( 133213 ) 2024/01/27 23:56:21 0 00 pict-japan - stock.adobe.com
化学メーカーで勤務を行う傍ら、経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。 『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社ワールドの業績について紹介したいと思います。
卸売業として始まったワールドは90年代に百貨店への出店を進め、2000年代からショッピングセンターへの出店を強化しました。中価格帯~高価格帯のブランドを数多く展開し、一時期は売上高3,000億円を超えましたが、残念ながら現在では縮小に転じ不採算店の閉店を続けています。そして近年では新たな事業を通じて巻き返しを図っているようです。同社の業績が悪化してしまった背景や、今後の施策についてまとめました。
株式会社ワールドは1959年、ニットセーターの卸売業として神戸市で開業しました。67年からはセーターだけでなくトータルブランドを手がけ、74年からは子供服分野にも進出し、卸売業として成長していきます。
その後1975年からはアンテナショップの展開で小売事業にも参入し、82年に売上高が1,000億円を突破しました。1984年からメンズブランドの「TAKEO KIKUCHI(タケオキクチ)」、93年からSPA(※)ブランドとして「UNTITLED(アンタイトル)」を展開し、現在では両者ともワールドの主力ブランドのひとつとなっています。
※Speciality store retailer of Private label Apparelの略、商品企画や生産、物流や小売まで自社で管理すること
1990年代から百貨店への出店を強化し、その後、時代の流れに沿って2000年代からはショッピングセンターへの出店を強化しました。2002年には売上高が2,000億円を超え、その僅か5年後には3,000億円を突破しました。
2006年には「SHOO・LA・RUE(シューラルー)」の展開を始めています。当時は年間10以上のペースで新ブランドを立ち上げており、その圧倒的なスピードは業界でも注目されていたほどです。
ピーク時には100以上のブランドを展開していましたが、2010年代から売上高は顕著に下がり続けました。主な要因はユニクロやしまむら、さらにはH&M、フォーエバー21といった海外勢の台頭によるアパレル業界全体の低価格化です。低価格でも品質の優れた服が手に入るようになり、中価格帯をメインとするワールドのブランドは競争力を失いました。
前提があるとはいえ、ブランド数を増やしすぎたことが業績悪化の一因です。業界3位の株式会社アダストリアが展開する「グローバルワーク」、「ローリーズファーム」の認知度は高い一方、ワールドが展開するブランドの認知度は正直なところあまり高くありません。ブランド数を増やしすぎたせいで代表的なブランドを確立できず、集客力を強めることができなかったと考えられます。
また、もともと百貨店事業に力を入れていたためか小型店が多く、競合と比較して高コスト体質となっていたのも苦境を招いた原因です。ユニクロのように少ない人材で売場を回す大型店に対し、小型店メインの経営は人件費を圧迫します。アパレル大手の販管費率はおおむね40%台に収まりますが、ワールドでは現在でも50%を上回っています。
高コスト体質から脱却すべく2015年以降は年間数百人規模の退職とブランド数削減を継続し、2023年2月末時点でブランド数は約60まで減少しました。まだまだ多い印象ですが、それでもピーク時の100よりはかなりスリム化できています。
次に近年の業績を見ていきましょう。2020年3月期から2023年3月期までの業績は次の通りです。
【株式会社ワールド(2020年3月期~2023年3月期)】 売上収益:2,363億円→1,803億円→1,713億円→2,142億円 営業利益:123億円→▲216億円→22億円→117億円 最終利益:80億円→▲171億円→2億円→57億円 店舗数:2,462店→2,155店→2,361店→2,224店
2021年3月期はやはりコロナ禍で大打撃を受けましたが、翌年度はなんとか黒字に抑えました。従来より継続してきた不採算店の縮小とブランド数削減の効果が現れた形といえます。
翌22年3月期は店舗数が200以上増えていますが、これは子供服ブランドを展開するナルミヤ・インターナショナルを子会社化したためです。とはいえ不採算店の閉店も継続しており、同期中に531店舗が退店しました。そして2023年3月期は以前の水準には未達とはいえ、アフターコロナでの好景気(中間層)やリベンジ消費により売上が回復しました。
最後に今後の方針について見ていきましょう。ワールドは現在、アパレル小売を手がける(1)ブランド事業だけでなく、(2)デジタル事業と(3)プラットフォーム事業を展開しています。(2)では自社ECのほか、他社ECの運営代行や高級バックのレンタルサービスなどを展開しています。(3)はアパレル他社向けの店舗開発や商品開発、販売代行サービスなどを提供しており、一言でいえば他社向けのコンサルティング事業です。そしてワールドは今後、(2)と(3)の強化を図るとしています。
(1)ブランド事業:1,486億円→1,406億円→1,814億円 (2)デジタル事業:95億円→109億円→119億円 (3)プラットフォーム事業:222億円→197億円→209億円
各事業の売上高は2021年3月期から23年3月期まで上記の通り推移してきました。主力の小売には届いていませんが、重要な収入源であることが分かります。特に(3)では商品提案など個別のサービスごとに提供しているきらいのあった従来の動きから、今後は戦略立案から業務運用まで一気通貫したサービス提供を目指すようです。(2)、(3)事業の躍進だけで以前の全社3,000億円体制にまで戻る可能性はかなり低いですが、これまでのノウハウを活かし、今後は他社ブランドの成長に貢献することでしょう。
<TEXT/ 山口伸>
【山口伸】 化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_
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