。自分の力で活性化できたら」と、岡氏は淡路島ライフにやりがいを感じている。小学生の息子は関東のイントネーションで話すので、転校した当時はクラスメートに少しいじられたが、問題なく溶け込んでいる。 

 

 同じく同所で勤務する高川未来氏も、実家が南あわじ市というUターン組。キャリアコンサルティング部門が面談した求職者の情報を求人企業のシステムに登録して、推薦する業務をしている。求職者によってはPCを使えず、手書きの履歴書や職務経歴書を作成している人もいるので、PCに入力し直す書類作成代行も行っているという。 

 

 高川氏は21年7月に入社。娘が2歳と小さかったこともあり、あたたかい島民の気質や食べ物がおいしいことなど環境面を考慮して、もともと山梨県からUターンしていた。ひとり親働く支援プロジェクトの入社式が淡路島で行われたニュースを見て応募したという。 

 

 最初は契約社員として働き始めたが、キャリアをステップアップし22年12月に正社員になった。チームは異なるが、岡氏と同じく23年6月から管理職としてチーム長を任されている。 

 

 「正社員の管理職でありながら、時短勤務ができるのがありがたい」と高川氏。本来なら午前9時から午後5時半までが勤務時間だが、娘の保育所への送迎が考慮されて、午前9時半から午後4時半まで、6時間勤務で働いている。 

 

 

 ここまで紹介した岡氏と高川氏はUターン組だが、ひとり親働く支援プロジェクトで入社した人は、淡路島と縁もゆかりもなかった人の方が多い。岐阜県から移住し、21年2月に入社した小林千紘氏はIターン組の一人だ。「パソナファミリーオフィス」で、総務として勤務している。 

 

 同オフィスは22年4月から、兵庫県芦屋市の「芦屋インターナショナルスクール」と提携した「Awaji Island International School」を併設。4歳の子どもと一緒に通勤し、勤務中は託児所機能を兼ねたスクールに預けて、帰宅時は一緒に帰るのが日課になっている。 

 

 小林氏は滋賀県生まれ。歯科衛生士の資格を持っており、日本のどこでも働けることから、海の近くで食事がおいしく、景色がきれいな場所を関西圏で探していたところ、パソナのひとり親働く支援プロジェクトが目に留まった。 

 

 歯科衛生士は就業時間が長い。夜遅くまで子どもを預かってくれる保育園があるのか、不安があったという。そこで歯科衛生士を続けるより、定時で帰れて社内に託児所がある環境を優先し、淡路島のパソナの管理部門に就職した。小さい子どもはよく熱を出すなど体調を壊しがちだが、在宅勤務が可能なので助かっていると話す。これまでの歯科衛生士の仕事では在宅勤務ができなかった。 

 

 オフィスのすぐ前にはドラッグストアがあり、スーパーやコンビニも近い。かなり大きな病院もあり、日常生活で不便は感じない場所といえる。本来は入学するのに高額な学費が必要なインターナショナルスクールだが、無料の福利厚生として子どもを通わせられ、英語力が身に付けられる。これも大きなメリットだ。小学生向けには放課後に通うアフタースクールも開校しており、英語だけでなくサッカーやバレエ、空手なども習える。 

 

 小林氏は貯金をはたいて移住し、1年後には寮から出て35年ローンで一軒家も購入。「子育てのしやすさでは、感謝しかない」と話していた。 

 

 

 現在淡路島で働くパソナグループ社員は、島内の雇用やU・Iターンで中途入社した人ばかりでなく、東京から移住した人が主流だ。パソナグループ執行役員経営企画部長の岡田智一氏は、20年9月に淡路島に移住した。 

 

 現在は社員寮に暮らしているが、東京時代は新宿区・神楽坂に住んでいた。もともと世田谷区に住んでいたが、京王線とJR中央線の混雑が激しく、片道1時間の通勤を苦痛に感じ、オフィスに近い神楽坂に転居したという。しかし、家賃を抑えるために夫婦と娘の家族3人が住まうには狭い部屋を借りていた。淡路島では、住まいも広くなり、ゆったりと暮らせている。 

 

 23年には、生まれも育ちも東京で、長らく都内で1人暮らしをしていた母も移住し、3世代で暮らしている。淡路島について何の知識もなかった母だが、22年に旅行で来て1週間を過ごすうちにすっかり魅了され、自ら望んで移ったという。 

 

 淡路島に移住してからの岡田氏は、電車通勤のストレスがなくなり、海を眺めながらの通勤ドライブがむしろリフレッシュになっている。「この違いは大きい」と岡田氏は強調する。東京にいたころは、妻もパソナの社員だが子ども1人を育てるのが精一杯だった。しかし、淡路島に来て、2人目も考えるようになった。 

 

 東京では、平日に仕事を終えてから保育園に子どもを迎えに行き、土日で習いごとをさせる忙しいローテーションだった。淡路島に来てからは、平日に子どもを預かってくれるインターナショナルスクールやアフタースクールがあり、土日は家族でオフをのんびり過ごすようになった。 

 

 「コロナ禍で娘は友達と交流できず、家と保育園を往復するだけ。公園に連れて行くと驚くほど混んでいて、遊ばせられる状況にありませんでした。自分自身も在宅勤務が多くなり、働き方を見直すようになりました」と岡田氏は当時の状況を語る。当時、商業施設もテーマパークも休業しており、家族で行く場所は公園くらいしかなかったのだ。それならばソーシャルディスタンスが自然と取れる、淡路島で生活を変えたいと考えた。 

 

 パソナは08年から淡路島で、農業活性化と独立就農を支援する地方創生事業の「パソナチャレンジファーム」に取り組んでおり、岡田氏は何度も経営企画の仕事で足を運んでいた。そのため、淡路島で生活するイメージはできていたそうだ。自宅から徒歩圏にドラッグストアやコンビニ、さらにスーパーが2軒あり、日常生活には困らない。月に一度、車で約30分の距離にある神戸で大きな買い物をすれば、事足りるという。 

 

 「インターナショナルスクールのおかげで、娘はひらがなより先にローマ字を覚えた」と、岡田氏は子どもの成長に目を細める。パソナグループでは大手学習塾と提携して、オンライン授業を受けられる体制も整え、進学校に行くための受験勉強も可能としている。距離的に神戸市内の灘や六甲学院のような名門私立中学・高校への通学も可能である。 

 

 パソナグループが目指しているのは、淡路島でも東京でも働ける、ライフスタイルに合った働き方だ。淡路島でも、子どもたちが東京と同等の教育が受けられるように、インターナショナルスクールを新たに作るなど、子育て環境の整備も格段に進んでいる。 

 

 同社の取り組みは、移住者が自然に恵まれた自由な雰囲気で働けるといった段階から、国際的に通用する子どもが育つ場所づくりへと、本格的な進化を遂げようとしている。 

 

(長浜淳之介) 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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