( 133146 )  2024/01/27 22:39:51  
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今回の記事は、吃音を持つ芸人のインタレスティングたけしさんについてのインタビュー記事です。

たけしさんは吃音を利用してお笑いの世界で活動しており、自虐ネタやギターを弾きながら笑いを提供しています。

吃音の特性を芸に取り込んでおり、吃音者に対する理解を広めたいと思っています。

過去に吃音が番組でからかわれたことによる問題もあり、公表したり、理解を求めたりと苦労もしていますが、吃音を超えて芸のネタにすることで共感を得ることができると言われています。

(要約)

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インタレスティングたけしさんのネタとインタビュー 

 

 言葉がなめらかに出ない吃音(きつおん)を逆手にとって、お笑いの世界で生きようとする芸人がいる。フリーで活動するインタレスティングたけしさん(44歳、通称インたけ)だ。これまで公言してこなかったが、テレビ番組に端を発したある騒動をきっかけに「吃音芸人」を名乗り始めた。 

 

【写真】吃音の若者が開いた「注文に時間がかかるカフェ」 

 

インタレスティングたけしさんはかつてミュージシャンを目指し、路上で弾き語りもしていた 

 

 「で、で、では、最後にう、う、歌を歌います」 

 ギターをかき鳴らしながら、たどたどしい口調で自虐ネタをひとしきり披露。すると、突然、ビートルズの「レット・イット・ビー」のワンフレーズを流ちょうに歌い上げた。しゃべる時、歌う時で別人のようになるギャップが笑いのツボをくすぐる。 

 多くの吃音者は歌う時には症状が出ないとされる。インたけさんは、こうした吃音の特性を芸に取り込んでいる。 

 

 人口の1%が持つとされる吃音。言語障害の一つで原因はよく分かっていない。連発(わわわたしは)、伸発(わーーーたしは)、難発(………わたしは)といった症状がある。特定の言葉が出づらかったり、置かれた場面によって流ちょうに話せなくなったりするケースが多いが、人によって症状はさまざまだ。 

 物心がついた頃から連発の症状があり、小中高ではいじめられ、殴られさえした。でも持ち前の陽気さは失わず、中学生から好きなラジオ番組に自作のお笑いネタを投稿し始めた。 

 授業でなかなか覚えられなかった英単語の「interesting(面白い)」をペンネームに組み入れ、今の芸名につながった。 

 

 芸人を目指したのは、20代半ば。ある日、デパートで清掃の仕事をしている時、おもちゃ売り場で子供の大便を見つけた。どう処理すればよいか分からず、上司に報告する時に、慌てていたのか「う、う、うんこが……」といつもより症状が強く出てしまった。 

 上司は素朴にユーモラスに感じて「そのしゃべり方、面白いよ」「清掃員より、お笑いの方が向いてるんじゃないの」と言ってくれた。「冗談のつもりだったんでしょうが、僕は本気にしてしまったんです」 

 オーディションを重ね、やっと出演できたのは観客が数人しかいないお笑いライブ。ギターを手にコミックソングを披露していたが、図らずもネタの合間のトークで吃音のある独特のしゃべり方がウケた。 

 大手芸能事務所主催のライブでも人気を集めたが、ブレークとまではいかず、テレビに出たのは数えるほどだった。吃音者であることも公言してこなかった。 

 

 

自身の吃音について話す芸人のインタレスティングたけしさん 

 

 転機となったのは、思いがけずも実現したTBSの人気番組「水曜日のダウンタウン」への出演。昨年7月に放送された番組はドッキリで、先輩芸人のチャンス大城さんから理不尽な理由で叱られるというもの。 

 「めめめ、面談、面談に来たみたい」などとどもってしまい、その様子がスタジオの笑いを誘った。 

 「テレビ出演に手応えを感じていました」というインたけさんの思いとは裏腹に、事態は予想外の展開をたどる。 

 放送後、NPO法人「日本吃音協会」(東京都)が吃音者をからかうような内容だったとして、TBSに表現上の配慮を求める抗議文を提出した。 

 自身も吃音があり、当時、同協会の理事長だった藤本浩士さん(40)は「番組を見た当事者の会員から『昔のいじめられた記憶がフラッシュバックした』などの声が寄せられ、TBSに対し編集上の配慮を求めました」と話す。 

 

 協会がSNS(ネット交流サービス)で抗議を公表すると、ネットで賛否を呼んだ。抗議に共感の声を上げる意見があった一方で「吃音が笑われているわけではない」「吃音者がテレビに出られなくなる」といった意見が相次いだ。 

 インたけさん自身は、番組で吃音がからかわれたとは全く感じていなかっただけに「突然のことでびっくりしました」。騒動後はX(ツイッター)で「またテレビジョン出たい‼」とだけつぶやき、沈黙を貫いた。 

 マイナー芸人にとってテレビ出演の価値は大きい。事を荒立てることになり「もう出られなくなるのではないか」と感じたからだ。 

 

ギターを手に持ちネタを披露する芸人のインタレスティングたけしさん 

 

 騒動から1年。戸惑いつつも「僕を通じて、吃音に対する理解がもっと広まればいいのではないか」との気持ちになった。今年8月、当事者でつくる自助団体「言友会」の関東ブロック大会に招かれた。 

 持ちネタを披露し、講演では自身の半生を振り返り、こう訴えていた。「吃音の個性を認め、支えてくれる仲間もいます。決して自分がやりたいことを諦めないでほしいです」。それは自身への励ましでもあった。 

 「僕の芸を見て、笑って、少しでも楽になる当事者が増えればいい」と思う半面、吃音を理由にテレビに出にくくなるのではないかとの不安も残る。だからこそ吃音への理解をこれからは広げようと決めている。 

 

 

 吃音がありながらも、お笑いや音楽など表現活動で独自の表現方法を確立し、成功した人もいる。 

 米国の歌手、スキャットマン・ジョンさんは吃音を逆手にとった独特の歌い回しで観客を魅了。デビューアルバムが世界中でヒットし、日本でもテレビCMに出演した。 

 落語家の三代目三遊亭円歌(えんか)さんは吃音の表現を組み入れた演目「授業中」で人気を博した。 

 

インタビューに応じるインタレスティングたけしさん 

 

 インたけさんのスタイルは、たどたどしい口調で失敗談や自虐ネタを披露するもので、シュールで独特の世界観がウリだ。漫才やコントなどで流ちょうさが求められるお笑い業界では、異色の存在だ。 

 自身の芸風については「他人の吃音をからかうのではなく、吃音をもつ自分を笑いの対象にしています」と強調する。 

 今回の番組を巡る騒動について、TBSは毎日新聞の取材に対し「(番組内容について)吃音、あるいは吃音当事者をからかう意図は全くない」と説明した上で「番組制作において、発話障害を理由に出演の可否を判断することは一切ない」とした。 

 

 では、何が問題だったのか。「制作側、出演者、抗議者の誰が正しく、誰が間違っていたのかという問題ではありません」。こう指摘するのはお笑い評論家の西条昇・江戸川大教授だ。 

 番組について「ドッキリという企画の性質上、どうしてもだまされた人の反応をからかい、楽しむ内容になりがちです」と指摘。「ドッキリ中に症状が出たことで、吃音が周りからからかわれている、ばかにされていると感じる人がいたのでしょう」と話す。 

 

 近年は、ひとり芸ナンバーワンを決める「R―1ぐらんぷり」で2018年に優勝した視覚障害のある漫談家の濱田祐太郎さんをはじめ、吃音のみならず自身の障害を芸に取り入れて活動する人が増えつつある。 

 西条教授は彼らの多くが批判されず、共感されるのは「自身の障害を受け入れ、その上で芸のネタにするという『強さ』や『潔さ』が感じられるからです」と言う。 

 西条教授は「コンテンツが『笑い』として受け入れられるためには、作り手と受け手の共通理解が不可欠」と強調。「障害が原因で、表現活動の幅が狭まることは望ましくありません」としつつも「制作側が十分に障害の特性を理解し、出演者とともに納得のいくコンテンツをつくることが必要です」と語った。【遠藤大志】 

 

※この記事は、毎日新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。 

 

 

 
 

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