( 133069 ) 2024/01/27 16:23:41 0 00 「安くてラッキー」と言ってる場合でもない町中華をめぐる苦しい状況と、半チャンラーメンが静かに「消滅」していく“切ない理由”とは?
「半チャンラーメン」。
ラーメンに半チャーハンが付いたセット。ラーメンを食べたいがチャーハンも食べたい。2つ頼むのもやりすぎだな。そんなときにうれしいのが半チャンラーメンだ。安くてお腹いっぱいになれる、お腹を空かせたサラリーマンの味方だ。
【写真で見る】絶品だった「たいよう軒」の半チャンラーメン
■「半チャンラーメン」の聖地・神保町にも変化の波が
東京・神保町は「半チャンラーメン」の聖地として知られる。神保町はカレーのイメージが強いが、実は「半チャンラーメン」の街としても知られ、「さぶちゃん」「伊峡」「成光」「たいよう軒」が、「神保町半チャンラーメン四天王」として、多くの人に愛されてきた。
「半チャンラーメン」の元祖(諸説あり)として知られるのが1968年創業の「さぶちゃん」。店主の木下三郎さん(さぶちゃん)が、「ラーメンとチャーハンを両方食べたい」というお客さんのリクエストに応えたのが始まりとされる。
生姜の効いたラーメンのスープと、醤油の濃いチャーハンが特徴で、さぶちゃんがタバコを吹かしながら中華鍋を振るう姿は昭和の名残のような光景だった。
「さぶちゃん」は2017年11月をもって半世紀以上の歴史に幕を下ろした。
そして、今年1月26日をもって「たいよう軒」が閉店となった。
「たいよう軒」は神保町の交差点からは少し離れた九段下寄りにあるお店で、「さぶちゃん」「伊峡」「成光」の「御三家」に比べると少しツウなお店として知られていたが、「四天王」として長くその名が語られてきた。
閉店のニュースを聞き、筆者も慌てて最後の「たいよう軒」に足を運んだ。
■四天王の中で、いちばんのラーメン
「たいよう軒」はなんといってもラーメンがとびきり美味しい。
筆者個人的には四天王の中でいちばんラーメンが美味しいのはこの「たいよう軒」だと思う。ラーメンはこの令和の時代でも500円だった。
寸胴には大きなチャーシューの塊肉が入っていて、スープと一緒に煮込んでいる。骨だけではなく肉の旨味もじんわりと感じる醤油スープ。
ここに合わせるのが、上野にある老舗・タチバナ製麺所の細ちぢれ麺。細めながらモチッとした食感で、麺量もあり、食べ応えバツグンだ。
そして特筆すべきはチャーシュー。分厚くてとても柔らかく、一口食べただけでお店の自慢の逸品だとわかる。お腹が空いているときは迷わずチャーシューメンだった。
半チャーハンは「半」とは思えないサイズ。他店とは違い大きなお皿に盛られるため、半チャンラーメンを注文した客は隣の席に迷惑がかかるぐらいのサイズ感だった。
店主の中華鍋のカンカンカンという音のボリュームがすさまじく、ラーメンを啜りながら何度もビクッとしたことがある。
パラパラではなくモチッとした米の食感が印象的なチャーハン。強火で炒めて表面を香ばしく焼き上げており、ところどころ焦げが出ているのがうれしい。これぞ町中華のチャーハンだ。
閉店のニュースを聞いて、多くの常連やファンたちがお店を訪れた。「たいよう軒」に行列ができているのを久しぶりに見た気がする。
高齢の店主さんと女将さんで切り盛りされており、女将さんは何度も腰が痛そうにしていた。体力的にも限界が来たのだろう。
厨房に閉店を告げる小さな紙が貼られていた。
お知らせ 長い間ご利用いただきましたが、この度一月二十六日をもちまして、閉店させて戴きます。 長年のご愛顧に感謝申し上げます。
ありがとうございました。 たいよう軒
■半チャンラーメンが衰退する3つの理由
2017年11月に、筆者は「半チャンラーメンが静かに衰退している理由」という記事を配信した。冒頭で触れた、同じく「神保町半チャンラーメン四天王」の一角だった「さぶちゃん」閉店時に書いたもので、半チャンラーメンが静かに衰退する理由を①価格の問題、②現在の健康志向に合わないこと、③つくる作業に手間がかかることと分析していた。
ラーメン店や中華店には、つねに「1000円の壁」という課題がある。1000円を超えると、いくら美味しくても食べ手が高いと感じてしまう傾向があり、値段を上げにくいなかで、庶民の味方である「半チャンラーメン」を1000円以上にするのはまずニーズに合わない。「厨房で鍋を振るう」という工程が1つ加わると、作る側にとっては想像以上に大変になるし、そして、そもそも現在の健康志向には合わない……。このような分析のうえで、さらに、当該記事では「今後はチェーン店の独擅場になるだろう」と予想した。
しかし、それから6年以上が経過し、事態は想像以上になっている。
まず、ラーメンの「1000円の壁」問題が想像以上に進展した。ラーメン単品で1000円で提供することが難しい中、半チャーハンをセットで出すというのはまったく現実的ではない。
半チャンラーメンは持ち物件で、家族経営で運営していてランニングコストの高くない老舗の町中華だからこそ、提供できるメニューなのである。
「たいよう軒」のラーメン&半チャーハンはなんと750円。
今この価格帯で半チャンラーメンを提供できるお店がどれだけあるだろうか。ラーメン単品でも750円で出すのは難しいのではないだろうか。
■薄れる「家業」という考え方と「後継者問題」
町中華においては、「後継者問題」がネット上で指摘されることがよくある。しかし、筆者はこれについては、現実は少し違っていると感じる。
実際は、後継者や店の存続についてははなから考えておらず、自分の代で終わりにしようとしているお店が多いのが現実である。「家業」という考え方は薄れてきており、弟子でも入れない限り承継はない。だが、家族や親戚でない人を雇用すれば賃金問題が発生し、値上げせざるをえなくなる。
つまり、町中華の後継者問題は、「1000円の壁」問題とセットなのである。
町中華とともに姿を消しつつある「半チャンラーメン」。後継者のいない老舗は本当にいつなくなるかわからない。食べたいと思ったらすぐ、迷わず足を運ぶようにしたい。
井手隊長 :ラーメンライター/ミュージシャン
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